「自分にもしものことがあったら、ペットをどう守ればいいのか......」高齢者や単身者の中にはそういった不安を抱える人も少なくはないはず。
飼い主の身に何かあったとき、ペットを守るための切り札になるのが「ペット後見」という手段。
ペットが第二の幸せをつかむための決断
今回は、「飼い主の入院や死亡により犬猫が飼育放棄されないようにしたい」をテーマにペット後見について解説する『自分の死後も愛犬・愛猫を幸せにする方法』(ワニブックス)の内容の一部をご紹介。
ペット後見とは、最後まで飼育の責任を果たす取り組みの総称です。飼い主が入院や死亡などにより、ペットを飼えなくなる事態に備え、飼育費用、飼育場所、支援者をあらかじめコーディネートしておくことを指します。(同書より抜粋)
同書の著者である獣医師の奥田 順之氏が設立し、ペット後見に取り組むNPO法人「人と動物の共生センター」を実際に利用した人の事例をお届けします。
新しい幸せに出会った黒柴「まきちゃん」
黒柴のまきちゃんは、当時10歳の女の子。飼い主さんは、末期がんと診断され、まきちゃんのこれからを心配されていました。飼い主さんが入院することになった時、最初はお姉さんがまきちゃんを預かるという対応を選択されましたが、慣れない環境から吠えることが続き、近隣との関係に影響が出るようになり、「このままでは、まきちゃんにとっても良くない」と判断され、当団体に所有権移転し、新しい飼い主さんを探すこととなりました。
新しい家族を探すために、まきちゃんは当団体の飼育施設での生活をスタート。度重なる環境の変化や、元々吠えやすい気質もあり、夜鳴く行動が強く出ていました。とはいえ、私自身、獣医行動診療科認定医の資格を持っており、しつけや行動学が専門ですし、当団体には複数のトレーナーもいます。そうした環境の中、行動治療・トレーニングを行い、徐々に落ち着いた生活を送ることができるようになりました。
まきちゃんの保護から数カ月経った頃、落ち着いた生活ができていたこともあり、新しい飼い主を探しはじめました。インターネット・SNSでの発信に合わせて、イベントに出展して、保護犬猫譲渡のPRも行っていました。ちょうど夏休みだったこともあり、息子と一緒に作った等身大パネルを展示して、イベントで使ってもらっていました。
そんな中、木下さんご夫妻(仮名)と出会いを果たすことになります。
「犬を迎えるなら、ペットショップではなく譲渡で」と考えていた木下さんご夫妻。県の愛護センターで講習を受けるなど、準備を進めていた頃、まきちゃんに出会いました。
「イベントでまきちゃんの等身大パネルを見た瞬間、心惹かれて……吸い寄せられるように、翌日には電話して、週末には会いに行っていました」
実は、犬を飼うのは今回が初めて。それでも初対面の時、まきちゃんが足元でリラックスしている姿を見て、「この子だ」と直感したとのこと。「強い攻撃性はなく、柴犬の保護犬の中では飼いやすい子」と説明があったこともあり、トライアルに進むことを決意されました。
まきちゃんは迎えた時点で10歳。「あと何年一緒にいられるのかな……」と不安もあったそうですが、実際に会ってみると、まきちゃんは若々しくて元気。不安な気持ちは消えていきました。共働きだと子犬を迎え育てるのは難しいという現実の中で、トレーニングが入っているまきちゃんとの暮らしは、無理のないスタートだったそうです。
「子犬は可愛さの反面、手がかかるし、どんな性格になるかも未知数。でも成犬は、その子の性格や生活への適応力がわかっているからこそ、自分たちの生活との相性を見極めやすい。もっと多くの人に、その魅力を知ってもらいたいですね」
成犬の譲渡が、特別なことではなく、当たり前の選択肢のひとつとして広がってほしい――。そんな願いも、ご夫妻は持っています。
もちろん、すべてが順風満帆だったわけではありません。トライアルがスタートして2週間くらいは、まだ触らせてはくれないものの、お留守番もできたし、粗相もなかったのですが、事態は変わっていきます。
「これなら家族になれそう! と思いはじめた頃、夕食を作ることもできないほど、要求鳴きが始まってしまって……。初めは"猫をかぶっていた"みたい(笑)。夫が帰宅してまきちゃんの相手をしてくれて、やっと夕食の準備ができるような毎日だったので、夫が帰宅するまではまきちゃんと近所を徘徊(!)していましたね」
トライアルの際に行動が変化することはよくあることです。環境の変化は犬にとってストレスになりますし、世話してくれる人が変わることで、要求吠えや不安からの吠えが増えることがあります。この変化によって、トライアルをあきらめてしまう人もいるのですが、木下さんご夫妻はしっかりと取り組んでくれました。問題行動の改善やしつけ指導は当団体の一番の強みです。しっかりとカウンセリングさせていただきました。
「ゆっくり休める環境を整える」「家の中でもリードをつけておく」「家の中を一緒に歩く」などのアドバイスをおこない、実践してもらうことで、まきちゃんの不安が落ち着いていったそうです。少しずつ落ち着いてきたまきちゃんの様子を見て、正式に譲り受けることを決断されました。
まきちゃんとの暮らしが始まった当初は、大変さに心が折れそうになったこともあったそうですが、ご夫妻はこう語ってくれました。
「あの時、あきらめずに向き合って本当によかった。今では、まきちゃんがいる毎日が本当に幸せです」
旅行の楽しみ方も変わりました。犬と泊まれる宿が少ないため、キャンピングカーを借りて車中泊を楽しむなど、まきちゃんと一緒にできる新しい体験がどんどん増えていったといいます。
「まきちゃんを迎えたことで、行けなくなった場所もありますが、それ以上に新しい楽しみが増えました。私たちの世界が、ぐんと広がった気がします。まきちゃんをきちんと共生センターに託してくださった前の飼い主さん、そしてまきちゃんを私たちにつないでくださった奥田先生はじめ、共生センターの皆さんにも、感謝の気持ちでいっぱいです」


