
最多勝右腕が2枚揃う
クリスマス未明、複数のスポーツ紙(スポニチ、報知)のXアカウントが驚くべきニュースを配信した。「有原航平 日本ハム入り決断 4年30億規模で6年ぶり古巣復帰へ ソフトバンク、巨人との争奪戦に決着」(スポニチ)、「有原航平、日本ハム復帰を決断…新庄ハムにうれしいクリスマスプレゼント 6年ぶり古巣で”恩返し”」(報知)。寝入りかけていたのだが、ガバッと跳ね起きた。有原が自由契約になり、争奪戦の様相を呈しているのは知っていたが、てっきり巨人へ行くものと思っていた。まさかソフトバンク、巨人を向こうに回してファイターズが争奪戦を制するとは。
複数の新聞が報じているので信ぴょう性は高そうだが、早飲み込みはできないなと思った。新聞辞令がひっくり返ることはよくある。つい最近もデュプランティエのソフトバンク入りがほぼ決まったくらいに報じられていたが、フタを開けたらDeNA入りだった。ホークスのエース有原の動向は(セでもパでも)ペナントレースの行方に影響するビッグニュースだ。放っておいても他社が追いかける。半日経てばもっと詳しいことがわかると思った。
そうしたら半日の間に後追いの報道が続々出た。道新スポーツが出て西日本スポーツが出て、ついにNHKまで「ソフトバンクを自由契約の有原航平 日本ハムに6年ぶり復帰合意」と打った。これはすごいことになった。「2年連続最多勝右腕」が伊藤大海と有原航平、2枚揃ってしまう。2人ともカード頭で回せて、イニングが食える。伸び盛りの若手先発陣にも強烈な刺激が加わる。来シーズンはローテに入れるかどうか、熾烈な競争になるだろう。
西日本スポーツの報じるところによると、有原は3年契約が満了、ソフトバンク球団から複数年契約の提示を受けたが、これに断りを入れている。どうも「契約満了の際にフリーエージェントとなる条項を有原側が盛り込んでいたことに加え、米大リーグへの再挑戦を視野に入れていたことから(中略)自由契約になっていた」(中略えのきど)という経緯らしい。驚いたのはソフトバンクからの条件提示は日ハムを上回っていたらしいことだ。まぁ、エスコン移転で攻めの球団経営が可能になったからといって、マネーゲームでソフトバンクや巨人に勝てる気はしなかった。これはフロントの熱意の賜物といっていい。そして有原本人の決断力だ。
相当の覚悟を持っての決断
この移籍のすごいところは誰が考えても「ホークスの戦力を殺ぎ、ファイターズの戦力を増す」ところだ。だって有原は2025シーズン、ホークスのエースだった。将棋でいえば飛車角クラスの大駒を取って、こちらの戦力として使うイメージだ。パ・リーグのパワーバランスが変化する。来季優勝を狙うファイターズとしては勝負手だ。何だか、こう、「球界の寝業師」といわれた根本陸夫氏を思わせるエグさ。いずれ裏話が世の中に出るだろうから、誰がどんな口説き方をしたのか楽しみとしたい。果たして吉村浩さんだろうか。それともかつてその吉村さんから「根本陸夫になりませんか」と口説かれ(とんでもない殺し文句!)日ハム入りを決断した栗山英樹さんだろうか。
そして有原航平の決断の重さを思う。ハムでイニングが食えるということはホークスでイニング食える存在が欠落するということだ。もちろん自分がファイターズに戻るのがどういう意味を持つのか重々認識しているだろう。6年前、米球界に挑戦すべく海を渡り、志半ばで帰国、一転ソフトバンク入りしたことは、口の悪いファンから「有原式FA」と揶揄された。有原はこの3年、風圧のなかで結果を出し続けたのだ。今回のハム復帰は様々なハレーションを巻き起こすだろう。もちろん歓迎するファイターズファンが大部分だと思うが、なかには複雑な思いを抱える者もいる。ましてホークスファンの反応を考えるとなかなか大変だ。おそらくペイペイドームではブーイングで迎えられる。有原の受ける風圧は比べものにならないだろう。それでも尚、彼は決断したのだ。
この3シーズン、ホークスの有原を見ていて感じたことがある。かつてファイターズに在籍していた頃は例えば「インコースを突くのを嫌がる」ような甘さがあった。球威があってアウトコースだけでそこそこ勝てたからなのだが、一度ホークス戦で今宮健太に思い切り踏み込まれて痛打されたことがあって、ああ、有原の甘さは読まれているんだなぁと思った。インコースに来ないなら打者は踏み込めばいいのだ。有原はエリートだった。泥臭い野球が苦手だったろう。
それが姿を変えた。インコースにエグい球をねじ込んでくる。シーズン通しての安定感も増した。ああ、大人の投球だなぁと思った。ハム戦でははっきりヒールだった。風圧のなかで仕事をやり抜くプロフェッショナルだった。ファイターズ先発陣に強烈なキャラクターが加わる。新シーズンが待ち遠しい。