ビザ・ワールドワイド・ジャパンは12月10日、メディア向けに2025年の取り組みと2026年に提供予定のキャンペーンについて説明した。大阪で実施したタッチ決済を中心とした還元キャンペーンが成功を収めたことから、2026年には同様の取り組みを全国に拡大する方針を示した。

また、エージェントAIが新たな購買・決済体験を創出する「エージェンティックコマース」についても、日本での導入に向けた取り組みを進める考えを表明した。

  • 2025年を振り返るVisaのシータン・キトニー社長

    2025年を振り返るVisaのシータン・キトニー社長

タッチ決済のキャンペーンを全国規模で展開へ

同社のシータン・キトニー社長は、Visaの戦略は「プラットフォームを強化し、最高の体験を提供する」というコミットメントに基づいた3本柱で構成されていると説明。その3点とは、「より良い決済体験の提供」「法人決済のデジタル化」「新たな付加価値の提供」であり、これらを継続的に推進してきたと述べた。

  • 2026年にも続くVisaの3本の柱

    2026年にも続くVisaの3本の柱

1つ目の柱である「より良い決済体験の提供」について、キトニー社長は、Visaが最高の支払い方法であり続けるため、以下の2点を掲げていると述べた。「店舗、オンライン、モバイルを問わずあらゆる場所でシンプルかつ安全な決済を提供する」「最適な商品と体験を、最適なタイミングであらゆる人に届ける」。これに加え、5年後、10年後の未来の決済・コマースを見据え、「常に一歩先を行く準備をしている」と強調した。

この観点から2025年に注力したのがタッチ決済の成長であり、キトニー社長は「過去1年、目覚ましい成長だった」と強調した。対面決済におけるカードのタッチ決済利用率は、2023年の15~20%程度から、2025年には約60%にまで達している。すでにタッチ決済対応カードは約1億6,000万枚に上り、この拡大を下支えした。

  • タッチ決済対応のカードも1億6,000万枚に達し、対面のVisaのタッチ決済利用率はグローバルの標準に迫る60%になった

    タッチ決済対応のカードも1億6,000万枚に達し、対面のVisaのタッチ決済利用率はグローバルの標準に迫る60%になった

日常生活におけるタッチ決済の利用もさらに拡大している。コンビニエンスストアでは取引件数が2.2倍、普及率が90%に達し、飲食店では件数4倍、普及率80%となった。ドラッグストアは5.5倍、70%、スーパーは3.2倍、60%と、各業種で大幅な伸長を見せた。

  • 日常利用はさらに伸張。各業態でのタッチ決済の利用率も順調に拡大した

    日常利用はさらに伸張。各業態でのタッチ決済の利用率も順調に拡大した

加えて、公共交通機関におけるタッチ決済乗車も拡大している。すでに導入済み、または導入計画を発表した交通事業者は190社以上に上り、44都道府県をカバーするに至った。世界で1,000以上の事業者がタッチ決済乗車に対応する中、その1割以上を日本の事業者が占めており、単一市場としては最多の事業者数となっている。

  • 世界的に見ても拡大したタッチ決済乗車

    世界的に見ても拡大したタッチ決済乗車

タッチ決済乗車の利用者は、非利用者と比較してカード利用が増える傾向があるという。タッチ決済乗車を開始した最初の3カ月間で、非利用者に比べて取引件数は13%、消費額は12%多く、6カ月後でも取引件数8%、消費額7%多いという結果が得られ、継続的なクレジットカード利用の増加が確認された。

  • カードを使うことが日常的になり、普段のカード利用率も拡大したとの分析

    カードを使うことが日常的になり、普段のカード利用率も拡大したとの分析

キトニー社長は、タッチ決済乗車が新たなカード利用の習慣を形成し、それが日常の買い物にも波及したと分析。「加盟店と地域社会双方の成長を後押ししている」と強調した。

2025年度の主要な取り組みは「大阪エリア振興プロジェクト」だった。これは大阪・関西万博に合わせて、大阪エリアでのタッチ決済利用を集中的に促進する試みであり、キトニー社長は「大きな成果を上げた」と評価した。実際、大阪府内ではタッチ決済利用者が180万人以上増加し、利用率は全国平均(66%)を大きく上回る74%に達している。

  • 大阪エリア振興プロジェクトは成功を収めた

    大阪エリア振興プロジェクトは成功を収めた

  • 大阪におけるVisaカードの成長率は全国平均を大幅に上回った

    大阪におけるVisaカードの成長率は全国平均を大幅に上回った

こうした大阪エリアでの成功と、そこで得られた知見をもとに、この取り組みを全国に拡大するのが2026年2月にスタートする「タッチ決済全国キャッシュレス推進プロジェクト」。これは、大阪での取り組みと同様に、タッチ決済の利用を促すキャンペーンなどを全国規模で提供することを想定。詳細な取り組みは今後決定・発表されるが、特定のエリアに限定せず、全国規模での展開を想定しているそうだ。

  • ここで得られた知見などを基に、全国でもタッチ決済をさらに推進する

    ここで得られた知見などを基に、全国でもタッチ決済をさらに推進する

企業間取引をデジタル化すれば5.7%の利益増に?

2つ目の柱である法人決済のデジタル化について、日本における企業間取引でのカード決済比率はわずか0.7%にとどまっており、韓国の4.4%、米国の3.3%などと比較して大幅に低い現状がある。日本で一般的な銀行振込のような従来型の決済方法では、請求書発行、回収、例外処理などに多くの負担が生じ、その隠れコストは請求金額の4.7%に相当すると指摘した。

  • 世界的にも企業間決済でのカード利用が遅れている日本

    世界的にも企業間決済でのカード利用が遅れている日本

カード決済を導入すれば、逆に不良債権の削減、資金調達コストの低減、キャッシュフローの改善といったメリットが生まれ、売上の最大5.7%に相当する利益が得られるという予測をキトニー社長は示した。

  • 従来型決済には実は隠れコストが4.7%ある、という

    従来型決済には実は隠れコストが4.7%ある、という

  • これに対してカード決済には売上高の5.7%分のメリットがある、という

    これに対してカード決済には売上高の5.7%分のメリットがある、という

キトニー社長は、これらのメリットを強調した上で、デジタル決済ソリューションの導入が日本企業の効率性を高め、コストを削減し、新たな成長の機会をもたらすと述べた。

Visaは、これまで日本特有の事情により法人決済向けのサービス提供を一部控えてきたが、2026年以降は法人決済に注力し、さまざまなサービスを展開していく方針を示した。

クリック決済などトークン化を基盤に新サービスを投入

新たな付加価値の提供として、日本で拡大を続けるEコマース市場に向けた取り組みが説明された。2024年に26兆円規模に達した日本のEC市場はさらなる拡大が見込まれており、「安全で直感的な決済体験への需要はますます高まっている」とキトニー社長は述べた。

  • 対面決済のタッチ決済に対して、非対面決済でも新たな決済体験を提供する

    対面決済のタッチ決済に対して、非対面決済でも新たな決済体験を提供する

これを支える基盤技術が「トークン化」だ。これは、カード番号(PAN)を16桁の別の番号に変換する技術のことで、カード番号自体が置き換えられるため、カード情報の漏えいリスクが減少し、また、カード有効期限が更新されてもトークンが連動するため、カード情報の再登録が不要となり承認率が向上する、というメリットがある。

  • ベースとなる技術がトークン化(トークナイゼーション)

    ベースとなる技術がトークン化(トークナイゼーション)

このトークン化を基盤に、「次世代決済」への取り組みが進展している。その一つが、海外で「Click to Pay」として知られる「クリック決済」だ。これは、Visaのような国際ブランドが提供するウォレットサイトにカード情報を登録することで、決済時にそのウォレットからカード情報が自動入力され、決済が完了する仕組み。

  • 今後の拡大を目指す新たな決済手段「クリック決済」

    今後の拡大を目指す新たな決済手段「クリック決済」

事前に登録しておけば、対応ECサイトでは手入力なしでカード情報を入力できるので承認率も向上。トークン化された情報が入力されるので、トークン自体が流出しても番号悪用の被害が発生しない。さらに、カード情報を入力する際にパスキー認証を併用することで、そのカードを使う人が本人であるとの証明が可能になる。

パスキーは、端末のロック解除(通常は生体認証)を使って安全に本人を認証する技術で、Webサイトのログインなどでも使われている。「Visa Payment Passkey」では、この本人確認の機能を応用し、カードを使おうとしているのが当人であると認証し、EMV 3-Dセキュアのような本人認証サービスとして機能する。アプリでの承認やワンタイムパスワードの入力も不要で、安全性と利便性が高い仕組みとして期待されている。

クリック決済は、すでに米国では提供がされており、対応ECサイトも増えてきている。日本では、Visaがウォレットサイトを公開し、カード情報が登録できるようになっている。対応しているカード発行会社は18社、決済サービスプロバイダは5社が導入予定としている。

  • 2025年度には18社のイシュア、5社のPSPが導入を発表

    2025年度には18社のイシュア、5社のPSPが導入を発表

これはそれぞれ国際ブランドが自社ブランドのカードを登録する形になるので、Visaのサイトからは各カード発行会社が発行するVisaカードの情報が登録できる。今後はクリック決済に対応したECサイトがあれば、クリック決済による支払いが可能になる

なお、現時点ではパスキーの登録はできない状況で、キトニー社長によれば2026年にも利用可能になる見込みだ。カード発行会社がそれぞれパスキーを導入すれば、順次利用できるようになるとしている。

海外では、エージェントAIによって購買や決済が行われる「エージェンティックコマース」が発表されている。例えばAIにハワイ旅行に関するプランを質問すると、ユーザーの情報を踏まえた最適な飛行機、ホテル、アクティビティ、レストランなどを提案。ユーザーが承認すると、エージェントAIがユーザーに代わって購入を完了させる、といった仕組みだ。

  • エージェントAIがユーザーに変わって購買するVisa Infinite Commerceを日本でも展開していく

    エージェントAIがユーザーに変わって購買するVisa Infinite Commerceを日本でも展開していく

エージェンティックコマースにおいても、カード情報が安全に流通するための基盤としてトークン化が活用され、このトークン化の普及が新たな決済体験の提供に繋がるとされる。キトニー社長は「トークン化はエージェンティックと次世代のデジタルコマースの基盤になる」と強調し、2026年はこうした取り組みを加速していく考えを示した。

なお、Visaの新サービスとして海外で発表されている「Scan To Pay」は、QRコード決済サービスとクレジットカードを組み合わせたようなサービスを実現するものだが、日本での展開についてキトニー社長は、「需要が上がれば、スキャン決済への対応も検討する」との方針を述べていた。

  • まとめ

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