富山地方鉄道の社長が一部区間について、自治体の支援がなければ11月中に廃止届を提出する意向を示し、停滞していた自治体の議論がようやく加速した。本線と立山線は沿線自治体が来年度の運行を支援する意向を示し、不二越・上滝線は富山市が活性化事業に取り組む。これで2026年度の廃止は避けられた。
富山地方鉄道はコロナ禍の影響で観光需要が落ち込み、観光需要の回復が遅れていることもあって、沿線自治体の支援負担が続いている。2024年11月に「富山地方鉄道鉄道線のあり方検討会」が設置され、富山県知事、富山市長、魚津市長、滑川市長、黒部市長、上市町長、立山町長、舟橋村長が出席。この検討会は「人口減少や少子高齢化により公共交通をとりまく環境が厳しさを増しているなか、富山地方鉄道鉄道線を持続可能な路線としていくため、維持・活性化の方策等について検討する」ことを目的としている。
約2カ月後の2025年2月に第2回が開催され、支援の実施と本線、立山線の分科会設置を決めた。議事概要に「スピード感を持って対応していかないといけない」「地鉄の鉄道線は何とか存続させていきたいということは一致した意見であるというのが前提」とあったが、第3回は2025年8月27日に書面で行われ、不二越・上滝線分科会を加えた3つの分科会を決めるにとどまった。その都度、直近の支援についても決めているが、発足から10カ月も経過して、肝心の維持・活性化に向けた方策が議論されていなかった。
この状況があってこそ、富山地方鉄道の社長による「支援もなければ廃止」発言になった。支援だけでなく、将来の方向性も見出せていない。
本誌記事「富山地鉄の廃線危機、行政の対応が遅すぎ! 必要なら『まずは残せ』」(2025年8月9日掲載)で紹介したように、富山地方鉄道の社長は2025年7月31日、「自治体の支援がなければ今年11月にも国へ廃止届を提出する」と語った。対象として本線の滑川~新魚津間と、立山線の岩峅寺(いわくらじ)~立山間を挙げた。この報道は沿線の人々にとって衝撃だった。一部の県議会議員や沿線自治体からも反発する声が報じられた。
こうした報道を受けて、富山地方鉄道は2025年9月25日、「弊社鉄道線における関係自治体との協議状況等について(ご報告)」という文書を公式サイトに掲載した。「県民、沿線住民の皆様の代表である一部議員のご発言の内容と弊社の認識に隔たりが見受けられること、また、鉄道線維持において議論されている行政の負担について、引き続きご理解を深めていただく必要がある」として、営業推進と経費節減の努力を報告した。
その上で、富山地方鉄道が単独で運営したい路線を挙げた。本線(電鉄富山~宇奈月温泉間)のうち採算区間の電鉄富山~上市間と不採算の上市~滑川間について、「あいの風とやま鉄道と接続する鉄道ネットワーク」を維持する。立山線のうち採算区間の寺田~五百石間と不採算の五百石~岩峅寺間は、「不二越上滝線との接続を確保」するため維持する。
不二越・上滝線については、富山市が「みなし上下分離」によって維持する方針を示した。しかし、各線区とも行政負担について県民、沿線住民の理解が必要と訴えた。
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富山地方鉄道が単独維持を表明した線区を黒色、自治体と「ありかた」を協議していく線区を黄色で示した。本線と立山線は立山黒部アルペンルートと黒部宇奈月キャニオンルートの回遊ルートとして欠かせない。不二越・上滝線は富山市が維持する方針を示した(地理院地図をもとに筆者加工)
富山地方鉄道の文書は、「あり方検討会」に対して路線廃止を突きつけるものではない。議論が進みやすいように、「維持できる線区」と「維持できない線区」を明確に示したといえる。この文書を受けて、各分科会は現況調査を進めた。11月22日から12月1日にかけて、調査や試算をもとに存続方法についての具体的な議論が行われた。
第2回本線分科会(11月29日開催) 「全線維持が最良か」
「沿線住民の生活を支える暮らしの足として、また、県内外からの観光客の移動手段として重要な役割を果たしていると認識している。市町域を越えて通学する高校生にとっては欠くことのできない移動手段。上市以東の沿線4市町に存在する7つの高等学校に通う生徒のうち、約3割が富山地方鉄道を利用している」(要約)
「県東部の観光周遊ルートを形成している。黒部峡谷鉄道全線開通や黒部宇奈月キャニオンルートの開業によって、県全体、北陸全体に経済効果が期待される。富山地方鉄道本線も利便性を向上させることにより、利用者数を増やす可能性がある」(要約)
これらの期待を考慮し、上市~宇奈月温泉間について「全線維持」「滑川~新魚津間廃止(回送用線路維持)」「滑川~新魚津間廃止(線路廃止)」「上市~新魚津間廃止(回送用線路として維持)」「上市~新魚津間廃止(線路廃止)」「滑川~宇奈月温泉間廃止(線路廃止)」の6パターンを想定。このうち「上市~新魚津間廃止(回送用線路として維持)」「上市~新魚津間廃止(線路廃止)」「滑川~宇奈月温泉間廃止(線路廃止)」は検討しないとした。理由は鉄道移動の連続性が途切れ、通学や観光地の移動手段にならないから。検討するパターンは「全線維持」「滑川~新魚津間廃止(回送用線路維持)」「滑川~新魚津間廃止(線路廃止)」となった。
「回送用線路維持」は、旅客営業を廃止しても回送用の線路として維持する。富山地方鉄道の車両検査や車両基地は南富山にある。富山地方鉄道はあいの風とやま鉄道と異なる電化方式のため、あいの風とやま鉄道の線路を使って自走で回送できない。この線路も廃止した場合、新魚津~宇奈月温泉間で新たな車庫と整備基地が必要になる。ただし、検査や修理のときのみ機関車または電車で富山地方鉄道の車両を牽引し、あいの風とやま鉄道の線路を回送する方法も考えられる。その場合、直通用に分岐器を設置するなどの初期投資が必要になる。
こうした状況を考慮すると、全線を維持した上で、利用者増加推進に投資したほうが良さそうに思える。検討会では、利用推進策として定期運賃をあいの風とやま鉄道と同じレベルに引き下げるとともに、市民病院や魚津水族館の新駅設置、あいの風とやま鉄道との接続改善などが挙げられた。筆者は「パークアンドライド駐車場を整備した広域集客」も検討したほうが良いのではないかと考える。公共交通が充実した富山市街地へ行くなら、まず最寄りの駅まで車で行き、富山地鉄の電車に乗ればいい。
第3回立山線分科会(11月22日開催) 「鉄道存続への強い意志」
沿線地域の人口が低下傾向にあるとはいえ、立山駅で下車する観光客はコロナ禍前近くまで回復し、今後も増加すると予測できる。立山駅構内のアンケート調査で493人が回答し、8割が宿泊を伴い、宿泊地は富山市と立山町が多く、立山黒部アルペンルートと富山市内の観光を組み合わせていることがわかった。
こうした背景から、立山線の観光需要は増加を見込む。富山県の試算によると、立山線利用者の立山黒部アルペンルート訪問、県内宿泊などの経済波及効果は年間28億円に及ぶという。観光客の増加により、2030年までに年間45億円の経済波及効果を期待できる。
今後は観光客向け列車の特別料金設定や、協議運賃等の導入による収益増加を検討する。協議運賃は2023年の鉄道事業法改正で創設された制度であり、地域の生活のため、自治体と協議した上で通常運賃と異なる安価な運賃を設定できる。鉄道運賃はもともと国土交通省に届け出た上限運賃の範囲内で定めている。国の規制対象であり、協議の上で別の運賃を決めても、協議そのものが独占禁止法に触れる。そこで協議運賃制度という特例を作った。
要するに、観光客など地域以外からの来訪者から正規運賃を徴収し、それとは別に地域住民向けの安い運賃制度を設定する。地域住民を優遇して利用を促したい。
立山線の岩峅寺~立山間は立山黒部アルペンルートの入口にあたる。立山黒部アルペンルートが閉鎖される冬季、運休して経費を節減する案もある。しかし、富山地方鉄道はすでに冬季の立山線で日中の大幅な減便を実施しており、全線運休しても経費節減効果は小さいという。
分科会は2026年度に岩峅寺~立山間の再構築事業を実施するとのこと。ひとまず鉄道を存続した上で、上下分離か第三セクターか、あるいはバス転換かを決める。2027年度以降の鉄道存続は、この再構築事業の結果にかかっている。いまのところ鉄道存続の方向性だという。その他、鉄道の不通を招く斜面防災事業の取組みも報告された。鉄道を残す強い意志を感じる。
第3回不二越上滝線分科会(12月1日開催) 「投資を伴う積極策」
不二越・上滝線は一体的に運用され、富山市の東部・南部地域を縦貫する「公共交通軸」になっている。沿線の居住人口が多く、商業施設や公園、中学校・高校などが立地する。不二越駅、南富山駅、上滝駅の地域生活拠点3カ所を結ぶ重要な路線となっている。これは富山市が推進する「ネットワーク型コンパクトシティ」の考え方にも沿っている。
しかし、列車の運行本数が少なく、設備が老朽化するなど利便性が低下している。そこで、富山港線をJR西日本から富山ライトレール(2020年に富山地方鉄道へ吸収合併)へ転換した手法にならい、抜本的なリニューアルを実施する方針となった。富山市はこれを「まちづくりと一体となった鉄道活性化プロジェクト」ととらえている。事業形態の転換方法として、上下分離、みなし上下分離の他に、まちづくりと一体的な駅改良、新駅設置を行う「富山型官民連携方式」の3案から事業構造を選択する。
具体的には、「高頻度運行」「新駅設置、既存駅の設備改良による駅勢圏の拡大」「南富山駅に大屋根を設置し、市内電車との乗り換え専用ホームを整備」「話題性のある車両に更新」「既存の安全対策事業に替えて、重軌条化など設備更新による安全性、快適性の向上」など検討する。事業費は10年間で213億円と見積もられた。単なる維持ではなく、積極的な投資で活性化に導く。富山港線の成功体験があるからこそ、ここまでの施策を打ち出せたといえる。
どの分科会も結論は出ていないが、鉄道を存続し、利用者を増やしたいという考え方で一致している。議論の活発化と2026年度の支援方針を受けて、富山地方鉄道は今年11月末と定めた廃止届提出を見送った。ただし、2026年度中に鉄道存続の結論が出なければ、再び存廃議論に戻ってしまうだろう。
県外に住む筆者から見ても、富山地方鉄道の「黄色線区」は富山県の観光客増加、地域経済にとって必要と感じる。「鉄軌道王国富山」の威信をかけて取り組んでほしい。
