特筆すべきは踏み込んだ衣咲のキャラクター設定。理一が月9ドラマに多かった典型的な優男だったのに対して、序盤の衣咲は「キツイ」「うるさい」「怖い」と嫌悪されそうな紙一重の言動が続いた。
現在は『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系)、『トークィーンズ』(フジ系)などが人気を博しているように女性が本音をズバズバと話すことが当然の世の中になったが、当作の放送時は少数派。事実、序盤は衣咲を「好きになれない」という声もあがっていただけに、むしろ現在のほうが彼女のキャラクターは支持を集めるかもしれない。
今あらためて見直してみると、放送当時の印象より恋愛以外の描写が多いことに気づかされた。恋愛と同等レベルで重点的に描かれたのは夢と生き方。25歳の理一は映画監督の夢をあきらめて自動車学校の教官になり、31歳の衣咲はアパレルショップの店長を務めながらも結婚を第一に考えていたが恋人と破局してしまう。
その後も理一は現実と夢の間を行き来し、衣咲は残酷な人事に何度も打ちひしがれていく。そんな2人はどんな生き方を選んでいくのか。一直線に突き進むのではなく、「もがくほどではないけど満ち足りなさを抱えている」「葛藤しながらも時の流れに身をゆだねてしまう」というリアルな描写が共感を誘っていた。
平成の終盤から令和のドラマは刑事・医師・弁護士を筆頭に専門性の高い職業が全盛。当作のような「一般人」というニュアンスが濃い人物の物語は少なく、さらに等身大のほろ苦さを描き続けることもめったにない。
それは理一と衣咲だけでなく、理一の兄でエリート銀行員だった芹沢英介(藤木直人)、衣咲の店で働く店員・小池実乃(広末涼子)、理一が大学時代に交際していた広瀬歩美(小林麻央)、かつて理一と映画監督を目指した長谷部幸平(田中圭)と木田貴司(西野亮廣)、衣咲の会社に勤める営業マン・八嶋優太(小泉孝太郎)など、どこにでもありそうな人間模様が描かれた。
令和の今では貴重な“5人”の演技
多彩なキャラクターの中で最も視聴者を引きつけていたのは実乃。上司にあたる衣咲に「ダメですよ、そうやって言葉の端々つついちゃ」「ダメですよ、過去の栄光語るのは。今を生きられない男の専売特許ですから」と迷いなくダメ出しする姿は痛快であり、その上で「6年間想い続けた男性がいる」という繊細さも持ち合わせていた。
「そんなどこにでもいそうな人々の恋と人生がタイトル通りスローで進んでいく」という構成は、現在のドラマシーンではめったに見られなくなったもの。スローだからこそ心の動きをじっくり描く余地が生まれ、終盤に向けてジワジワと感情移入が進んでいく。
全11話をかけて登場人物の成長を積み重ねていくような衛藤凛の脚本と、『東京ラブストーリー』などラブストーリーの名手・永山耕三監督の演出が光っていた。たとえば、2人が出会う冒頭のシーンで衣咲が理一に言った「順番守ってくださる?」がその後の伏線回収につながっていくなどの何気ないテクニックが散りばめられている。
そして『スローダンス』を今見る理由としてもう1つあげておきたいのが、今年何かと話題だった人物がキャスティングされていたこと。広末涼子、田中圭、小泉孝太郎、さらに主題歌の福山雅治も含め、情報番組やネットニュースをにぎわせた人々が集結していただけに、今年の締めくくりとして見る意味を感じさせられる。
それ以外でも、現在地上波ではその演技がめったに見られなくなった西野亮廣、蛯原友里、高岡蒼佑、真木蔵人、そして小林麻央さんの貴重な出演作としての価値も高く、20年前の作品ながら目を引く要素がそろっている。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。