昨今の物価上昇は不動産価格だけでなく、賃貸家賃にも波及しています。こうした状況の中では、これまでと同じ感覚で「まずは賃貸に住んで、お金が貯まったら買う」というライフプランが難しくなります。とはいえ、住まいは確保しなければならないので、多くの人が「買うべきか、借り続けるべきか」というジレンマを抱えることになります。
本記事では、最新の住宅・賃貸市場の現状を整理し、FPとして"今、できる選択肢"を提案します。今後の住まい戦略を考える際の参考にしてみてください。
住宅・賃貸市場の最新動向
まずは、現在の住宅・土地市場の最新状況とトレンドを把握しておきましょう。
土地の価格
国土交通省が発表した令和7年地価公示から全国の地価動向を見てみます。
住宅用地の全国平均を見ると、4年連続で上昇しており、上昇幅も拡大しています。三大都市圏の上昇が著しく、特に東京圏は上昇幅が大きく、2025年は4.2%の上昇となっています。地方圏でも上昇傾向が継続しており、全体として上昇基調が続いていると言えます。
住宅の価格
住宅の価格は国土交通省が発表している不動産価格指数の最新データで確認してみましょう。
2010年平均を100とした場合の指数を表しています。2025年7月の統計では、住宅総合は144.2、住宅地は118.0、戸建住宅は119.4、マンションは219.0となっています。マンション価格は、この15年間でおよそ2.2倍に上昇しています。
こうした上昇基調は今後も続くことが予想されます。住宅を購入することは以前より一段とハードルが上がっていることは明らかです。
家賃の相場
家を買えないなら賃貸で…となりますが、こちらの状況も厳しくなっています。
アットホームの調べによると、全国主要都市のマンションの平均募集家賃は、全体的に上昇傾向にあり、中でも東京 23 区・東京都下・千葉県・大阪市・広島市の 5 エリアのファミリー向きのマンションは、2015 年 1 月以降最高値を更新しています。シングル向きのマンションでも、東京23 区が16か月連続、大阪市が14 か月連続で最高値を更新しています。
以下は東京23区の面積帯別の平均家賃です。
住宅価格の高騰により、賃貸を選択したとしても、年々家賃が上昇している状況では、予算内で借りられる物件を探すのが困難になってきます。さらに、更新時の値上げも想定しておかなければならないので、借り続けるのも大きな負担になります。
「今すぐ購入」「頭金を貯めて購入」「賃貸に住み続ける」どれがいい?
住宅価格高騰、家賃上昇という中で、どのような選択をしたらいいのか、具体的な数値を使ってシミュレーションをしてみたいと思います。
- 【ケース1】 今すぐ購入する
- 【ケース2】 頭金を貯めて5年後に購入する
- 【ケース3】 賃貸に住み続ける
<前提条件>
世帯年収800万円のファミリーを想定
現在4,000万円の新築物件を購入
ローン金利(現在): 変動 1.0%
ローン金利(5年後): 1.5%
物価・建築費上昇率: 年3%
→ 5年後: 4,637万円
現在の家賃: 15万円
家賃上昇率: 年2.5%
頭金: 年100万円貯蓄(5年間で500万円)
【ケース1】 今すぐ購入する
借入額: 4,000万円(35年返済)
金利: 1.0%(5年後1.5%)
返済額: 11.3万円/月(6年目から12.1万円)
管理費・修繕積立・固定資産税: 3万円/月
月の住居費: 14.3万円
5年間の住居費: 858万円
5年後のローン残高: 約3,500万円
【ケース2】 頭金を貯めて5年後に購入する
5年後の価格: 4,637万円
頭金: 500万円
借入額: 4137万円(30年返済)
金利: 1.5%
返済額: 16万円/月
管理費・修繕積立・固定資産税: 3万円/月
月の住居費: 19万円
5年間の家賃: 約938万円
(※年2.5%の上昇を2年ごとに反映)
【ケース3】 賃貸に住み続ける
現在の家賃15万円
3年目: 15.8万円
5年目: 16.6万円
7年目: 17.4万円
9年目: 18.3万円
5年間の家賃: 約938万円
10年間の家賃: 約1994万円
5年後の状況を比較
今すぐ購入するのが最も合理的
5年待ってから購入すると、
- 家賃の上昇で負担が増える
- 物件価格が上がる
- 金利上昇の影響を受ける
- 結果として毎月の返済額が増える
といった不利な要素が重なり、頭金を貯めるメリットがほぼ相殺されてしまいます。
一方、賃貸に住み続けた場合は、10年間でおよそ2,000万円の家賃を支払うにもかかわらず、資産として何も残りません。
これらを踏まえると、3つの選択肢の中では 「今すぐ購入する」ことが最も合理的 といえます。
"今、できる選択肢"を考える
ただし、合理的=すべての人にとっての正解、というわけではありません。
早く買った方が有利だからと十分に検討せずに購入すると、返済負担が重くなったり、ライフスタイルの変化に物件が合わなくなったりと、結果的に後悔につながる可能性があります。
また、今回のシミュレーションのように、同じ条件の物件を買うのであれば、5年待つよりも今すぐ買った方が有利になります。しかし、5年間の間に条件を再整理したり、家族構成や働き方の変化に合わせて選択肢を広げたりできるのであれば、あえて急いで購入する必要はありません。
つまり、その人や家族の状況、価値観によっては、"今すぐ購入"が最適とは限らないということです。ただし一つ強調したいのは、明確な理由がないまま「待てば価格が下がる」「十分に頭金を貯めてから買う」とする従来の考え方は、物価上昇が続く今の市場では通用しにくくなっている点です。
条件を緩めて早期着手を検討する
今すぐ買えない理由が「価格」であれば、条件を緩めることで価格帯を下げることができます。「立地、間取り、築年数、駅距離」などを見直し、妥協点を探ることで、予算内で購入可能な物件が見つかることもあります。ただし、条件を下げすぎると資産価値が落ちるリスクもあるため、譲れる点・譲れない点を明確にしながら慎重に判断しましょう。
住宅価格の上昇が続いている地域では、先延ばしにすると "買える範囲"が狭まるため、早めに動ける体制を整えておくことが大切です。
賃貸契約更新のタイミングを再検討の機会に
賃貸を継続する場合は、今の家賃がずっと続くとは限らないので、例えば年2〜3%の家賃上昇を見込んで、将来の住居費を逆算しておくといいでしょう。そして、契約更新を「住まいを見直すチャンス」と捉えましょう。住み替え、購入、賃貸継続など複数の選択肢を比較し、今後の家族の状況や家計を踏まえて再検討する機会にできます。
また、賃貸で暮らしながらも住宅資金の積立を行っておくことで、住み替え、購入、賃貸継続のいずれの選択肢にも柔軟に対応でき、住まいに関する判断を"戦略的に"行えるようになります。
まとめ
高騰する住宅価格と上昇する賃貸家賃という現実の前では、購入、賃貸のどちらを選択しても「住まいの負担が重くなる」ことは避けられない状況になっています。こうした状況では、「いつか余裕ができたら買う」という姿勢のままでは、思い描くような住居を手に入れられる可能性は低くなります。
住宅購入を視野に入れているのであれば、条件を整理して戦略的に動く姿勢が必要となってきます。住まいに求める条件、将来の収入見通し、家族の状況などを整理して、いつでも行動に移せる体制をつくっておくと、いざという時に迷わず動けます。住まい選びは大きな決断ですが、早めに方向性を考えておくことで、これからの選択肢を広げることができるでしょう。






