製造現場に押し寄せる人手不足の波は、もはや避けて通れない。
派遣・請負事業を展開するUTグループは、愛知県・名古屋市で10月29日から31日まで開催された「製造業 人手不足対策 EXPO」(ポートメッセ なごや)に出展。10月30日には、UTエイムの代表取締役社長・筑井信行氏が登壇し、「直近2年間 約30万人の応募データが語る採用戦略の転換期と事例」と題したセミナーを行った。
製造現場が迎えた転換期「今の人材確保のあり方はもう限界」
UTグループが分析するデータによると、製造工程における労働需給バランスは2027年を境に逆転。まもなく供給(働き手)が需要(仕事)を下回る時代に突入するという。
「今は『うちはまだ人が足りている』と話す大手製造メーカーもありますが、今の人材確保のあり方はもう限界。工場全体の人材ポートフォリオの最適化、見直しが今こそ重要になっています」と筑井氏は訴える。
この転換期を象徴するのが、30万人に及ぶ応募データの分析結果だ。UTエイムでは自動車、半導体、地域密着型の3事業で人材を募集し、2年間で30万人の応募を獲得。その裏では37社の求人メディアに加え、SNS広告や自社オウンドメディアへの投資も惜しまなかったという。しかし、応募数の増加と採用効率の改善は比例しなかった。
「昨年の募集単価は2.8万円。今年は4.9万円まで上がった。クリック単価も倍増しています」と筑井氏。その背景には採用市場の競争激化と、スキマバイトのようなスポットワークの台頭がある。5年間でスポット求人の件数・売上は70倍に膨れ上がり、工場求人との奪い合いが加速している。
最も衝撃的だったのが、採用の歩留まりデータだ。「応募が100人あっても、面接に来るのは50%以下。そのうち内定に至るのは10%、実際に入社するのは8.9%しかないんです。残りの91パーセントはどこか他のところに行ってしまっている状態です」と筑井氏は明かす。その理由の多くは、勤務地や給与条件のミスマッチ、他社の内定獲得だという。
また、求職者の応募傾向も大きく変化している。平均応募社数はなんと32社にものぼり、「1社に絞って応募する人は16%しかおらず、スピード内定も課題です。求人側の都合で、『入社は内定から2カ月後』などとやっていると、みんな逃げてしまいます」と筑井氏。実際、面接から1週間以内に内定を出すと入社率は63.9%だが、それ以降はすぐに13%台まで落ち込むという。
こうした採用競争の過熱は、企業の体力も削っていく。筑井氏は「採用単価が50万円、住居確保や研修を含めれば100万円に達するケースもある。こうなると、投資の回収には1年半もかかる」と現実を訴える。
これらの問題は、“人材の獲得競争がもたらす構造の歪み”という問題に帰結する。
「人手不足だからもっと採用しよう。だけど人が集まらない。じゃあもっとお金を使おう。でも、コストが増えるからやめよう。 だけどやっぱり採用したい……。こういう繰り返しの悪循環がずっと続いていて、いくらお金があっても足りない。旧態依然とした採用モデルから脱却しないといけないのです」(筑井氏)
この採用の悪循環から脱却するためには、人材ポートフォリオを見直す必要がある。直接雇用、派遣、外国人労働者、期間社員など、複数の採用チャネルをどう組み合わせるかもひとつの鍵となる。
UTグループではその具体策として、派遣社員からメーカーの正社員へ転籍を推奨するシステムを展開。これまでに約5,000人がメーカーの正社員へステップアップした実績を持つ。現在もある自動車メーカーでは、正社員比率を67%から80%へ引き上げる改革を支援中だという。
さらに筑井氏が注目するのが、日系ブラジル人の活用で「特定技能や実習制度よりも柔軟で、就労制限が少ない。定住意欲も高いのが特徴」だという。海外で生活する日系人は約500万人とされ、そのうち約270万人がブラジルに集中。世界最大の日系人コミュニティがブラジルで形成されているのだ。
こうした背景を踏まえ、UTスリーエムでは「定住型日系ブラジル人派遣サービス」を推進している。日本語教育や生活サポート体制も整え、月間離職率は全体平均の4%に対し、日系ブラジル人は1.8%と極めて低い水準を維持している。
「実際に山口県防府市では、日本人が集まらない状況の中、2カ月で100人の日系ブラジル人を配属。市役所の方が“なぜ急に人口が増えたのか”と驚かれたほどです」と筑井氏。人材確保だけでなく、地方創生にも寄与するモデルケースとして注目されている。
最後に筑井氏は、採用の目的そのものが変わりつつある現状を指摘。今は人的資本経営が求められているとし、「当社では派遣社員を当社の株主にし、資産形成できるというプランを進めています。派遣社員と当社がともに成長する仕組みを作ることでUT株も上昇し、働き手も増加する。この好循環を作るため、派遣社員が筆頭株主になる会社にしたいと思っています」と大胆かつユニークなアイデアも明かした。
登壇後、筑井氏に今回のセミナーの狙いについて改めて伺ってみると、「今、派遣会社がたくさん潰れていて、獲得単価も高騰している。でも、こうした人材確保の背景について、大手の工場が全然把握していない。 まずは実態を知っていただいて、今のままではダメだと考えていただくきっかけにしてほしかったんです」と回答。
さらに、「一番大事なのは“求職者ファースト”。現状は求職者ファーストではないので、うちが紹介しても『なんか製造に向いてなさそうだから』『スーツで面接に来られるのは違う』といった信じられないような理由で落とされる。人材不足というのであれば、まずは求職者ファーストで考えることが重要ですね」と強調した。
自動車工場での作業をVR体験! UTグループがブースを出展
UTグループのブースでは、自動車工場での作業をVRで体験できるコンテンツが来場者の注目を集めていた。ヘッドセットを装着すると、360度すべてが工場の景色に変わり、まるで現場に立っているかのような臨場感を味わえる。
体験者は電動ドライバーを手にボルトを締める作業に挑戦。音の変化に気づけるか、用意された工具を発見できるかなど、現場で求められる感覚も試される仕組みだ。
このVRは、UTグループが新人研修の一環として実際に導入しているもの。配属前にリアルな作業環境を仮想体験することで、「聞いていた話と違う」といったギャップを減らし、離職防止につなげる狙いがあるという。研修で体験できるプログラムは10種類以上あり、エンジンの組み立てや不具合の発見、さらには複数人で協力して車を組み上げるチームワーク型のコンテンツまで用意されている。
現場のリアルを疑似体験することで、不安を軽減し、自信を持って仕事に臨めるようになる。UTグループのVR研修は、製造業の人材育成に新しい可能性を示している。












