NTT西日本とNTTビジネスソリューションズは10月30日・31日、地域の未来創造に貢献する情報を提供する自治体向けイベント「ミライ自治体Day」を大阪府大阪市のNTT西日本研修センタ<PRISM>にて開催した。
「ミライ自治体Day」は、NTT西日本とNTTビジネスソリューションズが2024年より開催している自治体向けイベントで、今回で2回目の開催。「地域DX」をテーマに、地域課題の解決や住民サービスの向上に資する最新事例・サービスが展示され、実際の事例やサービスを通じて、各自治体が地域課題の解決や住民サービスの向上に向けた取り組みを加速させるためのきっかけとなることを目指している。
そこで今回は、「ミライ自治体Day」にて紹介された事例やサービスの中から特徴的なものを抜粋して紹介していく。
生成AIによる庁内業務効率化
NTT西日本グループが提供する、庁内情報を活用したAIによる業務支援機能(RAG機能)やノーコード機能(ワークフロー機能)を持つ生成AIサービスが、デモを交えて紹介された。
総務省の調査ではほぼすべての自治体が生成AIの導入を検討しており、すでに多くの自治体において導入が始まっているが、リテラシーの差による利用者の分断、利用状況の不透明さ、さらにはセキュリティの面など、自治体での導入にはまだまだ解決すべき課題が多く残っている。
NTT西日本グループが提供する生成AIサービスでは、ChatGPT-4oやGoogle Geminiをエンジンとして活用しており、その最大の特徴は「テンプレート機能」が利用できる点が挙げられる。事前に登録したテンプレートを活用すれば、文書要約なども決まったフォーマットで出力することが可能。テンプレートは他者と共有することができるので、生成AIをあまり使ったことがない人への利用促進にも繋がるという。
また、ワークフロー機能を使えば、誰でも簡単に定型業務の一連の流れを自動化して業務効率を大幅に改善することが可能。RAG機能もサポートしており、自治体の内部資料などをあらかじめ読み込んでおくことで、情報検索とドキュメント作成にかかる時間を大幅に削減できるだけでなく、回答の正確性も向上することができる。
会場では実際に、「議会答弁案の作成」のデモンストレーションを実施。回答の型や文字数などを設定することができるほか、想定される更問への対応も用意することができる。なお、RAG機能で読み込んだ情報は、生成AIに学習されないような仕組みとなっており、セキュアな環境で利用できる点も大きな特徴となっている。
ブラウザで利用できるため、非常に導入のハードルは低く、勉強会やハンズオン、ワークショップを開催するなどの伴走支援的なサポートも行われている。なお、現時点では文字起こしや画像生成などの機能は未対応となっているが、今後の開発構想には含まれているという。
能登半島地震の経験から学ぶ、自治体の災害時対応とデジタル活用
2024年1月に発生した能登半島地震の被災直後における、具体的な現地での対応や課題について、特にデジタル活用の視点から紹介。大規模災害時の対応品質向上のヒントになることを目指したものとなっている。
特にり災証明書は、被災された方にとって、税の減免や仮設住宅への入居申請、保険金の請求など様々な支援などを受けるためには欠かせない書類となっている。従来は紙で発行されていたものをDX化することで、迅速な発行および自治体職員の稼働削減を実現したという。
石川県の場合、地震が起こる前に、全市町にこのシステムが導入されていたため、発災直後から直ちに運用が可能となっていたが、自治体に運用ノウハウが不足しており、NTT西日本の社員が現地に足を運んで操作方法をレクチャー。DX化に伴い、必要なタブレットを用意するなどの支援が行われた。さらに、すでに同システムを活用している県外の自治体などからの応援もあり、り災証明書の迅速な発行だけでなく運用ノウハウの蓄積にも繋がった。また被災状況の調査にはドローンを活用。遠隔判定には、熊本地震の経験も活かされたという。
そして、能登地震の応援に来た他県の職員が実際にシステムの運用ならびにり災証明書が迅速に発行されている状況を目の当たりにしたことにより、地震の後、NTT西日本に対する問い合わせも増加。全国的にシステム導入の検討が進められている。
さらに同ブースでは、被災地域や避難所の活性化に向けた支援についても紹介。被災地域のコミュニケーション活性化や交流促進、また新たな販路創出などを実現することによって、継続的な復興支援が行われている。
大阪広域データ連携基盤(ORDEN)
大阪広域データ連携基盤(ORDEN:Osaka Regional Data Exchange Network)について、2024年8月にリリースされた行政ポータル「my door OSAKA」や、他自治体との共同利用に向けた取り組みに加えて、ORDENを活用した住民サービスの高度化の実例などが紹介された。
NTT西日本では、公共インフラの分野にも注力しており、その中でもスマートシティにおいてはデータ連携基盤が非常に重要な要素となっている。同社では、基盤を介して、バラバラのデータを集約し、様々なサービスを連携することによって、さらなるデータ利活用、そしてサービスの創出に繋げる。その結果としてデジタル化や住民サービスの向上、地域経済の活性化を促進し、最終的なゴールとして住民QOLの向上を目指していくとしている。
当初は、“地域が主体”となったICT・データ利活用の取り組みとして、市町村単位でのデータ連携基盤整備が推進されていた。しかし、現在では、データ連携基盤の運営負担などの観点から、都道府県単位で基盤をひとつに集約する方針転換が行われている。ORDENは、大阪だけでなく、ほかの都道府県とも一緒に使うことで、効率的な運営やデータ利活用を目指す取り組みが進められているという。
現在、ORDENを活用し、官民の様々なサービス創出を実現しているが、そのひとつが行政ポータルとして、住民の属性情報に応じて行政サービスをプッシュ型で配信する「my door OSAKA」。ORDENを通じて、住民属性情報や行政制度情報、イベント情報などを利活用している。
そしてさらに、大阪府域を超えて、ほかの都道府県との共同利用を進めているサービスが、AI観光案内サービス「めぐろっと」。ORDENを石川県、滋賀県、奈良県、鳥取県、高知県といった複数自治体と共同利用することで、複数自治体の観光データ・イベントデータを活用した広域観光案内サービスとなっている。AIを活用することにより、利用者の興味・関心にあわせた観光ルートがリコメンドされるが、大阪だけでなく、広域のルート提案ができる点が大きな特徴となっている。
また、ORDENの利活用を促進するため、民間事業者に対するアイデアソン・ハッカソンイベントとして「OSAKAイノベーションデータラボ」を開催し、データ利活用の伴走支援を実施。コミュニティ参画企業同士のマッチングなどにより、想定外のビジネスの広がり(イノベーション)の創出を目指している。オープニングイベントに約260名が参加し、アイデア申請が38件に及ぶなど大きな盛り上がりをみせており、優秀事業者として選出された3組には、補助金などを含む伴走支援を実施し、年度内のサービス実装を予定しているという。
データ連携基盤を活用した住民サービスの高度化
さらに、「ミライ自治体Day」では、ORDENのようなデータ連携基盤のユースケースについて、「防災」および「子育て・健康福祉」に関する取り組みが紹介された。
防災システムは、住民ポータル、アプリ、住民向けダッシュボードなどの形での運用となるが、平時においては、情報発信、地域通貨、健康促進などの用途で活用される。一方、地震などの有事には、避難所案内やQRコードによる受付、必要物資の配備、り災証明書や各種支援などのプッシュ通知などが可能に。住民からの情報を踏まえたより正確な情報の把握と、広域・基礎自治体のデータを一元管理・ダッシュボード化による迅速かつ効率的な支援活動を実現できる。
そして、特に重要となるのが、要配慮者、要介護者への対応。薬歴情報や要配慮情報などの住民情報を、有事に避難所への物資配備などの支援情報に活用することで、住民の個別事情にあわせた支援が可能となっている。
「子育て」分野では、すでに多くの自治体で母子手帳を電子化するなどデジタルソリューションの導入が進んでいるが、さらにデータ連携基盤と組み合わせることで、妊娠・出産・育児までを一貫して支援するという取り組みが進められている。
子育てポータルを導入することで、子どもが生まれた際の出生届、予防接種、保育園の申し込み、検診といった一連の手続きをパソコンやスマートフォンから簡単に申請することが可能に。
そして、データ連携基盤を活用することによって、子育てのフェーズに沿った支援を行っていく。各種情報をクローリングで自動収集し、生成AIでわかりやすく記事化し、ポータルに掲載することによって、必要な情報を集約。さらに、子どもの年齢などにあわせて、必要な情報をプッシュ配信することによって、必要な情報を取り逃がすことがないような環境を構築することができる。
子育て支援は自治体の魅力度にも大きく影響する支援であり、各種手続きも多いことから、まずは出生から小学校入学前までのフェーズが想定されているが、今後は、小学校・中学校・高校といった教育分野、さらには健康福祉の分野にも拡充させていくことが検討されている。





