海運会社462社が所属する全国内航タンカー海運組合は、10月7日、北海道小樽市にて小樽水産高等学校と国立小樽海上技術短期大学校の学生計61名を対象に、内航タンカ-の見学会を開催した。

このタンカー見学会は、将来船員となる学生が職場兼生活空間となる橋船、降板、機関室などを見学し、船員から直に説明を受けることで、船員職業をイメージしやすくなり、就職後のミスマッチ防止につなげることなどを目的としている。

  • 「第十日丹丸」は、全長約105メートル、幅16メートル、型深さ8.8メートルの大型タンカー船

    「第十日丹丸」は、全長約105メートル、幅16メートル、型深さ8.8メートルの大型タンカー船

見学先は、昭和日タン保有の「第十日丹丸」。創業80年以上の海運大手企業である昭和日タンが保有する同船は、5,000トン積みの内航白油タンカー。日本の国内の港間を航海し、生活に必要な様々なガソリン、灯油、軽油などの石油製品を輸送している。

内航タンカーは、主に危険物を取り扱うため積荷・揚荷とも荷役前、荷役中の安全確認は欠かせない。「第十日丹丸」は自動操縦、荷役自動化装置などが搭載されており、船員の作業負担は軽減されているという。

内航タンカー船の船内と船員の仕事を知る

午前は小樽水産高等学校の2年生25名が、5班に分かれて見学。本稿では1班に同行した様子をレポートする。

  • 当日、タンカー見学会に参加した小樽水産高等学校の生徒たち

    当日、タンカー見学会に参加した小樽水産高等学校の生徒たち

まずは、船長や航海士が操船や航行を管理・指揮する操舵室(ブリッジ)へ。レーダー、GPS、航海計器、エンジンテレグラフ、無線機器などが搭載されており、船の安全な航行を司る非常に重要な役割を担っている。

船との距離はどのようにしてわかるのかという質問に対して、「AIS(自動船舶識別装置)があるので、目視できなくても船名、位置、針路、速力などの情報がわかります」と回答したりと、船員が機器について説明してくれた。

  • 操舵室で実際の機器を見て、学生たちから多くの質問が寄せられた

    操舵室で実際の機器を見て、学生たちから多くの質問が寄せられた

  • AIS(自動船舶識別装置)により航跡もわかると教えてもらう

    AIS(自動船舶識別装置)により航跡もわかると教えてもらう

次に訪れた荷役制御室兼事務室は、パソコンのモニターが並びオフィスのような雰囲気。ここでは、遠隔でバルブの開閉を行ったり、荷役状況を監視することで、安全かつ効率的に作業を進めるため荷役作業(積荷・揚荷)などを管理している。

モニター越しの操作だとゲームのようにも見えるが、「責任のともなう作業。安全確認は非常に重要で、ヒューマンエラーをなくすように努めている」など、仕事に取り組む姿勢も教えてもらう。

  • モニターに映し出される荷役配管の説明を受ける生徒

    モニターに映し出される荷役配管の説明を受ける生徒

  • 実際に操作をさせてもらい荷役管理を疑似体験

    実際に操作をさせてもらい荷役管理を疑似体験

船を動かすための主機関(エンジン)や、電気を作る発電機、蒸気を作るボイラーなどの主要な機械を設置している機関室。エンジン音が響き渡っているので、船員は小型拡声器を使って説明を行う。

「エンジンルームは船の心臓部。安全に航海できるように機械装置の運転、点検、保守、修理を行っている。同船は自動化されているので、夜間は無人化(MO運転)されている」という。また、エンジンルームでは耳栓を使っていたり、真夏の機関室は50度になることもあるなど、リアルな現場の様子を教えてくれた。

  • 各種計測装置から状況や記録を監視する機関制御室

    各種計測装置から状況や記録を監視する機関制御室

  • 機関室では主機関や発電機などの音や数値を定期的に確認している

    機関室では主機関や発電機などの音や数値を定期的に確認している

いよいよ上甲板にあるタンクハッチを見学。ここでは荷役の積み込み・積み降ろし、船の操船補助、見張り監視、ハッチの開閉・確認などを行っている。「白油をあげた後は、タンク内の清掃や点検をする」という説明を聞いたのち、貨物タンク内の圧力を調整するベントラインやポンプ室の見学もした。

  • 深く大きなタンク内をのぞき込む生徒たち

    深く大きなタンク内をのぞき込む生徒たち

  • 火災が発生したときに使用する消火装置

    火災が発生したときに使用する消火装置

見学も後半になると、仕事内容のほか船上での娯楽についての質問も出てきて、「ネット環境が整っているのでスマホが使えるし、休憩時間は自室でゲームをしたり、動画を見ることもできます」とのこと。また、女性船員専用のトイレがあることも教えてくれた。

午後は、国立小樽海上技術短期大学校の学生たちが見学を行った。同校は内航海運を担う船員を育成する専門校なので、学生たちからは専門的かつ技術的な質問から、働き方、給与のことなど、将来の勤務先を見学するような本気さが伝わってきた。

  • 荷役の積み下ろしに必要な配管やホースを接続部分であるマニホールド

    荷役の積み下ろしに必要な配管やホースを接続部分であるマニホールド

  • 船を港に係留するロープを巻き取る係船機を動かしてみる学生たち

    船を港に係留するロープを巻き取る係船機を動かしてみる学生たち

  • 国立小樽海上技術短期大学校の学生36名

    国立小樽海上技術短期大学校の学生36名

見学を終えた学生たちは「実物のタンカーを見たのは初めて。スケールの大きさ、安全管理体制に刺激を受けた」、「女性が活躍できる仕事もあることがわかって、タンカーの仕事に興味を持った」、「タンカーの仕事もおもしろそう」など感想を語ってくれた。

タンカー見学会という貴重な機会に参加した学生たちは、みな興味深く設備を見てまわり、積極的に質問もしており、船員になることを前向きに考えている様子がうかがえた。この体験で職業をより具体的にイメ-ジすることができ、将来は船員になるという心構えもできただろう。