1978年ポルシェ911 SC「サファリ」|ケン・ブロックが駆った伝説の一台

1978年型ポルシェ911 SC”サファリ”が、RMサザビーズ主催のオークションに姿を現した。推定落札価格は約6,750万〜9,750万円(45万〜65万ドル)。この車は、ケン・ブロックが2022年のイースト・アフリカンサファリ・クラシックラリー参戦のためにタスヒルが製作した一台である。ラリーではアレッサンドロ・ジェルソミーノをナビに迎え、8つのステージで勝利を収めつつも、数多くのパンクやタイムペナルティにより総合19位に終わった。しかし、その奮闘ぶりと存在感は群を抜いていた。翌2023年にはグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードにおいて、彼へのトリビュートとして走行を披露している。

【画像】オークションに出品される、ケン・ブロックのポルシェ911 SC”サファリ”

ケン・ブロックといえば、スニーカーブランド「DCシューズ」の共同創業者として名を馳せた後、2004年の売却を機に本格的にラリーの世界に飛び込んだ人物だ。2005年にラリーアメリカの新人賞を獲得し、Xゲームズでのメダル獲得、さらにはラリーアメリカ選手権での複数回の総合2位など、輝かしい戦歴を築いた。アメリカ人として初めてWRCに参戦したドライバーでもある。しかし彼の名を世界に轟かせたのは、プロラリーの舞台以上に、自身のチーム「フーニガン・レーシング・ディビジョン」が手掛けた”ジムカーナ”映像シリーズだった。サンフランシスコの街中やドバイの摩天楼を舞台に、フォード・フィエスタRS WRCからモンスタートラックの”フーニトラック”、そしてマスタング”Hoonicorn”まで、さまざまなマシンを自在に操り、圧巻の映像美とスタントで世界中のファンを魅了した。

そのブロックが挑んだイースト・アフリカンサファリ・クラシックラリーは、1953年に始まった伝説のサファリラリーの精神を2003年に甦らせた耐久イベントである。ケニアのサバンナを舞台に、数千キロを走破する苛烈な舞台。2022年大会はパンデミックの影響で延期されていたため、その復活を待ちわびたファンと参加者の熱気に包まれていた。ラリーを知り尽くしたタスヒルのサポートを受けたブロックは、13台のタスヒル製911の一員として参戦。彼のマシンは象徴的なフーニガンのリバリーをまとい、注目度は群を抜いていた。

タスヒルが用意した911 SC”サファリ”は、3.0リッター高圧縮フラットシックス(280馬力)、サファリ仕様のギアボックスとLSD、強化オイルクーラーや特製のエキゾーストを搭載。過酷な路面に耐えるべく、5段階調整式のダンパーや強化リアアーム、特注のステアリングラックにビレット製サスペンションアップライトを備える。ボディは徹底的に補強され、ロールケージやアンダーボディ保護、スペアタイヤやサファリ用ルーフベントまで用意された。室内はスパルタンなラリースペックに仕上げられ、プロフェッショナル仕様の計測機器や消火システムが完備されるなど、まさに戦うための911であった。

その戦いは壮絶だった。ステージ勝利を積み重ねながらも、合計6度のパンクに見舞われ、最終的な順位は19位にとどまった。しかし、鮮やかなリバリーを纏った911の姿と、ブロックの果敢な走りは、ラリーの新たな魅力をファンに伝えるものとなった。大会後、この車はイギリスのタスヒル本社に戻り、機械的なリフレッシュを受けて公道走行が可能な状態に仕上げられたが、外観はラリーを戦い抜いたままの姿を残している。2023年のグッドウッドでは、ケン・ブロックの功績を讃える特別な走行を披露。その後もイギリスで登録され、コレクションに加えるにふさわしい存在となっている。

ケン・ブロックは2023年初頭にこの世を去ったが、その情熱と影響力はいまも若い世代の車好きを刺激し続けている。この”サファリ”911は、彼のフーニガン・ブランドをアフリカの大地へと広げ、クラシックラリーの世界へと新しいファンを導いた象徴的な一台だ。野心と冒険心を持つ者にとって、この車ほどふさわしい存在はないだろう。