北日本新聞やKNB北日本放送などが、7月31日に富山地方鉄道の代表取締役社長、中田邦彦氏の単独インタビューを報じ、ついに鉄道線の「廃線」に言及した。本線の滑川~新魚津間、立山線の岩峅寺(いわくらじ)~立山間を挙げ、自治体の支援がなければ今年11月にも国へ廃止届を提出すると語った。認められた場合、規定通り2026年11月末の運行をもって廃止する。自治体等の関係者が合意すれば半年の繰上げが可能だし、過去にあった他社の例にならえば、「運休」の体裁で運行終了をさらに早めることもできる。

  • 東急電鉄など他社から譲り受けた車両も活躍する富山地方鉄道。鉄道線の一部が廃線の危機に

富山地鉄の社長が公共交通を人質に取ったように思われるかもしれないが、実情は違う。過去の報道を追うと、経営危機の訴えは3年前からあった。自治体の支援があっても追い付かない。自治体側は「今後のあり方を議論する」と言うも、「経営実態を把握したい」「利用状況を調査したい」という状況だった。

必要だと思うなら「まずは残せ」。枠組みの話はそれからではないか。

本誌記事「富山地方鉄道を守れるか? いまこそ『鉄軌道王国とやま』試される時」(2025年2月22日掲載)で紹介したように、富山地鉄はコロナ禍で利用が落ち込み、回復も遅れていた。コロナ禍前まで年間1億円の赤字にとどまり、自治体の補助金で賄えたが、2020年度の赤字額は補助金を差し引いても7億円を超えている。このうち5億円を富山県と自治体が支援し、残り2億円を富山地鉄の運賃値上げ、減便によるコスト削減で捻出することになった。

  • 富山地鉄社長が廃線に言及した区間を赤線で示した(地理院地図をもとに筆者加工)

2022年3月決算は不動産の売却でなんとか黒字決算としたが、もう後がない。当時の社長、辻川徹氏も「(資産売却は緊急措置で)いつまでも続けられない」と語っていた。しかも「錆びて使えなくなったコンクリート枕木の代わりに、中古の木製枕木に交換した」とのことで、保線も「焼け石に水」状態だった。筆者はこれを1つ目の危機兆候と考える。

その後も支援が定まらないまま、「富山地方鉄道鉄道線のあり方検討会」での検討が続く。「本線のうち、あいの風とやま鉄道と並行する区間を廃止する」「立山線をバス転換する」などが挙がったものの、方向性が定まらないまま時間が経過した。

富山地鉄の窮状、決して「恵まれて」などいない

今回報じられたインタビューで、中田社長は「1日200万円の赤字、10日で2,000万、年間7億円の赤字」と台所事情を明かした。赤字1億円の時代も、線路を維持するための努力だけはしてきたという。しかし線路保守が追い付いていない。2020年、軌間が規定値より広がったため脱線事故が発生。その後も人手不足で安全確認がおろそかになり、保守員の死亡事故が発生した。かつてJR北海道が保守を怠り、起こした事故を想起させる事態になった。

いまの富山地鉄は「出血中の患者」といえる。この場合、最初の手当は「止血と輸血」である。最初の手当てを怠ったまま、「原因を解明しろ」「治療を検討しよう」などと話し合っている間に、人であれば出血多量で死んでしまう。本人の治癒力ではどうにもならない。そして行政は「止血」を手伝おうとしない。このままだと確実に死ぬ。

富山地鉄は「死んでしまうぞ」と脅しているわけではない。「死にたくない」と悲鳴を上げている。その危機感が県にも自治体にもない。「行政の手続きに時間がかかる」は言い訳だ。コロナ禍から5年、富山地鉄が資産売却で切り抜けてから3年も経っている。遅すぎる。

しかし、この窮状がなかなか伝わらない。

前出の中古枕木を報じた北國新聞の2022年6月19日付記事でも、「とはいえ全国にはもっと経営状況が厳しい同規模の事業者があり、富山地鉄はまだ恵まれている方だ」と結んでいる。ずいぶん呑気な論調だなと思う。経営状況が厳しくて脱線を引き起こす鉄道事業者は、決して「恵まれて」などいない。むしろ「どん底」の部類である。

2025年1月、県と沿線7市町村は2025年度予算で、富山地鉄に対し燃料資材高騰分として2億円を追加支援すると決めた。このときも県議会で反発の声が上がった。北國新聞の2025年2月8日付記事によると、議員の1人が、「乗りもしないのに駅だけ整備し、鉄路を維持するのはおかしい。2億円には何の根拠もない」と語ったという。別の議員も、「地鉄が自ら経営改善の対策を講じようとせず、自治体への支援だけを求めている」と主張し、「この会社は、お客さまの立場になって経営しているのかが見えない。こんな経営体なら変わってほしいぐらいだ」と発言している。実情を理解していないにも程がある。

富山チューリップテレビは8月1日、富山地鉄の社長が廃線に言及したことを受けて、魚津市長の「沿線住民に我々がきちんと話をしていかなければならないテーマではある。それを待たずに決めていくとはいかがなものか」といった趣旨の発言を報じた。「あり方検討会」を設置してから3年間もあって、なぜいままで自治体は市民に説明しなかったか。そのほうが怠惰だ。地元ではない筆者が新聞データベースを検索しただけでも、富山地鉄の窮状を伝える記事がいくつも見つかった。むしろ新聞を毎日読んでいる地元住民のほうが、事態を把握できているだろう。

極論だが、県と自治体がいますぐやるべきことは「存廃の判断」である。つまり、県にとって、自治体にとって、存廃の対象区間が必要か否かを決定し、存続させるならカンフル剤として資金を投入しなければならない。経過観察と予後の治療はそのあとの話だ。

「立山線は廃止」という判断は考えられない。沿線住民が減ったとしても、観光需要がある。なにしろ終点の立山駅は立山黒部アルペンルートの入口である。むしろ立山線そのものがアルペンルートの一部であり、電鉄富山駅に入口機能を持たせていたはず。仮に立山線をバス転換するとしても、バスや運転士は足りるのか。

2023年度、富山駅側から立山黒部アルペンルートへ向かう観光客はシーズン中に39万人。コロナ禍前は40万人以上もいた。毎年の営業日数を230日とすると、1日あたり約1,740人を輸送する必要がある。大型路線バスの定員は約80人なので、約22本の運行を必要とする。観光地向けの大型観光バスだと45席だから、運行本数はさらに増える。利用者は週末に偏るし、大町ルートから富山方面へ抜ける人々もいるから、バスと運転手の数は増えるだろう。

ところが、富山地鉄のバス部門は人員が不足しており、現行のバスダイヤで198人の運転手を必要とするところ、25人も欠員している。10月から平日に56便、休日に30便を減らすダイヤ改正も予定しているという。そんな状態で鉄道代行バスを運行できるはずがない。

そうなると、富山県としては、立山線を存続させるか、富山県の観光の主力である立山黒部アルペンルートを放棄するかという二者択一になる。富山県の観光産業において、立山線は重要であり、「緊急輸血」してでも生かす必要がある。

滑川~新魚津間は「なくてもいい」のか? 車両基地の問題は?

富山地鉄本線の滑川~新魚津間はどうか。この区間はあいの風とやま鉄道と並行しており、交通資源として重複している。あいの風とやま鉄道の滑川~魚津間は複線で、途中駅は東滑川駅のみ。所要時間は8分。一方、富山地鉄本線は単線で途中に5駅あり、所要時間は14分。富山~魚津間で比較すると、あいの風とやま鉄道は24分、富山地鉄本線は57分となる。

富山駅から宇奈月温泉方面に行くなら、富山地鉄本線を乗り通すより、魚津駅まであいの風とやま鉄道に乗ったほうが速い。いまは富山駅から黒部宇奈月温泉駅まで北陸新幹線に乗るという選択肢もある。したがって、富山地鉄本線の滑川~新魚津間が「なくてもいい」という考え方はある程度理解できる。問題は途中駅である浜加積駅、早月加積駅、越中中村駅、西魚津駅、電鉄魚津駅の利用者をどのように救済するか。滑川市はトヨタモビリティ富山・あいの風とやま鉄道と連携協力協定を結び、カーシェアによる地域交通構築に取り組んでいる。滑川市が先手を打ったように見える。魚津市はどう動くか気になるところだ。

そしてもうひとつ、車両基地の問題がある。富山地鉄の車両基地は稲荷町駅に集約されており、本線の滑川~新魚津間を廃止すれば、新魚津~宇奈月温泉間が分断される。この場合、車両を検査修繕するために、あいの風とやま鉄道で回送する必要があるだろう。滑川駅や魚津駅に渡り線を設置する必要も出てくる。

  • 富山地鉄の車両基地は稲荷町駅に集約されている

電化の違いも考慮しなければならない。富山地鉄は直流電化、あいの風とやま鉄道は交流電化のため、富山地鉄の電車はあいの風とやま鉄道の線路を自走できない。回送するならJR貨物の機関車を手配するか、あいの風とやま鉄道の電車などに牽引してもらう必要がある。

富山地鉄本線の滑川~新魚津間を残して赤字を補填するか、廃止にあたっての初期投資として渡り線を整備し、回送の手間をかけるか。ここが存廃を判断する決め手となるように思える。廃止する場合でも、設備投資的に今後1年間で準備できそうに思う。

存廃を決めた後の「あり方」とは

立山線については、まず存続を決めて、県や自治体が当面の支援を続ける。その後はどうするか。国の補助金を得て再構築するなら、自治体が線路設備を保有する「上下分離」、自治体が設備費用を負担する「みなし上下分離」が条件になる。富山地鉄が運行を担うか、新たな事業体を設立しても良い。立山線は立山黒部アルペンルートにおいて必要不可欠だから、立山黒部貫光が参加してもいいのではないか。沿線住民が利用しないのであれば、立山黒部アルペンルートと連動してシーズンオフに運休させてもいい。

立山黒部貫光は富山地鉄の筆頭株主である。しかし立山黒部貫光も経営は厳しく、2026年8月にホテル立山の宿泊サービスを終了し、経営資源を運輸事業と飲食物販事業に集中させるという。日本経済新聞によると、ホテル立山の建物は星野リゾートに売却済みとのこと。

富山地鉄本線の滑川~新魚津間を廃止する場合、新魚津~宇奈月温泉間の処遇を検討する必要がある。宇奈月温泉駅から先の黒部峡谷鉄道も、富山県にとって重要な観光資源である。黒部峡谷鉄道は現在、能登半島地震の影響で鉄橋が損傷し、猫又~欅平間が不通。この影響で、欅平駅から先の上部軌道を含む「黒部宇奈月キャニオンルート」の開業も延期となっている。黒部峡谷鉄道が運転再開すれば、強力な観光資源が待っている。

筆者の私案だが、新魚津~宇奈月温泉間はあいの風とやま鉄道の交直流電車521系を直通させてみてはどうか。富山駅から乗換えなしで宇奈月温泉駅に到達させるほうが便利だろう。登坂力に問題があるなら、再構築の枠組みの中で、特急型・観光型車両を新造すればいい。いっそのこと、新魚津~宇奈月温泉間をあいの風とやま鉄道に移管してもいいのではないか。

ただし、このような大きな枠組みは準備期間を必要とする。その前に、まずは滑川~新魚津間・岩峅寺~立山間の存廃を決める必要がある。富山県と自治体にとって、富山地鉄本線・立山線が必要なら、まずは救急救済処置を施すべき。必要でないなら廃止と代替手段の検討を始めるべきだろう。総じて、富山県と沿線自治体の側にスピード感が足りない。枠組みを検討する前に、進めるべき手順がある。富山地鉄は今日も200万円を失っている。いますぐにでも「止血と輸血」が必要な状況だ。その危機感が行政に欠けている。