
「制限速度は60キロ。オービスにより126キロ(66キロ超過)と撮影された。そんな速度は絶対に出してない!」
などとオービスの測定値を否認する刑事裁判を、私は長年にわたり傍聴し続けてきた。すべて判決は有罪だった。オービスは信頼できるのか? いや、傍聴すればするほど「どうも怪しい」との思いが深まるばかりだ。
怪しいのになぜすべて有罪なのか。突破口はないのか。今回はその話をしよう。私の場合、ついマニアックになりがちなのを反省して、めちゃくちゃ簡潔に。ぜひ聞いてほしい。
オービスの測定値を否認する裁判は、見事に同じパターンで有罪となる。以下、7つのポイントに分けて話を進める。
1、あれもこれも抽象的な可能性
2、オービスの専門家が登場
3、「誤差はございます」
4、写真を見れば測定は正しいとわかる
5、測定値を否定する唯一の無罪判決
6、定期点検、まさかの抜け落ち!
7、ドライブレコーダーの不思議
■疑問だらけのオービス裁判
1、あれもこれも抽象的な可能性
どの事件でも、弁護人は、誤測定の原因をあれこれ指摘する。他車両の影響、トラックの高出力な無線や、落雷の影響、他の何らかの電磁波の影響など、思いつく限りを指摘する。だが、まったく相手にされない。裁判官はさくっとこう退ける。
「弁護人が縷々(るる)指摘する点は、いずれも抽象的な可能性にすぎず、それらを原因として誤測定が起こったと認めるに足る事情は何ら存しない」
2、オービスの専門家
被告人があくまで誤測定を主張すると、検察官は「オービスの専門家」を証人として呼ぶ。専門家って誰? ずばり、オービスのメーカーの社員だ。メーカーごとに証言専門の社員がいて、全国の法廷を飛び回っている。証人出廷は何回目か、検察官が尋ねることがある。100回を超える社員もいる。
オービスの誤作動が疑われたとき、メーカーの社員を証人として呼び、誤作動はあり得ないことを証明する。信じられないかもしれないが、これを「確立された採証法則」という。
3、「誤差はございます」
オービスと呼ばれる装置は何種類かある。私は主に、東京航空計器(TKK)のオービスⅢ(スリー)と、三菱電機のRS-2000型の裁判を傍聴してきた。いずれも固定式だ。三菱はとっくに工場修理や部品供給から撤退している。現在、全国の道路で稼働している固定式は、ほぼすべてTKKのオービスⅢかと思われる。ここからはオービスⅢについて述べる。
測定に誤差はないのか。TKKの証言専門社員(以下、証人)は「誤差はございます」と直ちに答える。そしてこう続ける。
「路面下にループコイルが3本、埋設されています。通電して磁界を発生させ、車両の金属部分に反応して検知信号を出します。1本目のスタートループから3本目のストップループまで6.9m。その間を車両が通過する時間を計測します」
6.9mをコンマ何秒で通過したか、そこから速度を算出するのだ。証言はこう続く。
「ループは車両の金属部分に反応しますので、車両の上下動などにより誤差が生じます。誤差は最大でプラスマイナス2.5%です。そこで、測定値に0,975を掛けまして、小数点以下を切り捨てます。したがって表示される測定値は、ゼロからマイナス5%、さらにマイナス約1キロ、この範囲に必ず収まります。プラス誤差は出ません」
こうしたことを証人は、慣れた調子ですらすら証言する。
「2本目はコントロールループです。スタートからコントロールまでの通過時間と、コントロールからストップまでの通過時間、この差が1.5%を超えますと、撮影を行いません」
裁判官は、ふむふむとうなづきながら聞く。そして決定的な決め手は、次の部分だ。
4、写真を見れば測定値が正しいとわかる
「ストップループが車両を検知した瞬間に速度を算出し、タイマーを作動させます。その先の撮影地点、小さな白線がある場所、そこへ、測定した速度で違反車両が差し掛かった瞬間に撮影します」
TKKのオービスの、撮影端末の少し手前、車線の中央にある小さな白線、あれはループコイルの位置を示すとかネットでは言われているようだが、違う。あの白線こそ、ずばり撮影地点、撮影ポイントなのである。
●オービスの撮影ポイントを示す小さな白線。群馬県内で撮影
「本件の測定記録写真を見ますと、車両前部、ナンバープレートの真下辺りに白線がございます。このことから、測定は正しかったことがわかるのです。撮影と同時に、測定値などの情報が写真に焼き付けられます。誤測定が起これば、白線から離れて撮影されます」
裁判官は、もうにこにことうなづく。写真を見れば測定値が正しいとわかる、これが有罪の、オービス無謬(むびゅう)の、決定的な決め手だ。
5、測定値を否定する唯一の無罪判決
じつはTKKの固定式は、誤測定を理由とする逆転無罪を、私が知る限り一度だけ食らっている。手元に判決書きの写しがある (傍聴はしていない)。一審・加古川簡裁の有罪判決(罰金10万円)に対し被告人が控訴。1992年9月9日、大阪高裁の判決はこうだった。
「主文。原判決を破棄する。被告人は無罪」
被告人車両は大型トラックで、タコグラフ(自車の走行記録計)が備えられていた。当時のタコの構造はシンプルで信頼できる。せいぜい66㎞/h程度と記録されていた。そこで、オービスの測定値には合理的な疑いがあるとされたのだ。検察は上告できず、この無罪は確定した。
驚くのは「白線」である。トラックのナンバープレートのちょうど真下辺りに白線がしっかり写っていた。なのに無罪とは! のちのオービス裁判で、誤測定の原因は何だったのか、TKKはどう検討・改良したのか、弁護人が証人に尋ねたことがある。当時の証人は、にこやかに答えた。
「あの判決は、装置の機能を正しく理解されなかったものと承知しております。ですので、検討や改良はしておりません」
つまり、大阪高裁の無罪は誤判だというのである。つい最近も、弁護人がそこを尋ねたことがある。証人は、にこやかに答えた。
「私がオービスに関わる(オービス担当に就く)前のことで、なんとも申し上げられません」
証人は、弁護人や裁判官をバカにしているのか。自社に有利なよう、嘘をついているのか。いや、悪意などなく、自社製品の優秀性を普通に信じ込んでいるらしい、私はそう感じる。
6、定期点検、まさかの抜け落ち!
ナンバープレートの真下辺りに目印の白線があれば、測定は正しかったとわかる。ところが、正しくないとされ無罪判決が……。なぜそんなことが起こるのか。長く傍聴し続けてきて私は、たいへんなことに気づいた。
まず、オービスは、写真に焼き付けられた測定値以外に、何も残さない。スタートループが車両を検知した時刻、ストップループが検知した時刻、6.9mの通過時間、0.975を掛けて小数点以下を切り捨てる前の、ナマの測定値、何ひとつ残さない。測定記録写真に焼き付けられた測定値、それだけが速度についての唯一の証拠だ。
オービスは、年に2回の定期点検を行う。うち1回、走行試験を行う。そこを通過する一般車両100台を、オービスとテープスイッチ(シンプルで信頼性の高い測定装置)で測定し、前出の「範囲」に収まっているか確認する。
だが、この走行試験、じつは重大な抜け落ちがある。オービスの測定値については、ノートパソコンに表示されたデータだけをチェック。肝心要(かんじんかなめ)の測定記録写真、そこに焼き付けられた測定値は、なんとびっくり、スルーなのだ。無意味な走行試験といえる。
オービスは正しく測定し、タイマーを作動させた。よって被告人の車両は、小さな白線のある撮影地点に正しく写っている。しかし、0,975を掛け、小数点以下を切り捨て、測定値として写真に焼き付ける、その過程のどこかでエラーが生じる可能性を、TKKはもちろん、検察官も裁判官も弁護人も被告人も、誰も気にしない……。そこがオービスの肝(きも)かと、現時点で私は考えている。
7、ドライブレコーダーの不思議
ところで、どの事件にも見事に共通することがある。どの被告人のクルマにも、ドライブレコーダーがないのだ。ドラレコの録画記録は、無罪主張の重要な裏付けとなり得る。逆に、有罪の裏付けにもなる。
「測定記録写真を見ますと、フロントガラスの内側、上部にドラレコがありますね。録画記録を、なぜ証拠請求しないのですか?」
と検察官が被告人に突っ込むシーンを、私は見たことがない。タコグラフの記録についても同様だ。いったいどういうことか。誤測定を主張するケースについて、
・誤測定の証拠があれば不起訴
・誤測定の証拠がなければ起訴して有罪に
もしかしてそういう運用なの? と傍聴席からはどうも思えてならない。
以上、私なりにめちゃくちゃ簡潔にまとめたつもりです(汗)。他車両や何らかの電磁波の影響など、抽象的な可能性は一切言わず、焼き付け値について信頼性の立証が存在しないこと、そこだけに絞って争ったケースは、私が知る限り、まだない。オービスの闇は深い、かも。今後も見張っていきたい。
文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。
※2025年7月29日 11時30分に一部記事を訂正しました
