
今年で第12回目を迎えたル・マン クラシック。フランス全土を襲った熱波は、サルト・サーキットのアスファルトを溶かす勢いで、日中のピットロードには立っているだけで汗が噴き出すような灼熱の空気が流れていた。そんな過酷な環境の中、世界各国から集まったヴィンテージマシンたちは、半世紀以上前のル・マンの記憶をそのまま現代に呼び覚ますかのように、再びエグゾーストノートを轟かせた。
【画像】ル・マン クラシックの現場から、1960〜70年代のマシンたちを紹介(写真40点)
今回フォーカスするのは、1962年から1979年までのプラトー4〜6に分類されたマシンたち。ル・マンが「伝説」と呼ばれるようになったのは、まさにこの時代に他ならない。
1960年代前半、レース界では依然としてフェラーリの黄金時代が続いていた。しかし、1964年にアメリカのフォードが「ル・マンでフェラーリを倒す」という明確なミッションのもとGT40を開発。最初こそトラブル続きだったものの、1966年には3台のGT40が1-2-3フィニッシュを果たし、以降4連覇を達成。以後”Ford vs Ferrari”の物語は、レーシング史における最も劇的な対決として語り継がれていくことになる。今回のPlateau 4では、1965年型GT40が最後まで僅差の勝負を展開し、また250 LM #35が”あの年”からちょうど60年目に再び勝利を掴むという、時空を超えた再演を目撃することができた。
1970年代に入ると、戦いの主役はフェラーリ、ポルシェ、マトラといったプロトタイプレーサーへと移行していく。512S/512M、917K、アルピーヌA442Bといったマシンたちが、800km/hの領域で熾烈な争いを繰り広げ、サルトの夜をまさに”超音速の地獄”に変えていた。Plateau 5・6ではその空気感をそのまま引き継いだLola T70 Mk.3BやFerrari 312P、そしてパドックで調整を受けるChevronやPorsche 908が、当時の空力と機械式制御が混在する過渡期のレース技術を体現している。
また、この時代はGTマシンの実験場としての性格も強く、今回のイベントにも登場したFerrari 308 GT4 Le Mans、Datsun 240Z Gr.IV、BMW 3.0 CSLなど、各メーカーが「量産車ベースのレース車両」を用いてル・マンに挑んだ時代でもある。それぞれに、量産市販車の形を残しながらも徹底した軽量化と空力処理が施され、ピット裏ではそのセッティングに頭を悩ませるエンジニアたちの姿があった。
合成燃料での走行という現代的取り組みも行われた今年のル・マン クラシックは、単なるヒストリック・レースではない。ル・マンという場所が常に「過去と未来の交差点」であることを、改めて強く印象づけた。
今回はル・マン・クラシックを僕の目線でゆるく紹介するシリーズの第二弾として、戦いの中心にいた1960〜70年代のマシンたちを取り上げた。次回は、グループCや現代に繋がる80年代以降のマシンたちに視線を移してみたい。
写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI