映画『木の上の軍隊』の記者会見が7日、都内の日本外国特派員協会で行われ、主演の山田裕貴と平一紘監督が登壇した。
映画『木の上の軍隊』に込めた思い
「はじめまして。『木の上の軍隊』で、安慶名(あげな)セイジュン役を演じました、山田裕貴です。このような、世界に発信できる機会を設けていただき、心より感謝しています。一生懸命伝えるべく、手紙のような形にさせていただきます」
こう英語で挨拶し、山田は自身の思いを伝える。
「この作品は、誰が味方で、誰が敵か、そのような戦争映画ではありません。誰もが望む平和な未来。これはどの国にいようと、きっと一緒だと信じています。その中で、戦争で戦った偉業よりも、苦難に巻き込まれたときの人間の弱さや、滑稽さが面白おかしく描かれています。生きていること、生きようとすることが、何よりも大事だと。そんな祈りのような作品です。この祈りが、どうかたくさんの人々に広がっていくこと。そして、日本の芸術、作品たちが、世界の人たちに愛されますよう」
司会者から最初に聞かれたのは、実在の人物をモデルにした役柄を演じる上で、どのような役づくりや準備をしたか。
「僕らのお仕事は、その役のことをどれだけ思い、生きようとしても、本当にその時代だったり、いろんな事柄を体感した人にしか分からない感情や気持ちが絶対にあると思っていて。ものが食べられない、水が飲めない(役を演じる)なかで、体重を落としていくってことは当たり前だとして、そのほかに考えることと言ったら、自分が演じるシーンで、(その役の人物は)この瞬間に何を思っているんだろうということを、本番まで考え続けること。それしか僕たちにはできない。モデルになったお二人が何を考えたんだろうということを、台本のセリフに乗っけていく。自分のなかで噛み砕いて、演じていくのが、安慶名への挑み方でした」
この山田の回答を通訳者が英語にすると、司会者は“You did great job.(素晴らしかったです。)”と賛辞を贈った。
安慶名役を演じる上で山田裕貴が考えていたこと
安慶名は、沖縄出身の新兵だ。木に登るまでの、親友・与那嶺やその妹とのやり取りから、心優しい青年であることが伝わってきた。それゆえに、木の上で身を潜めることになる上官、山下一雄(堤真一)の目には、安慶名は呑気に映ったのだろう。二人はぎくしゃくとしながら、恐怖と飢えに耐え忍んでいた。それでも、二人の時間を過ごすうちに、少しずつ関係性は変わっていく。しかし、その一方で、安慶名の心のなかには、ある複雑な思いが生まれるなど、肉体的な変化だけでなく、精神的な変化も描かれる。
「あの時期、あの時代の長官は、武士道というか、侍の魂がまだ残っている時代。逆らったら、殺されるかもしれない。安慶名はそんな恐怖を持ちながら、二人、木の上で生活するんですけど、人と人が一緒に生きよう、助け合おうとし始めると、だんだんとお互いのことを知ろうと思っていくのかなと自分のなかで思っていて。それをエッセンスとして、安慶名に少し渡してあげる。だんだん、安慶名は、自分の心のなかで、長官ではなく、一人の人間、なんなら、もしかしたらお父さんがこんな人だったら、こういう生活をしてたのかなとか、いろんなことを思いながら、木の上にいたと思います」
「与那嶺の妹の死を目の当たりにして、戦争がその瞬間から自分のなかでは始まるというのが、安慶名のキャラクターで。そのなかで、人を一人殺してしまったところから、もう普通の人間ではないというか。もう一人の兵士なんですね。それを心の奥底に持ちながら、でも、僕はただの人間でいたい、ただ海を見たい、ただ家に帰りたいと思う青年にしたかったし、そこの狭間を生きていく流れになっているのかなっていうことだけは、しっかり持つようにしていました」
山田裕貴のメッセージに大きな拍手
また、沖縄出身の新兵である安慶名セイジュンという役を演じて、日本の若者たちに伝えたいことがあれば、教えてほしいという質問を受けると、山田は「どの作品であっても、若者だけじゃなく、どうやったらたくさんの人に観てもらえるかということは考えていますし、そのプレッシャーを感じながらやってるんですけど……」と前置きしながら、こう答えた。
「安慶名に込めたものは、平和の祈りというか。皆さんが、家に帰りたい、ごはんを食べたい、海を見たい、リゾート地に行って旅行したいと思うのと同じように、安慶名もただ家に帰りたいし、お母さんに会いたいし、友達とただ海を見てボーッとしてるだけで幸せなんです。まずはそこを思い返してほしいなということを、思いに込めました」
「モデルになった佐次田(秀順)さんの思いに対して、僕がどこまで本物に近づけるか。何ができるかと考えたら、やっぱり考え続けることと、できるだけ本物を味わうことなんですね。僕は虫が大嫌いなんですけど、ハエが飛んでいても、木の上にいたら気にならなくなったんです。そして、ウジ虫を食べるシーンでは、監督にお願いして、ウジ虫を食べました。でも、これはウジ虫を食べたことがすごいんじゃなくて、僕がどこまで本物に近づけるかっていう、勝負のようなものなんですね。そのときの感覚とか、お腹が空いてたら、おいしいって感じるんだろうとか、自分の身に感じていくことが一番大事だと思いました」
「何より本当に、今後、もしかしたら、平和なままじゃないかもしれない。今も平和じゃないと思っています。SNSで誰かを攻撃したり。もちろん、幸せなSNSの使い方をしてる人もいます。でも、世界でも、そういうことが目立ってきてると思っています。僕のなかでは、言葉を使った攻撃は、もう平和ではない。だけど、もっと悲惨な、銃だったり、ミサイルだったり、戦車だったりを使った戦争に対して、思うことと言えば、本当にあってほしくない。ただ、みんなが幸せに、ごはんを食べられること、家があること、これが一番大事なこと」
「若者の方たちに、『これは戦争映画です』と言うと、やっぱり、ちょっと覚悟を持って観ないといけない人のほうが多いかもしれないと思っています。だけど、そうじゃなくて、年齢制限のない映画になっているので、子供たちにも伝えられる映画になっていると思うので、そういったところを、世界の人たちにもお力を貸していただいて、たくさんの人たちに(届けたい)。これは日本のお話ということではなくて、人間の心のお話なんです。なので、日本人が嫌な思いをしたってことを言いたいわけじゃなくて。ハートの問題。それが伝わってほしい。これは、大人たちだけじゃなくて、世界の子供たちに伝わってほしいと思っています」
こう伝え、山田が「長かったですよね……?」と申し訳なさそうに通訳者のほうへ目をやると、記者席からは大きな拍手が。さらに、英語通訳が終わると、司会者も“Wow.Wow!”と感動。そして、会場へ拍手を促し、山田に再び大きな拍手が贈られた。
質疑応答のあとには、山田と平監督が、映画『木の上の軍隊』のポスターパネルと並ぶ形で、フォトセッションが行われた。角度によって、照明の反射でパネルが白く光ってしまっていたようで、カメラマンが「角度を変えてもらってもよろしいでしょうか?」と求める場面が。そして、そのカメラマンとは逆側の位置のカメラマンの番になると、山田は「反射、大丈夫ですか?」と自ら確認。カメラマンが「もう少しだけ正面に向けていただけると助かります」とお願いすると、ポスターパネルの向きを調整してくれた。