船員の雇用のマッチングを図ることを目的に、国土交通省は海運事業者による企業説明会「めざせ! 海技者セミナー」を全国で開催している。
船員不足への危機感が高まっているなか、「めざせ!海技者セミナー in FUKUOKA」が6月18日に「地場産くるめ総合展示場」(久留米市)で開催された。九州運輸局が主催する本セミナー。精力的なリクルート活動を行っているブース出展企業の担当者たちに話を聞いた。
会場を久留米に移して、開催規模を拡大
海の仕事に興味のある若者や求職中の船員など、船員を目指す人の雇用促進を図ることを目的に開催される「めざせ!海技者セミナー」。海上技術学校、水産系高校、商船系高専などの学生を主な対象に、海運事業者による企業説明会や就職面接会などが行われる。九州運輸局による「海技者セミナー」の開催は今年で21回目。昨年は小倉の会場で実施され、抽選で選ばれた53社(50ブース)が参加した。
今年は会場を久留米の「地場産くるめ総合展示場」に移し、60ブース(62社)に規模を拡大。人手不足などを反映して応募企業数は、年々増えているようで今年も抽選が実施され、会場では出展外となってしまった企業の求人情報も配布する初の試みも行われた。
久留米市は福岡県南部の内陸に位置し、北九州よりも鹿児島県や宮崎県などの学校からもアクセスしやすい立地。学生の来場者は270名に上り(事前エントリー段階)、国立唐津海上技術短期大学校(佐賀県唐津市)や国立口之津海上技術学校(長崎県南島原市)のほか、長崎県を除く九州各県と山口県の水産高校の生徒も来場した。
また、九州運輸局は管内の若者向けハローワーク「ジョブカフェ」でチラシを設置するなど広報活動を実施。一般求職者に向けて「海技者セミナー」開催のPRを行ってきた結果、近年は学生以外の一般来場者もジワジワと増えているらしく、40名前後が来場しているという。 さらに人手不足に悩む内航海運業界では、乗船経験が豊富な退職予定の海上自衛隊隊員のリクルートも推進しており、本セミナーには佐世保から10名前後の隊員がエントリーしたそうだ。
現役船員と接する機会でミスマッチを防止
現在5隻のオイルタンカーを所有・運航している「浜崎海運」では、入社9年目の現役船員が本セミナーに参加し、学生たちの質問に答えていた。
飛行機のジェット燃料を千葉から宮城県・塩竈市へ運ぶ「第六崎陽丸」など、石油製品の海上輸送を行う同社。学生が実際に現役船員と接する機会を積極的に設け、説明会などに参加しているという。
「乗下船サイクルは70日乗船・25日前後の休みが基本。まとまった休みも多いので、学生さんからは仕事のやりがいや休日の過ごし方などの質問をよく受けています。うちは「船内融和」をモットーに掲げていて、雰囲気の良い会社だと思いますね。荷役のときは残業もありますし、夜中に仕事をすることもありますが、労働時間はしっかり管理されています。休みも多く取れる勤務体制です」(同社の2等航海士)
「浜崎海運」では海技士資格を持たない一般求職者も積極的に採用しており、若手船員の育成なども行っているという。
「結局、大切なのはやる気なので。船員として活躍できる素養のある方、当社のカルチャーに合う方と広くマッチングできればなと。一般校出身者とのミスマッチをどう解消していくかという点は、今後の課題として検討していく必要があるのかなと考えています」(同社の人事担当者)
女性船員の採用に力を入れる企業の取り組み
続いて話を聞いたのは、長崎県壱岐市に本社を置く1967年創業の船会社「田町運輸」。「金毘羅丸」と「第三金毘羅丸」という2隻のタンカーで、ガソリンや灯油などの白油と原油や重油といった黒油の海上輸送に従事している。
「航海士と機関士、どちらの免許も全ての船員さんに取ってもらいたいという考えで、会社が全面的に資格取得を支援してキャリアアップを支援する体制を整えています。他社では珍しい、小さな会社だからこそできる取り組みです」
退職金の積み立てや職能金も込みの金額で平均年収は850万円。入社後は上級職の仕事も積極的に教えていくため、若手船員の成長スピードが早いことが特徴だそうで、仕事に対するモチベーションの高い船員が多いそうだ。
「船員は九州出身者のみという地元密着型の会社ですが、資格のない方でも船の仕事に興味があり、当社にマッチする人であれば全く問題ありません。現在は増隻も検討しているところで、乗船45日の休暇15日の勤務体制を目指し、幅広いリクルート活動を行っています」
最後に訪れたのは「七洋船舶」という会社のブース。平成30年度から今年度まで毎年女性船員を採用し、現在も6名の女性船員が籍を置いているそうで、業界では女性船員の採用実績で知られた存在のようだ。
船種は汎用性の高い一般貨物船で、兵庫県・姫路や岡山県、関東を拠点に鋼材やスクラップなどの鉄鋼製品を運ぶことが多いという。
「女性専用区間などの設備が整っている大型船で継続的に女性船員を採っているところはあると思いますが、おそらく当社のように継続的に女性船員を毎年採用している一般貨物船の会社は、ほぼないと思います」
働き方としては荷役業務がないことが一般貨物船の最大の特徴だという。乗下船サイクルは30日乗船(10日間休み)〜60日乗船(20日間休み)で、年間休日は100〜120日。乗船中も仮バース(荷役作業を行わない期間に、岸壁や公共バースに一時的に停泊する場所)での休日や船内休日などがある。休暇の多さは大きな魅力になっているようで、ハラスメント対策の一環で訪船による各船員との面談なども行っているという。
「乗船中は深夜の勤務なども当然あるため生活リズムは不規則にはなりやすいものの、体力仕事などはなく、女性でも問題なく働ける仕事です。設備の改修や船を新造する際は、船室のベッドの高さなども低くするなど、女性船員の声を取り入れています」
船員不足や来場者の変化を踏まえ、本セミナーの出展企業の多くは若葉マークやクローバーマークを掲示していた。
昨年から引き続き導入されたクローバーマークは、女性船員を来年採用する予定の企業であることを明示するもの。今年から始まった若葉マークは、海技士などの資格がない、一般校出身の未経験者でも積極的に船員として採用・育成する意欲のある企業であることを示す標識となっている。
船員不足の解消に向けた官民の取り組みに、今後も注目したい。