
6月6~8日の週末にモデナを拠点として、「モーターヴァレーフェスト」が開催された。
【画像】フェラーリ、パガーニから日本車まで!イタリア・モデナで開催された「モーターヴァレーフェスト」の活気あふれる様子(写真25点)
イタリア北部のエミリアロマーニャ州、北はピアチェンツァからボローニャまでの間にはスポーツカーや関連サプライヤーが集中している。モデナエリアにはフェラーリ、マセラティ、ランボルギーニといった古参スーパーカーブランドが肩を並べるほか、ドゥカティといった二輪メーカー、そしてレースコンストラクターたるダラーラはパルマ近郊に拠点を構えている。さらにパガーニといった新興少量生産ブランドもあり、新規ブランド設立の動きも歴史を辿れば限りなく存在する。そして、素晴らしいことに、オイルショックをはじめとする数々の困難に直面したにも関わらず、当地のスポーツカービジネスは現在も継承され、概して好調であるということだ。
エミリアロマーニャ州が音頭を取って、この重要産業をさらに活性化させるべく、関係各社と自治体が一体となって誕生したのが、モーターヴァレー社である。現在は、ダラーラのCEOであるアンドレア・ポントレモリがそのトップを務める。なるほど、これは賢い選択だ。ダラーラといえばフォーミュラカーなど、モータースポーツのイメージが強いが、ロードカーの開発から熟成まで、得意の空力チューニングや、ヴィークル・ダイナミクスのシミュレーションなど、彼ら無しにモーターヴァレーのスーパーカーは完成しない。そんな全方位にコンタクトを持つ”裏方”たるダラーラがこういったコンソーシアムを仕切るというのは極めて正しいではないか。
今回で7回目を迎えるモーターヴァレーフェストであるが、その目的は世界に向けて当地のブランドをアピールすることであり、期間中には多くのイベントがモデナ市街を中心に開催された。モデナは食に、音楽に、観光資源が豊富であり、広く世界中から当イベントを目指してツーリストがやってくる。この週末は宿泊施設も満室となるから、参加を予定される方は早めの予約が必要だ。
モデナ市街の中心、ピアッツァ・ローマには各ブランドのニューモデルが展示された。やはりパガーニやフェラーリなどの希少なモデルは存在感があるが、展示はそれだけにとどまらない。トラクターやバイクをはじめとしてあらゆる車が集結する。企画展でユニークだったのはホンダ車のオーナーを集めた展示だ。さすがJDMブームである。少し前ならば、当地で日本車をフィーチャーする展示など考えられなかったのだが。
スポーツカーイベントとしてこのモーターヴァレーフェストにアドバンテージがあるのは、近隣に多くの自動車ミュージアムがあるという点だ。マラネッロ、そしてモデナと2つのオフィシャル・ミュージアムを持つフェラーリ。オフィシャルとランボルギーニ創始家、それぞれがマネージメントする2つのミュージアムをもつランボルギーニ。そして、マセラティ、パガーニなど多くのミュージアムなど枚挙にいとまがない。期間中は開場時間も延ばし、様々な特別企画でビジターを迎えるから、ファンは一気にそれらを廻ることも可能だ。
今回、このモーターヴァレーフェストに合わせて、マセラティミュージアム(Collezione Maserati Umberto Panini)がリニューアルオープンしたのも、大きなニュースだ。マセラティ社が長年所有したA6GCS/53ベルリネッタやバードケージなど希少な個体が展示されているほか、一台のみが存在するアルフィエーリ・コンセプトなどマセラティスタ必見のモデルも並ぶ。モデナサーキットの咆哮も聞こえる絶好のロケーションに移転したミュージアムはオープン初日から多くのビジターを迎えた。
もちろん、クラシックカーに関してもモーターヴァレーフェストは手厚い。当地伝統のハンドメイドによるボディクラフトに関するスタンドも複数設けられた他、愛好家たちによるオーナーズクラブスタンド、通常は侵入不可の旧市街を開放してのクラシックカー・パレードランなど盛り沢山である。
ハイライトとしては今回で25回目を迎えるクラシックカーコンコースデレガンス、”トロフェオ・サルヴァローラ・テルメ”が大きな注目を集めた。筆者も毎年、審査員として参加しているが、もはやローカルイベントの域を超えたスケールへと成長している。世界各国からも参加者を集め、70台を超える希少なモデルがノミネートされた。モデナ近郊の自然にあふれたテルメ(温泉)のフィールドに並べられた各車をジャッジするには、少々夏日が過ぎたが…
今回はフェラーリ特集ということもあり、1954年の750Monzaを皮切りに30台あまりの跳ね馬たちが集結。そのクオリティもさすが当地モデナであった。LE FERRARI DA FAMIGLIAクラス優勝の 1963 Ferrari 250 GTEなどエレガントなモデルも目立ったが、BEST OF FERRARIは 1985 Ferrari 288 GTO が。そして BEST OF SHOW 2025は1954 Ferrari 750 Monzaが獲得した。フェラーリ以外もレアな個体が並ぶが、個人的にはオリジナルへの偏狂な(失礼)拘りを見せてくれた 1975 Alfa Romeo Alfetta GTや、1973 De Tomaso Pantera GTSにも大きな拍手を送りたい。(https://www.trofeosalvarolaterme.it/)
モーターヴァレーフェストは自動車ファンや観光客を存分に楽しませてくれたが、実はそれだけでは終わらない。多くのスポーツカービジネスに関わる人々へ向けて、当地の現状の紹介や、将来へ向けての方向性を語る多くのカンファレンスが開催されたのだ。オープニングディの早朝には、モデナを代表する歴史的講堂でモーターヴァレートップテーブルが開催された。フェラーリのヴィーニャCEOやマセラティのフィチリCEO、もちろん前述のポントレモリ CEOなど各ブランドのトップが登壇し、これからの展望に関して白熱した議論が行われた。もちろん会場は関係者でぎっしりであった。
こういった自治体と当地の企業の寄り合い所帯からなるコンソーシアムの運営はそう簡単なことではないであろうが、この第7回モーターヴァレーフェストを見る限りにおいては、皆が将来に関する危機感を共有しつつ、ひとつの方向性を見出したように感じる。そして何より当地の人々の車に対する強いパッションを感じる好イベントであるのだ。
*本年は6月上旬開催となったが、これまでは5月中旬から後半の開催が多かった。この時期、多くの重要なクラシックカーイベント、たとえばコンコルソデレガンツァヴィラデステやミッレミリアなどが開催されるため、それらと併せて参加するのもグッドアイデア。オフィシャルサイトで日程など詳細は発表されるのでチェック頂きたい。ちなみにこのサイトから当地のミュージアムや年間のイベント情報も取得できるので、一見をお勧めします。
https://www.motorvalley.it/motorvalleyfest/en/
文:越湖信一 写真:越湖信一、モーターヴァレー
Words: Shinichi EKKO Photography: Shinichi EKKO, MOTORVALLEY
協力:MOTORVALLEY Andrea Pontremoli, Federica Cortezzi, Termedella Salvarola