人生100年時代。長寿には新たな課題も付きまとう。第一三共ヘルスケアは2025年6月27日、都内で記者発表会を実施し、今後さらに強化する「サステナビリティ活動」の新たな方針を提示した。
発表会には代表取締役社長の内田高広氏、サステナビリティ推進マネジャーの岩城純也氏が登壇。新コンセプト「Wellness for GOOD」の基本的な考え方や取り組みについて説明した。
■人生100年時代のQOL向上を使命に。社会・地球課題への挑戦
内田社長は冒頭、「人生100年時代のQOLを支えるというビジョンのもと、自分自身で健康を守り、対処する『セルフケア』や『セルフメディケーション』の推進を通じて、誰もがより健康で美しくあり続ける社会を目指してきた」とし、「健康を支える製品・サービスの提供にとどまらず、社会を取り巻くさまざまな環境に積極的に働きかけていく必要がある」と力を込めた。
特に昨今は社会保障費の増大や気候変動、温暖化、さらには誤った情報の氾濫など、社会課題が多様化しており、「誰もが健康で美しくあり続けるために、そうした課題解決に取り組むことがこれまで以上に求められている」と述べた。
今回新たに策定したサステナビリティのステートメントには「100年後も人と社会と地球が健やかであり続けるために」という言葉を掲げ、「第一三共ヘルスケアはサステナビリティ活動を通じ、一人ひとりと社会、地球が美しく健康であり続けることを支え、思い描く夢を未来へつないでいく」と語った。
同社はこれまでも環境負荷低減に向けた取り組みを進めてきた。例えば製品や販促資材のプラスチック削減、災害被災地やひとり親世帯などへの製品寄贈などを行っている。「こうした取り組みの広がりを受け、改めてサステナビリティ活動を健康、社会、環境の3つの課題に整理し、これからさらに強化していく」とし、「社会や地球の健やかさなくして、人の健やかさは実現できないという考えで活動を推進していく」とした。
■新たな健康課題に挑む“三本柱”でセルフケア教育と社会貢献を推進
続いて登壇したサステナビリティ推進マネジャーの岩城氏は、平均寿命と健康寿命の差が約10年ある現状を挙げ、「寝たきりや体の不自由さに苦しむ人が増えている。さらに気候変動に伴う熱中症や感染症のリスクなど、人生100年時代には新たな健康課題が生まれている」と問題提起した。
同社はこれらの課題に向き合うため、人(健康)・社会・地球(環境)の3つのカテゴリーを柱に据えた活動体系を構築。「健康課題については正しい知識の啓発、社会課題では疾患理解の促進や製品寄贈、環境課題では製造現場での環境対応やリサイクル、環境団体への寄付を進めていく」と説明した。
その健康領域で主軸に据えるのが「セルフケア アカデミー」だ。高校生を対象にした出張授業を通じ、市販薬の正しい使い方や健康管理の基本を学んでもらうほか、SNSなどにあふれる誤情報に惑わされない力を養うプログラムを用意。「中高生は自ら情報を得てセルフケアを始める大事な時期。正しい知識を伝える機会にしたい」と岩城氏は語る。
さらに、生徒自身が制作した映像コンテンツをSNSなどで発信する「セルフケアアンバサダー」など、若い世代の情報発信力を生かす考えを示した。
一方、仮想空間を活用した「PMY Academy」も始動。提携する中学高校でメタバースを活用した学習環境を整え、健康管理やセルフケアの大切さを学べる無料プログラムを提供する。「リアルの出張授業とオンライン教育の二軸で次世代の健康リーダーの育成、そしてセルフケアの大切さを広げていきたい」と展望を語った。
社会領域では「みんなの生理痛プロジェクト」を中心に、特に若年層に向けた啓発活動を強化する。生理痛の我慢を当たり前としない社会の実現を目指し、「痛みを抱える人もそうでない人も、生理痛について理解を深め、思いやりの気持ちで向き合える社会をつくりたい」と岩城氏は述べた。ティーン世代に向けた啓発活動や鎮痛薬の正しい使用法についての情報提供も行い、選択肢を広げる取り組みを今後も継続していくという。
さらに環境領域では「おくすりシート リサイクルプログラム」を強化。薬のシートが年間で約1万3千トン生産される中、約7割の人が資源ごみと認識していない実態を踏まえ、「おくすりシートを資源として活用する意識を広げたい」とした。2022年に横浜市中区から始まった同プログラムは現在横浜市全区で100拠点以上に拡大し、2025年4月末時点で10トンを超える回収実績をあげている。岩城氏は「今年10月からは東京都東大和市とも連携し、今後さらにエリアを拡大したい」と意欲を示した。
■高校生の関心の高さに驚き! セルフケア アカデミー参加者の反応とは
発表会終了後、第一三共ヘルスケアが新たに取り組むサステナビリティ活動の現状や詳細などについて、岩城氏に個別に話をうかがった。
――セルフケア アカデミーを5月から開始されたとのことですが、実際に生徒さんたちの反応はいかがでしたか?
最初は土曜日に実施したので、学校が休みの日に生徒さんが集まってくれるか不安だったのですが、高校1年生を中心としたたくさんの生徒さんが参加してくれました。質問も40以上寄せられて、非常に積極的に参加してもらえています。私たちが思っていた以上の反応で驚きましたね。
――生徒さんからはどんな質問が多かったのでしょうか?
印象に残っているのは「15歳から飲めるお薬について、15歳になったらすぐ飲んでいいのか」という質問ですね。薬の対象年齢の基準は身体の代謝機能などが成熟するタイミングに合わせて決められていますが、身長や体重などの体格の個人差に不安を感じている生徒さんも多かったようです。また「インフルエンザのときに風邪薬を飲んでいいのか」「薬はジュースで飲んでもいいのか」などの質問もありました。
痛み止めの使い方に関する質問も印象的で、「痛み止めはできるだけ我慢してから飲むものだ」という思い込みを持っている生徒さんも少なくないようですね。日本では昔から痛みに耐える文化がありますが、効き目を十分に発揮するためにも、早めに服用してほしいと伝えています。
――改めて、セルフケア アカデミーを立ち上げた背景を教えてください。
アンケート調査などで、薬やセルフケアに関する正しい情報を知りたいという声が非常に多く寄せられていたんです。これまでウェブ上の情報発信や相談窓口で対応してきましたが、対面で直接伝える場が少なく、もっと積極的に関わるべきだと考えたのがきっかけです。さらに学校の「探究学習」の時間に活用していただける内容としても期待されています。
――若い世代がSNSなどで誤情報に触れるリスクについてはどう捉えていますか?
実際にネット上では「インフルエンザでも風邪薬を飲んで大丈夫」という誤った情報がヒットするケースもあります。生徒さんには「自分で正しい情報を判断する目」を養ってほしいと考えています。
――ほかに、サステナビリティに関してどのような活動をしているのでしょう?
「みんなの生理痛プロジェクト」のほかに、がん患者さん向けのスキンケア支援活動なども行っています。例えば、当社のスキンケア製品を活用してセミナーを実施しているのですが、参加者のみなさまには植物由来のポリ乳酸繊維を100%使用した弱酸性のボディタオルも非常に好評です。第一三共はがん領域に強みをもつ製薬会社なので、グループ全体のシナジーを生み出す重要な取り組みだと考えています。
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
25年度はセルフケア アカデミーやおくすりシート リサイクルプログラムといった初めての取り組みが多数あるので、まずはこれらをしっかり軌道に乗せたいと考えています。社会に対するアプローチという部分もすごく大事な活動だと思いますので、しっかり実施していきたいですね。