リンナイは5月29日、浴槽浴と月経前症候群の緩和に関する調査の結果を発表した。

浴槽浴がPMSの症状を緩和か

同社は、九州大学大学院芸術工学研究院准教授の西村貴孝氏の研究グループとの共同研究において、日常生活における浴槽浴が月経前症候群の症状を緩和し、女性のQOL(生活の質)向上に繋がる可能性が示唆されたことを発表した。本結果は、2024年6月14日から16日に行われた日本生理人類学会 第85回大会及び11月30日行われた日本生理人類学会フロンティアミーティングにて発表された。

PMSとその社会的影響

月経前症候群(PMS:premenstrual syndrome)とは、月経前、3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいう。具体的な症状としては、腹痛や腰痛、憂鬱感、眠気などがあり、個人によって重篤さや症状の種類は異なる。日本国内における月経に関する体調不良による経済損失は年間約5,700億円と報告されており、PMSは女性の重要な健康問題のひとつとなっている。

PMS症状軽減を目的としたセルフケアとして「入浴時に浴槽に浸かる」ことが知られている。成人女性1,200名を対象として独自に実施したアンケートにおいても一定数の方が実施されていることを確認しているが、浴槽浴がPMS緩和に効果的かは十分に明らかではない。そこで今回、浴槽浴がPMS症状に与える影響を明らかにすることを目的として調査が実施された。

入浴実験による調査手法

健康な成人女性10名を対象として入浴実験を実施した。参加者の月経周期に留意して月経開始3~10日前の間に行い、実験日の前日と実験日の当日の就寝前にPMS症状に関する確認を行った。実験室の環境は室温28℃、湿度50%とし、浴槽の温度は40℃に設定した。対象者は実験開始後5分間、浴室内で椅坐位での安静をとり、その後浴槽へ移動し15分間の入浴を行った。その後、浴槽を出て、再度椅坐位で10分間安静に過ごした。実験は11時~15時の間に実施した。

PMS症状については、J-DRSP(PMS症状の重症度を得点化して記録する為に臨床現場等で用いられている記録手法)によって得点化した。これは点数が高い方ほど症状が重いことを示している。唾液からはコルチゾール濃度を調査した。コルチゾールはストレス指標として知られているホルモンで、濃度が高いほどストレスを受けていることを示している。

  • 入浴実験の方法

PMS症状スコアとストレス変化

浴槽浴前後のPMS症状のスコアとコルチゾール濃度の変化を検討した。PMS症状スコアは、入浴実験前日の就寝前では54.3±15.6点、入浴実験当日の就寝前では50.7±25.5点で、減少傾向ではあったが、統計的有意差は見られなかった。

  • 被験者毎の実験前日の夜と実験日の夜のPMS症状のスコア

コルチゾール濃度は、浴槽浴前後で減少している場合入浴によってストレスが軽減した可能性がある。実験前日のPMS症状のスコアと浴槽浴前後のコルチゾール濃度の変化量には相関が見られた。PMS症状のスコアが高い人ほど、浴槽浴後にコルチゾール濃度が減少する傾向が見られた。

  • 被験者毎の入浴によるコルチゾールの変化とPMS症状の関連

浴槽浴によってPMS症状が緩和される可能性が考えられるが、より慎重な検討が必要とされる。今後この関連が、浴槽浴の効果であるかを証明するため、シャワー浴や入浴無し条件との比較を行い、検証を行っていく予定だという。

今回の調査結果を受け、研究関係者からは以下のような見解が示されている。

「女性のQOL(生活の質)に密接に関連するPMSですが、これまでの研究から運動や水泳等によって改善されることが報告されています。一方で、日本人が好む浴槽浴も温浴作用や静水圧によりこれらと類似した生理応答が生じます。そこで本研究では浴槽浴とPMS症状との関連を検証したところ、浴槽浴がPMS症状緩和を促すことを示唆する結果が得られました。従って、日常生活における浴槽浴はPMS症状を緩和し、女性のQOL向上につながる可能性があります。本研究報告は速報的であり、今後は、どのような生理的メカニズムにより浴槽浴がPMS症状を緩和させ得るのか、また実際に習慣的な浴槽浴がPMS症状を緩和させるのか等を検証し、科学的エビデンスを蓄積していきたいと考えています」(共同研究者 九州大学院 西村准教授)

「この研究は、PMSの症状緩和と温熱的背景からの浴槽浴の有効性に焦点をあてたものです。使い捨てカイロなどを使って、症状を緩和させていた有症者にとっては、この報告は、救われるかもしれません。高温多湿な日本では、浴槽入浴の効果は一般に理解しやすいですが、ドライな気候の欧米では、身体を湯に浸漬しない国もあります。世界でのPMSの有訴者がどのように分布しているのかわかりませんが、日本的入浴方法の有効性を、世界に是非とも示していただきたいです」(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 若村智子教授)