
今夏のフジロック出演も決定しているメイ・シモネス(Mei Semones)。自身のスタイルを「ジャズとボサノヴァにインスパイアされたインディーJ-POP」と形容する彼女の音楽は、さまざまな切り口から語ることができるはず。日本とアメリカのルーツ、デビュー・アルバム『Animaru』について語ってもらった前回の記事に続いて、ジャズ評論家・柳樂光隆によるインタビューをお届けする。
最近、個性的な若手のシンガーソングライターが次々に頭角を現している。その中でもメイ・シモネスはかなり独特で気になる存在だ。ミシガン州で生まれ育った彼女は、日本人の母を持ち、名前の漢字表記は「芽衣」。アルバムや楽曲のネーミングのみならず、歌詞にも日本語と英語が入り混じっている。そこから生み出される世界観は唯一無二だ。
ただ、彼女の個性はそれだけにとどまらない。バークリー音楽大学でジャズギターを学んだ彼女は、キャッチーな歌ものを書く際に、ジャズ由来のギターテクニックや作曲法を巧みに駆使している。ボサノヴァやマスロックの影響が感じられる一方で、ジャズ・スタンダードを思わせるような構造が垣間見えるのも特徴のひとつだ。彼女の音楽は決してジャズの文脈だけで語られているわけではないが、聴けば聴くほど、そこにジャズの影響を強く感じざるを得ない。
デビューアルバムを発表したばかりのメイ・シモネスが、チェット・ベイカーの楽曲を再解釈する企画盤『Chet Baker Re:imagined』に、日本盤ボーナストラックで参加している。英デッカ・レコードの指揮のもと、イフェ・オグンジョビ(エズラ・コレクティヴ)、ベニー・シングス、プーマ・ブルー、マット・マルチーズ、韓国のサラ・カンなどが名を連ねる本作において、彼女のカバーはひときわ印象的だ。原曲への敬意と独自の解釈のバランスも見事だし、自身のジャズサイドの魅力を浮かび上がらせている。
ここではメイ・シモネスにとっての「ジャズ」、そして「歌とギター」にフォーカスして話を聞いた。これを読んでから聴き直すと、彼女の音楽の聴こえ方が変わるはずだ。
ウェス・モンゴメリー、カート・ローゼンウィンクル、そしてコルトレーン
―ジャズにのめり込んだきっかけは?
メイ:通ってた高校にすごくいいジャズ・プログラムがあったのがきっかけ。その前からギターは弾いていたんだけど、「あ、高校にギターが弾けるクラスがあるんだ」って気づいて。でも、ジャズ自体は子供の頃から聴いてた。父が聴いてたラジオでかかってたし、家にはCDコレクションもあった。でも実際に演奏したのは高校に入ってからってこと。アメリカの高校だと、ジャズといえばビッグバンドが一般的なんだけど、私の高校はクインテットやカルテットみたいなスモールコンボ中心で、そういうグループで演奏するうちに、大好きになっていった。
―家で聴いてたのはどんなジャズですか?
メイ:マイルス・デイヴィス、コルトレーン、ビル・エヴァンス……いわゆる名盤はいっぱいあった。『Chet Baker Sings』のCDもあったと思う。
―高校生のころ、どんな曲を演奏していましたか?
メイ:基本はスタンダード。レパートリーの習得が目的だったので、チャーリー・パーカーのソロをたくさん採譜させられた。ショー・チューンやブロードウェイ・チューン……ジャズを学ぶ人間が最初に演奏させられる曲ならなんでも演奏した。
―その後にバークリー音大に行くんですよね。専攻はなんだったんですか?
メイ:Pro Music。簡単に言うと、いくつかの分野を組み合わせて自分なりの専攻を作れる学科だったので、トランスクリプション(耳で聞いて採譜すること)を学ぶギター・ラボや、ジャズハーモニー、イヤートレーニングなどなどって感じで、ギターのパフォーマンスを学ぶクラスを中心に受けてたかな。
MVを上掲した「Dumb Feeling」のギターチュートリアル動画
―大学の授業で、特にあなたの音楽の糧になっているものがあれば聞かせてください。
メイ:ギター科のラリー・バイオン(Larry Baione)教授。ご自身はストレートアヘッドなビバップのギタリストだけど、彼のレッスンはすごくためになった。「これを採譜してきなさい」って課題を出してくれるんだけど、そのおかげでバド・パウエルを熱心に聴くことになった。今、バド・パウエルが大好きなのはそのおかげだって言える。ジム・ホールもよく採譜したな。ジム・ホールはその前から好きだったけど。
あとは、基本的なジャズアンサンブルのクラス。バークリーの良い点は、ウェス・モンゴメリー・ラボ、カート・ローゼンウィンクル・ラボといった感じで、ミュージシャンに特化しながら徹底的にソロや楽曲やギターリックを採譜して学ぶことができたこと。あれはすごく役に立ったと思う。
―ウェス・モンゴメリーについてよく言及していますよね。どんなところが好きですか?
メイ:モチーフの展開の仕方かな。たとえば、一つのモチーフを演奏したら、その同じモチーフを丸々1コーラスかけて発展させるでしょ? で、次のコーラスではまた新しいアイデアを持ってきて、それもじっくりと展開していく。そんなふうに、思いついたアイデアがその場でどんどん広がっていくのが伝わってくるところがすごく好き。それに彼の演奏にはちゃんと流れがある。最初は単音のフレーズから始まり、コードを弾き、最後はオクターブ奏法というように、しっかりと「構成」されている。ソロの流れ、という意味でもよく考え抜かれているしね。学校の授業では「今週は『Days of Wine and Roses』のソロ」って感じで毎回課題が出て、それをクラスの前で弾かされたから、ソロの弾き方もしっかり学ぶことができた。
―特に好きなアルバムは?
メイ:『Boss Guitar』が大好き。あとは『The Incredible Jazz Guitar』。「Four on Six」や「Airegin」が入ってるから。それと、ライブ盤の『Smokin at the Half Note』は聴いたことある? あのアルバムに入ってる「No Blues」が最高だから聞いてみてほしい。
―先ほど名前が挙がったカート・ローゼンウィンクルはいかがでしょう?
メイ:ウェスよりもモダンなんだけど、すごくメロディアスなギターを弾くところが好き。彼のプレイを聴いてると、アイデアが溢れ出ているのがわかる。彼の頭と、彼に聴こえる音の間には、障害物が何もないんじゃないかって思えるくらい流れるようにスムーズで、そこがとても好き。あとは、彼が音楽をかなり深く学んでいることは一目瞭然だけど、そこから新しくてモダンなものを作り出しているところも。ウェスと同様に、授業では毎週のようにカートの曲の採譜をして、彼の楽曲を学んでいた。カート自身が作った教材を、教授が授業に使うこともたまにあったかな。
アルバムなら『East Coast Love Affair』『The Next Step』が好き。彼の作品は全部好きだけど、特に初期のもの。『Intuit』に収録されている「Conception」をいつも聴いてた。
―「大学時代に採譜していた」と仰ってたジム・ホールはどうですか?
メイ:プレイにおける余白の使い方がすごく好き。やたら長くて派手なフレーズを弾いたり、これ見よがしにテクニックを見せびらかすタイプではなくて、もっとミニマルで、余白の使い方がうまい。しかも、彼のプレイってすごくリズミカルでもある。ジム・ホールの曲を採譜してて一番難しかったのは、聴いてる時はストレートでシンプルに思えるのに、実際に弾こうとすると、簡単なリズムじゃないことがわかること。「あれ?」って戸惑う。そこがすごく好き。彼がビル・エヴァンスとやったピアノとギターのデュオは、まさに音楽における会話、コミュニケーションという感じで、本当に美しいよね。
―ジム・ホールもカート・ローゼンウィンクルも、すごく複雑なハーモニーが特徴ですよね。自分の音楽にもそれらの影響は反映されていると思いますか?
メイ:曲によってなんだけど……一つ思い浮かぶ例は、ビル・エヴァンスの曲を採譜した時、マイナー2-5進行の上で彼が弾いてたリックがすごく印象的だったから、そのリックの一部を抜き出して、それを元に新しいメロディを作ったことがある。そういう感じで自分の音楽に応用することはあるかな。
―ジャズミュージシャンの作曲の応用みたいですね。
メイ:もう一つ、コルトレーンのマルチトニック・システムで、3度で転調していくやつがあるでしょ。あれって複雑だと思われがちだけど、自分の曲のターンアラウンドの部分にちょっと入れてみたりしてる。さすがにそれだけで一曲すべて構成するのはメロディ的にも追いにくいし、必ずしもポップス向きではないよね。でも、そういう要素をちょっと取り入れるのは、インスピレーションになるし、聴いてても面白いんじゃないかって。
Pitchforkの企画「My Perfect 10」で、メイが10点満点のアルバムとして選んだ『Coltrane Plays The Blues』
―だから、あなたの曲は何度聞いても発見があるんですね。コルトレーンのことは本当に大好きみたいですね。どんなところに惹かれますか?
メイ:一番はプレイに込められた感情。あとは、音を聴いた瞬間「コルトレーンだ」とすぐにわかる個性。誰もあんな音は出せない。もちろん、偉大なミュージシャンにはそういう人は大勢いるけれど、特にコルトレーンは唯一無二。
それと……どう説明したらいいかわからないんだけど、彼の音楽を聴いてるとなぜか孤独感を忘れることができるんだよね。すごく安心するというか……なぜか「繋がっている」という気持ちにさせられるから。
―どの時期のコルトレーンが好きですか?
メイ:60年代かな。でもどの時期も好き。彼の成長とかがよく表れていると思うから。
メイがコルトレーンのTシャツを着用
ジャズ・スタンダードとブラジル音楽の影響
―ギターを弾きながら、そのフレーズをユニゾンで歌うこともありますよね。あれはどこから来たテクニックなんですか?
メイ:バークリーでジャズを学んでいた頃、先生たちからよく「弾きながら歌うと、即興演奏が上達する」と言われて。それで私もやってみたんだけど、実際すごく役に立つことがわかった。ギタリストって、つい長すぎるフレーズを弾きがちだけど、歌いながら弾くと「ここで息継ぎが必要なんだな」って自然に気がつく。そうすると、ソロと即興演奏の中にちゃんと”間”を取れるようになる。そうやっているうちに、それ自体が一つのサウンドとして面白いなと思うようになって、意識して取り入れるようになった。
私の曲作りは大体ギターから始まるから、ギターラインを弾き、同時に歌うのは、自分のギタリスト的アプローチを維持しつつ、歌としても成立させる良い方法だなって。
「I can do what I want」イントロから歌とギターのユニゾンを披露
―曲作りについても聞かせてください。特に研究したコンポーザーは?
メイ:コンポーザーは特にいないかな。もちろん、コルトレーンや、ジャズのスタンダードは長年にわたって弾いてきたし、学んでもきた。でも、特にこれと言った特定のコンポーザーを掘り下げたことはないかも。ちょっとジャンルが違うけど、ジルベルト&ジョビンの楽曲はとても好き。ジャズならスタンダード曲だね。
―では、特に好きなジャズ・スタンダードを挙げるとすれば?
メイ:「Stella by Starlight」が昔からすごく好き。あと、マイルス・デイヴィスの「Solar」も。最近のお気に入りは「Beatrice」。「Polkadots and Moonbeams」もいいよね。
―あなたの音楽からは、ポップスやインディロックの要素とともに、そういったジャズ・スタンダードやグレイト・アメリカン・ソングブックの影響も感じるんですよね。
メイ:子供の頃からロックを聴いてきたし、ポップミュージックにも自然と触れてきた。でも一番影響を受けて学んだのは、やはりジャズやジャズ・スタンダード。だから自分の音楽ではその全部をミックスして、自分らしい、自分だけのサウンドを作りたいと思っている。大好きだった色々な音楽へのリスペクトも込めつつね。
―さっきジルベルト&ジョビンの名前を挙げてましたが、ブラジルの音楽に関心を持ったきっかけを聞いてもいいですか?
メイ:ジャズを知ったのとちょうど同じ頃。高校でジャズを演奏してた頃、先生が持ってきた曲の中に「イパネマの娘」や「Corcovado」や「Wave」などが入ってた。レパートリーとして練習して、実際に演奏したのがきっかけ。その後、もっと色々と聴くうちに大好きになった。自分でもポルトガル語で歌おうとしたこともあったくらい。
―ブラジル音楽のどんなところを好きになったと思いますか?
メイ:聴いててとても心地いい、リラックスした感じかな。それに、ブラジル音楽のボーカリストは、あまりビブラートや装飾をつけた歌い方をしないで、ごくストレートに、まるで普段の会話で喋ってるように歌う。そんなところも好き。あと、コードとボサノヴァのリズムもね。
―最初好きになったのは、どのあたり?
メイ:やっぱりジルベルト&ジョビン。今でもジョアン・ジルベルトはお気に入り。ジョアンの声ってすごくソフトだし、ボーカルで何か派手なことをしてるわけじゃなく、心からのストレートな歌。すごく正直で、嘘がない。そういうところが大好きだし、私の歌にとってのインスピレーションになってる。というのも、私はボーカルレッスンやトレーニングを受けたこともないし、テクニックっていう意味では、自分をボーカリストだなんて言う自信はまったくない。でも彼の歌を聴くと、まるで家のキッチンかどこかで歌ってるみたいな自然な感じで、それがすごくいいなって思えるから。
―ジョアンで好きな作品は?
メイ:スタン・ゲッツとの「E Preciso Perdoar」はすごく好き。「Chega de Saudade」も。その曲はたしか英語圏では「No More Blues」って呼ばれてるはず。
―アントニオ・カルロス・ジョビンはどんなところが好きですか?
メイ:全部の曲がそうだというわけじゃないけど、彼の作曲や楽曲には、明るさや喜びが溢れているように思えて、そこがとても好き。心踊るような楽しさやきらめきがある。ジョビンでもし1曲を選ぶとしたら「Águas de março〜Waters of March」。私も友達(ジョン・ローズボロ)とカバーしてる。デュエットという点でも大好きな曲。
―ブラジル音楽のギターに関しては、どんなギタリストを研究しましたか?
メイ:どうだろう、ジョアン・ジルベルトを聴いたくらいかな。もっといろんなブラジル音楽に触れたいと思ってるところ。まだ表面的にしか聴けてないから、もっと勉強したいし、採譜もコンピングもしていきたい。
―気になってるギタリストはいます?
メイ:ギンガ(Guinga)の曲を学んでみたいなと思ってるところ。曲によっては少し難しそうだけど挑戦してみたい。彼の曲を弾けたらクールだよね。
歌とギター、チェット・ベイカーを語る
―ブラジル音楽でもよく使われている、ナイロン弦のギターを弾き始めたきっかけは?
メイ:ギターを弾き始めた時、両親が買ってくれた最初のギターがナイロン弦だったの。うちの親が、私にスズキメソッドのギターレッスンを習わせようとしてたからだと思う。
その後、ロックをやりたくなったからエレキギターに持ち替えたけど。
でも、つい数カ月前に、初めて自分でナイロン弦ギターを買ったんだ。今はそれを弾くのがとっても楽しい。サウンドも弾き心地も、エレキやスチール弦とはまったく違って、とても新鮮だから。でもさっきも言ったように、ナイロン弦ギターで演奏されてる音楽を、もっと掘り下げなきゃいけないと思ってる。今は、自己流で弾いてるだけだから。
―エフェクターはどんなものを使ってるんですか?
メイ:実をいうと、エフェクターとか全然使わないタイプなの。基本、ペダルも何も使わず、ギターを直にアンプに繋いでいる。レコーディングの時もかなりミニマルで、メインギターにちょっとリヴァーブをかけて、曲によってディストーションを効かせたエレキギターが入るくらい。エフェクトはその2つだけ。ライブではエフェクターを一切使わないし、レコーディングでもストレートでクリーンな音っていうか、自宅で一人で弾いているときと同じ、そのままの音にしたいから。
―ギターへのこだわりは?
メイ:メインのエレキは、数年前、大学時代にお父さんが買ってくれたPRSのMcCarty 594。弾きやすさ、サウンドという意味で、私にとっては完璧なギターだから気に入ってて、そればかり弾いてる。それと、最近はGuildのアコースティックギターも弾いていて、デビュー・アルバム『Animaru』に入ってる収録曲の多くは、このアコギで書いた。それとさっき話してたナイロン弦のCordoba。この3本がメインギターかな。
―ここからは「歌」について。よく聴いてきたボーカリストは誰ですか?
メイ:真っ先に思い浮かぶのは、ジョアン・ジルベルトとチェット・ベイカー。ビリー・ホリデーも大好きだけど、彼女みたいに歌おうとしたことは一度もないかな。チェット・ベイカーの歌声は特に好きで、自分の歌い方にも影響を与えてると思う。
―チェットの歌は、どんなところに魅力があると思います?
メイ:とてもソフトで優しい声だし、聴いててすごく心地いい。派手に飾り立てたり、巧さを見せびらかしたり、ドラマチックに歌い上げたりしないところも好き。それでいて音程は完璧だし、歌声がまるで楽器みたいっていうか、トランペットを吹いているみたいに聴こえるの。無余計なものが一切なくて、ただ音符と言葉をちゃんと歌うだけ。私にとっては、それだけで十分だと思う。
―『Chet Baker Re:imagined』では「My Ideal」をカバーしてますね。あの曲のどんなところが好きですか?
メイ:アレンジが本当に美しい。音数が少なくて、余計な要素が一切ないよね。彼の歌声、ベースとドラム、それにあの高い音の楽器は……チェレステ? ミニマルなのに必要なものが全部あると思えるアレンジが好き。
―今の説明は(同曲を収録している)『Chet Baker Sings』というアルバム全体にも当てはまりそうですね。
メイ:うん、そういうこと。「My Ideal」は歌詞も好き。チェット本人が書いてないことは知ってるけど。
―「My Ideal」をカバーするうえで、どんなことを意識しましたか?
メイ:アレンジに関しては、原曲に忠実にしようと思った。私が弾くギターに、ベースとドラム、高音の部分はストリングスが担うという形で。ほぼ一音残らず書き起こして、ストリングス用にアレンジした。もちろん、ちょっと違うハーモニーを加えたり、リズムを少し変えたところもあるし、自分の声に合うようにキーは変えなきゃ行けなかったけど、基本的には元のラインをそのまま使っている。重要だったのは、ストリングスを入れること。ヴィオラとヴァイオリンが私のバンドにいることは、自分の音楽において大事な部分だから。
―そうそう。いつもヴァイオリンやヴィオラを入れた楽曲を作ってますよね。クラシック音楽にも関心があるのでしょうか?
メイ:いや、まだそれほど聴いているわけではないかな。ヴィオラとヴァイオリンを入れているのは、彼らが大学の友人だから。ヴィオラのノアとは大学1年生の時に会って以来、ずっと一緒にやってきて、今では私の音楽には欠かせない大きな一部。それに私が聴いてきたブラジル音楽には、素敵なストリングス・アレンジの曲が多かったしね。
Photo by Sophie Minello
―今回、チェット・ベイカーのコンピレーションが出るのは、若い世代にもチェット・ベイカーが聴かれている証拠でもあるのかなと。あなたもそう感じますか?
メイ:うん、その可能性はあると思う。ただし、私はちょっと偏ってるかもしれないけど。バークリーにいるのは全員ジャズが好きな人たちだったし、付き合う友達もみんなジャズが好きだった。だから「当然、みんなジャズが好きだよね」と思うけど、一般的な友達グループでは違うのかも。それでも間違いなく、ジャズは戻ってきているように感じる。チェット・ベイカーはその一人。レイヴェイも、チェット・ベイカーから影響を受けたと公言してるしね。彼女のようなアーティストのおかげで、また彼の音楽に注目が集まっているのかもしれない。
―ちなみに、『Chet Baker Re:imagined』はもう聴かれましたか?
メイ:先行公開されてた曲は聴いたよ。とてもよかった。そのアーティストが曲をどう捉えて、どう解釈して、自分ならでのひねりを加えて、その人のものにしていくか……それを聴けるのが楽しいし、それこそがこのアルバムのコンセプトだと思うから。
―最後に一つだけ。あなたの日本語の歌は、言葉が真っすぐ入ってきて、耳に残ります。シンプルな言葉づかいも関係しているのかなって思います。日本語で歌詞を書く際に考えていることを教えてもらえますか?
メイ:英語と日本語の切り替えは「自分にとってどちらが自然に感じるか、曲に合うのはどちらだろう?」って基準で決めてる。だから「この曲のヴァースは日本語、サビは英語」と最初にアイデアがあっても、実際やってみてしっくりこなかったら、すぐに変えてその場で自然に感じる方にしている。
最近は、両方の言葉で書くのにも慣れてきたかな。以前は「ここはすべて日本語、このサビはすべて英語」みたいに分けてたけど、今は一つの文の中で言葉を切り替えることもあるくらい。英語の単語だとメロディに入りきらないけど、日本語なら音数が少ないからちょうどいいこともあるしね。パズルみたいに、その場所に合うものを探して、うまくハマるものを選んでいる感じ。
―日本語の歌に関してインスピレーションになった曲ってありますか?
メイ:それほど日本の音楽は聴いてないかな。子供の頃は嵐とか聴いてたけど、それが影響を与えているとは思わないし。最近は青葉市子とか聴いてるよ。
―日本語の単語の選び方が、日本人から見るとちょっと変わってると思うんですよ。「カブトムシ」「ザリガニ」とかって、ポップミュージックではなかなか耳にしない単語ですよね。言葉選びはどんなことを考えてやってますか?
メイ:歌詞を書くときは英語でも日本語でも、基本はその瞬間に思い浮かんだことをただ書いているだけ。そもそも自分のことを「私は詩人だ」「ライターだ」みたいに思ったことはなくて、ただ座って頭に浮かんだことを書き始める感じ。でも「Kabutomushi」の時はテーマが日本って決まってた。子供の頃、横須賀のおばあちゃんちを年に1回訪れて、日本の学校に通ったりしてたとき、カブトムシを捕まえに公園に行ったこととか、そういう思い出を書いた曲だから。でも普段は思いつきで書くことが多いかな。「Kabutomushi」みたいなストーリーになることもたまにはあるけどね。
【関連記事】Mei Semonesが語る半生と今 日本とアメリカのルーツ、『Animaru』という自分だけの音楽
『Chet Baker Re:imagined』
発売中
再生・購入:https://chetbakerreimagined.lnk.to/album
1. Silver Lining – Joel Culpepper
2. That Old Feeling - Eloise
3. Im Old Fashioned - Sarah Kang
4. I Get Along Without You - Hohnen Ford
5. There Will Never Be Another You - Matilda Mann
6. Old Devil Moon - dodie
7. Its Always You - Puma Blue
8. Speak Low - Ife Ogunjobi
9. Ive Never Been In Love – Poppy Daniels
10. Time After Time - Benny Sings
11. Like Someone In Love - Stacy Ryan
12. My Funny Valentine - Matt Maltese
13. I Fall In Love Too Easily - mxmtoon
14. But Not For Me - grentperez
15. While My Lady Sleeps - Delaney Bailey
16. My Ideal / Mei Semones ※日本盤限定ボーナス・トラック
『Animaru』
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日本盤CD:解説/歌詞/対訳付き ボーナス・トラック収録
詳細:https://bignothing.net/meisemones.html
FUJI ROCK FESTIVAL '25
2025年7月25日(金)、26日(土)、27日(日)
新潟県・湯沢町 苗場スキー場
※メイ・シモネスは7月27日(日)出演