Mastercard Economics Instituteは、毎年取りまとめている、グローバルの旅行トレンドに関する報告書を公表した。特に今年の夏は、旅行先として東京と大阪が最も増加率が高いという結果となっており、旅行者からの注目度の高さがうかがえた。

  • 世界で人気の旅行先、トップ1位と2位に東京、大阪がランクイン。13位には福岡も

Mastercardのアジア太平洋地域チーフエコノミストのDavid Mann氏は、従来型の旅行だけでなく「体験」を重視する旅行者が増加していると分析。食事、ウェルネス、自然といった旅行の動機が拡大していると話した。

世界で最も人気の都市は東京、大阪

Mastercard Economics Instituteによる「トラベルトレンド2025」は、今夏のグローバルにおける旅行先の状況を分析し、トップ15のエリアを抽出。その中で8つがアジア太平洋地域となっており、1位は東京、2位は大阪となった。13位には福岡もランクイン。アジア太平洋地域では上海、ソウル、北京、シンガポール、ニャチャン(ベトナム)が入り、このエリアが旅行先として注目を集めていることが明らかになった。

特に日本が選ばれる理由の1つは為替の影響で、円安によって割安感のあることが、旅行先として選ばれやすいと分析された。旅行先の選択には、為替以外にもインフレ、地政学的な状況なども影響するとMann氏。ビザ発給のルール変更や、もちろん治安などの状況も影響するという。

  • 2024年と2025年の夏の旅行予約総数の差。東京が大きく伸ばしている

日本への旅行は、円安が追い風となって2024年夏にピークを迎えたが、なおもニーズは高く、多少の円高に振れているためインバウンドが鈍化する可能性はある。それでも日本旅行は人気の観光地となっており、為替、インフレという2つの指標は旅行先の選択に影響を与えていて、「お得感が求められている」とMann氏は話す。日本以外だと、ベトナムのニャチャンがランクイン。美しいビーチやナイトライフといった理由で人気だったそうだ。

ちなみに、為替変動に敏感なのはアジア太平洋地域の旅行者で、特に日本円が中国元に対して1%下落すると、中国の旅行者は1.5%増えていた。米国やニュージーランドからの旅行者の場合、同じように日本円が自国通貨に対して1%下落しても、約0.2%の増加にとどまって、影響は軽微だったと言う。

台湾、シンガポール、韓国の通貨に対して米国ドルが1%下落すると、各国から米国への旅行者が0.6~0.8%程度の増加だったという。

  • 中国人旅行者の場合、為替が1%変動したときに日本への旅行者が伸びていた

2024年には、シンガポールドルに対して日本円が約40%下落。シンガポールから日本への旅行者数は過去最高を記録した。インバウンドの増加で日本のホテルや航空券の値上がりはあったものの、為替差がこれを相殺して、訪日需要を後押しした形だ。

旅行には、各国の経済状況も影響する。世界的なインフレ傾向や地政学的リスクなどから、経済状況の不確実性が高まると、高額な旅行支出に慎重になる傾向がある。

この影響を顕著に受けているのが法人の取り組みだ。不確実性の高まりから海外出張を控える例が増え、地域内の移動が増加しているという。出張件数全体も減少傾向だが、1回あたりの平均滞在日数は増加。

例えば米国からアジア太平洋地域への出張では、コロナ禍前が8.8日間だったのに対して、24年には10.2日に拡大。出張予算をより効果的に活用しようとしている動きだとMann氏は見ている。こうした影響は、中国、シンガポール、欧州のドイツ、フランスなどで非常に顕著だという。

「体験」重視の旅行が人気

こうしたトレンドの中で、さらにこれまでの観光だけでなく、「体験」を重視する傾向に変化してきているというのがMann氏の分析。ウェルネス、自然環境、グルメ、そして「一生に一度の体験」と言った要素が重要視されているとのこと。

  • ウェルネストラベルに関して人気のエリア。既存の有名観光地もこうした方向性に軸足を移しているという

ウェルネストラベルは、近年爆発的に増加しているとMann氏は指摘する。Mastercard Economics Instituteの「ウェルネストレンド指数(WTI)」によると、タイでは自然と繋がる「エコロッジ」、心を整える「瞑想リトリート」といったリラクゼーション体験やセルフケア分野で先進的な取り組みがされているという。他にもナミビアや南アフリカといった国が人気。

食事の面では、名物料理だというバビ・グリン(豚の丸焼き)で知られるインドネシア・バリ島のギャニャール県や、2024年に44カ国から旅行者がレストランに訪れたというニュージーランドのクイーンズタウンはグローバルな美食の拠点として注目を集めていた。

さらにスポーツツーリズムも強力な旅行促進の要因になっているそうだ。これは日本人も同様で、米大リーグの大谷翔平選手のワールドシリーズ出場に際して、日本からの旅行者による支出が91%増加した。これ以外にも、大きなスポーツイベントは海外からのユーザーの誘因に繋がっている。

  • スポーツツーリズムの事例として、大谷翔平選手の影響が紹介された

旅行における不正決済の問題はますます深刻に

旅行における不正決済の問題はますます深刻になっている。Mann氏は、旅行業界が現在、最も詐欺攻撃を受けやすい業界の1つだと指摘する。観光地は旅行のピークシーズンになると詐欺行為が増大し、普段より最大28%多くなるという。現地だけでなく、旅行計画段階でオンライン詐欺も頻発し、タクシーやレストラン予約における不当料金、偽の旅行会社、宿泊施設の虚偽掲載などといった攻撃が確認されているという。

  • 旅行における詐欺事例。旅行計画段階から頻発

こうした不正の対策としては、トークン化されたデジタルウォレット、不正防止機能が組み込まれたクレジットカード、包括的な旅行保険といった自衛策が考えられる。さらにMann氏はMastercardの取り組みとして、「Pay Local」機能を紹介。これは、中国AlipayやマレーシアTouch 'n Goなど、現地のローカル決済にMastercardを接続する機能。

  • 世界の一部エリアにおける詐欺時異例の割合。サンフランシスコ、ダブリン、ソウル、ブダペスト、エディンバラといったエリアは詐欺発生率が最も低いという。日本は評価に入っていないようだ

Mastercardでは、手入力でサイトなどにクレジットカード情報を登録するという作業を、2030年までに廃止することを目指しており、これによって不正リスクの削減を狙っているという。手入力に対して、トークン化などのセキュリティ機能が利用できるため、安全性が向上することが期待できる。

日本でも関西圏を中心に広がり始めているクレジットカードのタッチ決済を使った交通機関乗車も、世界各地で広まっており、キャッシュレス決済の世界的な広がりに繋がっているようだ。

調査によれば、日本のインバウンド観光の成長は著しく、2024年には8.1兆円規模まで成長した。2023年には日本の年間GDP成長率1.5%の半分がインバウンド観光によるものだったという。

コロナ禍で観光業は大打撃を受けたが、訪日旅行社数はコロナ禍前の2019年比でも16%増加。キャッシュレス化の進展で、日本でクレジットカードを利用した外国人観光客の割合は71.6%(2024年第3四半期)に達し、コロナ禍前の2019年第3四半期の60.5%から拡大。Mastercardのデータでも2024年に外国人観光客のクレジットカード支出は2.6%増加しているという。

今回のレポートでは、旅行における「体験」を提供することの重要性と円安のような為替影響の強さが示されており、インバウンドの拡大だけでなく、様々な地域への観光客の分散を図る意味でも示唆的なものとなっていた。