
Teleの全国ツアー 「残像の愛し方」 のツアーファイナル公演が、4月20日(日) 、横浜アリーナにて開催された。約3年ぶりのフルアルバム『残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。』のリリースを数日後に控えたタイミングで行われた今回の公演は、アルバムのタイトル、および、ツアーのタイトルとして冠されている「残像の愛し方」 について真摯に問い、そして、多彩な楽曲を通してその答えを巡っていく時間となった。順を追ってレポートしていく。
会場に入ってまず目を引くのが、アリーナの中央に設置された巨大な長方形のステージ。そのステージは、四方をカーテンのような厚い幕で覆われている。スクリーンとして機能するその幕には、「残像」という言葉の意味(刺激がなくなった後になお残る、または再生する感覚。という定義)が映し出されている。
そして、開演を告げるオープニング映像へ。けたたましく響く声によって幾度となくリフレインされる「残像は繰り返す。」という言葉。その後、「待たせたな、横浜アリーナ!」という谷口喜多朗の高らかな呼びかけから、アルバムのオープニングナンバーでもある「残像の愛し方」が披露される。ステージの四方を厚い幕が覆っているため、その奥の全容は依然として見えないが、2番の歌い出しでは、喜多朗が幕の中から現れ、大歓声が飛び交う中、軽やかにステップを踏み、鮮やかにターンをキメるシーンもあった。続いて、「シャドウワークス」へ。巨大なスクリーンを大々的に活用した影絵風の映像演出は圧巻で、寓話性の高いストーリーの展開に応じて、歌とバンドサウンドの熾烈さが極まっていくカオティックな流れに、序盤から深く引き込まれた。次に、「瞼の裏側で、僕は君に歌を歌う」という覚悟の言葉を添えて「包帯」を届ける。立て続けて「初恋」へ。1曲目のワンシーンを除いて、依然として喜多朗の姿や表情は直接的には見えないが、熱い気迫と温かな親密さを誇るライブパフォーマンスを通して、それぞれの曲に滲む詩情がありありと伝わってきた。
「少しだけ、小さい歌を」「それは、このカーテンの裏側で起きたことみたいに、たいしたことのない日の歌です」そうした前置きを経て、キーボードとの2人編成で披露されたのは、「あくび」だった。喜多朗は、「小さい歌」と形容していたが、それはそのまま、喜多朗個人の「パーソナルな歌」と言い換えることができるように思う。そうした極めてパーソナルな表現が、広大な横浜アリーナの空間で豊かなライブコミュニケーションとして結実している光景に、強く心を動かされた。何より、まるでカーテンの向こうからこぼれ落ちる心情を余すことなく掬い取ろうとするかのように、まっすぐにステージを見守る観客たちの姿が忘れられない。「鯨の子」では、スクリーンに、カーテンの向こうで歌い叫ぶ喜多朗の表情が大きく映し出され、続く「砂漠の舟」では、黒い衣装の男たちに襲われ、ギターを奪われ、床の上でもみくちゃになりながら、それでも歌うことをやめない喜多朗の懸命な姿が投影される。そうした衝撃的な展開を経て、「ghost」へ。これまで何度もライブで披露されてきた曲ではあるが、今回の「残像の愛し方」というテーマと相まって、〈代わりたいまま、変われないまま。 ここにいるよ、すべて許して〉という一節がいつも以上に深く心に沁みた。
喜多朗が「ダッ、ダッ、ダッ」と口ずさむリズムに呼応する形で激烈なバンドセッションが届けられた後、彼は「始めようぜ、横浜アリーナ!」「会いたかったよ!」と高らかに叫ぶ。同時に、ステージを覆っていた厚いカーテンのような幕がゆっくりと開いていく。ステージは引き続き薄い幕で覆われてはいるが、長方形のステージ上に横一列に並ぶ喜多朗とバンドメンバーの姿が初めてはっきりと見えるようになった。「DNA」では、「いくぞ!」という喜多朗の力強い呼びかけを受けて会場全体から歌声が巻き起こり、そして、そうした熱烈な展開は「カルト」「ロックスター」「ブルーシフト」「金星」へと引き継がれていく。「まだまだいけるか、横浜アリーナ!」「まだまだいけるかって聞いてんだ、横浜アリーナ!」そうした豪快なアジテーションと共に披露された「バースデイ」の間奏では、それぞれのバンドメンバーのソロ回しが展開。「まだまだまだまだ!」「もっともっともっともっと!」各メンバーから激情に満ちたプレイを引き出し、そして自身も、まるでリミッターがぶっ壊れてしまったかのような猛烈な勢いでギターをかき鳴らしていく。会場の広さを一切感じさせないほどの熱量と気迫に、何度も圧倒されてしまった。
会場全体の高揚感と一体感が際限なく高まったところで披露されたのは、「花瓶」だった。喜多朗は、観客からコーラスを引き出し、指揮しつつ、「視覚なんて必要ないんだよ」「孤独な僕たちは音で繋がっている!」「まだまだまだまだまだ繋げていくよ」「最後、みんなの声だけを聞かせてください!」と呼びかけ、この日のピークを更新するような大合唱を巻き起こす。「素晴らしい!」胸の内の万感を伝えた喜多朗は、「This is our song.」「つまりそれはどういうことかと言うと、今この瞬間、俺らの歌だぞ、横浜アリーナ!」と叫び、次の瞬間、ステージを覆っていた薄い幕が降りる。これまでの展開においても、ライブ特有の熱さや親密さは手に取るように伝わってきていたが、ついにステージと客席を分かつ全ての隔たりがなくなったことによって、喜多朗&バンドメンバーの実存がよりダイレクトに感じられた。歌い終わりのタイミングで「ようやく会えたぜ、横浜アリーナ!」と告げた喜多朗が見せた歓びの表情が忘れられない。
ここで、今回のツアータイトル「残像の愛し方」に込められた想いが語られる。昨年6月の初の日本武道館公演から幕を開けたツアー「箱庭の灯」を通して、喜多朗は、自分の今を肯定できた気がしたという。ただ、そうした実感を踏まえてTeleをもっと大きくしていこうとした時、過去の残像が自分の前に現れる、もしくは、立ち塞がることが増えた。過去の残像とは、例えば、「憧れのミュージシャンに会えた」というポジティブなものもあれば、後悔やトラウマをはじめとしたネガティブなものもある。喜多朗は、基本的には未来の話をするのが好きで、過去に執着するのは好きではないと前置きをした上で、「今を肯定したら、過去を清算しなければいけないことが増えた」「過去の受け入れ方を考えようと思って、『残像の愛し方』というタイトルを付けました」と伝えた。続けて、彼なりの「残像の愛し方」について語り始めた。過去を全否定すると自分の一部も否定してしまうことになる。だからと言って、全肯定できるほど強くはない。だからこそ、過去を形にして、ずっとここにあるぞって首根っこを捕まえて、ずっと争い続ける。絶対に逃さないぞって気持ちで、自分が進んでいく道の前に置き続ける。憧れや感謝、後悔やトラウマ、そうした残像を、ずっと憎んで、ずっと愛していく。それこそが、彼にとっての「残像の愛し方」であるという。
続けて喜多朗は、ミュージシャンに何かを変える力はない、と前置きした上で、音楽には何かを変える力があると思っている、と語った。みんなが変わる準備ができていて、そこに音楽がはまる瞬間、そこから、きっと何かが変わっていく。「僕の音楽が、今日という日が、みなさんの『残像の愛し方』を決める一助になれば幸いだなと思います」「ミュージシャンは無力ですけど、音楽は素晴らしいんですよ」そう語った喜多朗は、「みなさんの隅っこに置いといてください」と告げ、本編ラストの曲「ひび」を披露した。〈あなたは、あなたの、日々を抱きしめて〉という一節が、先ほどのMCと相まって深く胸に響く。たおやかでありながら、音楽を送り届けるミュージシャンとしての揺るぎない意志が鮮烈に貫かれた、あまりにも感動的な名演だった。喜多朗自身のパーソナルな表現が、つまり、彼にとっての「僕の歌」が、ライブを通して「僕たちの歌(our song)」へと昇華されていく。あの時、まるで彼からバトンを渡されたような感覚を抱いた人は、きっと少なくはなかったと思う。
アンコールでは、「こういうのやってみたかったんです!」と叫びつつ客席をかきわけながらステージイン。そして、「Véranda」を通して、隔たりのない空間における観客とのコミュニケーションを存分に謳歌していく。続けて、バンドを組んでいた時期を振り返った上で、「その時の自分を引き連れていきたいという気持ちがありまして、18歳の時にやってた曲を一曲やっていいですか?」と問いかけ、「生活の折に」を披露。そして、年末に幕張メッセ公演を開催することを伝えた後、「また懲りずに来てくれたら嬉しいです」「今日という日が繋がっていって、もっといいライブになりますから」「というわけで、引き続き、どうぞ僕を、僕らを、よろしくお願いします」と告げ、今回の公演は、祝祭のフィーリングが弾けるダンスナンバー「ぱらいそ」をもって鮮やかな大団円を迎えた。昨年のツアーを通して今を肯定し、今回のツアーを通して彼なりの「残像の愛し方」を見い出すことができた喜多朗は、これから先、どのような未来を切り開いていくのだろうか。期待を胸に、これからも彼の歩みを追い続けていきたい。
写真:太田好治、雨宮透貴
セットリスト
1. 残像の愛し方
2. シャドウワークス
3. 包帯
4. 初恋
5. あくび
6. 鯨の子
7. 砂漠の舟
8. ghost
9. DNA
10. カルト
11. ロックスター
12. ブルーシフト
13. 金星
14. バースデイ
15. 花瓶
16. ひび
EN1. Véranda
EN2. 生活の折に
EN3. ぱらいそ
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