第38期竜王戦(主催:読売新聞社)は各組のトーナメントが進行中。4月23日(水)には計8局が東西の将棋会館で行われました。このうち東京・将棋会館で行われた1組出場者決定戦の佐藤康光九段―森内俊之九段の一戦は120手で森内九段が勝利。本戦登場まであと1勝と迫りました。
温故知新の矢倉戦
本局は1組5位の座を目指す戦いの2回戦で、ここから2連勝で決勝トーナメント進出が決まります。76回目のライバル対決となった本局は両者の息が合って矢倉戦へと進展。先に工夫を見せたのは後手の森内九段で、腰掛け銀+右四間飛車のコンパクトな布陣で先攻に踏み切りました。昔からありながら現在再評価されている、古くて新しい急戦を前に、両者じっくり持ち時間を投入します。
本局の戦型は奇しくも両者の過去の実戦にも類型があり、その中には第1期竜王戦6組ランキング戦での一局も(1988年、当時ともに四段)。その対局では敗れていた森内九段ですが、この日は冴えた指し回しでリードを奪いました。敵陣に角を打ち込みクリンチ作戦に出たのが長い中盤を乗り切る好手で、先手の無理攻めを誘いつつ受けに力を発揮し始めました。
受けて築いた勝利
森内九段の指し手に勢いが出てきます。攻めるよりない先手が飛車を下ろしてきたのを見届けて、あわてずさわがず底歩を打ったのが冷静な受けの第一歩。続いてジッと自玉の頭に歩を打って自玉を安定させたのが鉄板流の異名に恥じない受けの好手で、こうなってみると後手玉には2手スキで迫る手すら見えなくなっています。ここからは森内九段の独り舞台となりました。
終局時刻は21時47分、最後は攻防ともに見込みなしと認めた佐藤九段が投了。終局図の先手玉は受けなしで、後手玉には詰みがない形でした。一局を振り返ると、右四間飛車の積極策で先攻しつつもいつの間にか無理攻めを受け切る、森内九段の棋風が光る受け将棋を披露した一局に。森内九段は次戦で決勝トーナメント入りを懸けて三浦弘行九段と顔を合わせます。
水留啓(将棋情報局)