第38期竜王戦(主催:読売新聞社)は、1組出場者決定戦の2局が4月15日(火)に東京・将棋会館で行われました。このうち4位トーナメントの伊藤匠叡王―松尾歩八段戦は130手で松尾八段が勝利。振り飛車穴熊を用いてタイトルホルダーを破り、本戦出場に向け大きく前進しました。伊藤叡王は今期の竜王挑戦がなくなっています。

華麗なる転身?

本局は1組4位の座を争う戦いの初戦。2連勝すれば決勝トーナメント進出が決まります。振り駒が行われた本局は、後手となった松尾八段が四間飛車穴熊を採用。時折見せる作戦選択で、本格的な振り飛車党への転身かどうかは今後次第といったところでしょう。盤上はガッチリ組み合う本格的な相穴熊戦へと進みました。

相穴熊戦は①飛車先の歩が伸びている点、②金銀を密集させることができる点から理論上は居飛車持ちとなりやすいのがセオリーですが、本局は松尾流の振り飛車戦術が光る展開となりました。角の大きな活用で先手陣のバランスを崩させたのが軽快なさばきで、居飛車側の飛車の活用が間に合う前に玉側で手を作ってしまえば十分と見ています。

うれしい節目の勝利

その後も松尾八段の指し手が冴えわたります。追われた角を切り飛ばして穴熊の金と交換したのがこの戦型特有の損得計算。歩の手筋を取り入れつつ、小駒での切れない攻めが実現できれば角金交換も損になりません。その後は首尾よく飛車交換を実現し、実戦的な指しやすさを得ることに成功しました。形勢は難解ながら、先手は飛車を受けに使わざるを得ないのが苦しい限りです。

逆転を目指したい伊藤叡王もなんとか反撃に出ますが、松尾八段の指し手は最後まで冷静でした。角の王手で合駒請求したのが逆転を許さない決め手で、攻め駒を1枚使わされた伊藤叡王は攻めがあと一歩届きません。終局時刻は21時50分、最後は自玉の詰みを認めた伊藤叡王が投了。中盤の競り合いで抜け出してからは安定の指し回しを見せた松尾流振り飛車の快勝譜となりました。

なお本局が松尾八段は公式戦1000局目、うれしい節目の勝利となりました。

水留啓(将棋情報局)

  • 松尾八段は次戦で決勝トーナメント進出を懸けて郷田真隆九段―広瀬章人九段戦の勝者と対戦する

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