藤井聡太王位への挑戦権を争う伊藤園お~いお茶杯第66期王位戦(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)は挑戦者決定リーグが進行中。4月7日(月)には計2局が東京・将棋会館で行われました。このうち白組の羽生善治九段―永瀬拓矢九段の一戦は111手で永瀬九段が勝利、無傷の3連勝としてリーグ優勝へ大きく前進しました。

それぞれの大一番

羽生九段1勝1敗、永瀬九段2勝0敗で迎えた一戦はどちらも負けられない一戦。タイトル通算100期を目指す羽生九段に対して、永瀬九段もこの2日後に藤井聡太名人との名人戦七番勝負が開幕するなど大勝負が続きます。盤上は後手となった羽生九段の誘導で横歩取りへと進展。早い段階で研究勝負は外れて両者はこまめに時間を使います。

大駒の位置取りを調整しあってジリジリとした中盤戦が続きます。黙っていては先手の馬が働き出すと見た羽生九段は歩の手筋を駆使して局面を動かしにかかりますが、この直後に大きな分岐点がありました。攻めに必要な一歩を手にするために9筋の端に手を付けたのは自陣への影響を抑えて自然ですが、代えては手数をかけてでも桂馬を活用して一歩を入手しにいく順が優るとされました。

読み切りの王手竜取り

ぶつけられた駒を取る「同歩、同馬、同香、同飛」といった要領で自然な受けを続ける永瀬九段でしたが、ようやく反撃の時が来ます。19時を過ぎたころ、軽い手つきで打った銀のタダ捨ての王手が読み切りの決め手となりました。羽生九段は数手後に控える王手竜取りをわかっていても避けることができず、また後手の中住まいは二枚飛車を打たれるとひとたまりもない格好です。

終局時刻は19時48分、最後は攻防ともに見込みなしと認めた羽生九段が投了。辛抱の時間を丁寧な受けで乗り切り、好機に反撃に乗り出した永瀬九段の快勝譜となりました。これで開幕3連勝とした永瀬九段は白組唯一の無敗者で、白組優勝に向け大きく前進。1勝2敗の黒星先行となった羽生九段はリーグ残留に向け一局も落とせない戦いが続きます。

水留啓(将棋情報局)

  • 鋭い反撃で勝利を決めた永瀬九段、4月9日には名人戦七番勝負が控えている(写真は第83期A級順位戦最終局のときのもの 撮影:編集部)

    鋭い反撃で勝利を決めた永瀬九段、4月9日には名人戦七番勝負が控えている(写真は第83期A級順位戦最終局のときのもの 撮影:編集部)