2025年4月3日に発売された『将棋世界2025年5月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)では、第74期ALSOK杯王将戦第5局を、東京都渋谷区「駒テラス西参道」で大盤解説を担当した飯島栄治八段とともに振り返る記事を掲載しています。一部を抜粋してお送りします。

本局では、藤井王将が指した2手目に大きな注目が集まりました。飯島八段も「トキメキました」と語る衝撃の2手目とは?

(以下抜粋)

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  • 【写真】日本将棋連盟

第74期王将戦七番勝負は藤井聡太王将の4勝1敗で幕を閉じた。藤井の王将獲得は4期連続、通算でも4期目となる。決着局となった第5局を、東京都渋谷区「駒テラス西参道」で大盤解説を担当した飯島栄治八段に改めて聞いてみた。

注目を集めた2手目

―本局は永瀬九段の先手です。

「まずは藤井王将の2手目に注目が集まりましたよね。もうここだけでいいんじゃないかな(笑)。藤井王将がプロ棋士になってから初めて、後手番の2手目に△3四歩と角道を開けました」

―2016年12月のデビュー戦で、加藤一二三九段の初手▲7六歩に△8四歩と応じてから、藤井王将の後手番は常に飛車先の歩を突くことで始まっていました。後手番は259局目にして初めて△3四歩と突いたことになります。

「藤井王将=△8四歩というイメージがものすごく強く、引退までそれを通しても不思議じゃないイメージです。もっとも、年初の取材では△3四歩を含めていろいろな可能性に言及されていたそうなので、ご自身の中でも意識を変える何かがあったのでしょう」

―ちなみに、中学生棋士の先輩を調べますと、羽生善治九段は自身の後手番では1~4局目までは△8四歩で、5局目で初めて△3四歩を指しています。谷川浩司十七世名人と渡辺明九段は後手番の1局目が△3四歩でした。そのときに羽生九段と谷川十七世名人は飛車を振っており、渡辺九段は横歩取りでした。

「私もプロ初の後手番は△3四歩でした。渡辺九段と私がデビューした頃は、横歩取り△8五飛戦法の全盛期ですから、その影響も強かったと思います。いまでも私は横歩取りを愛用していますから、藤井王将が角道を開けると、トキメキましたね。叡王戦の準決勝で糸谷哲郎八段の後手横歩取りに敗れていたので、研究課題として、ご自身でも指すのかと思っていました。まあこちらの勝手な願望ですけどね。私は△3四歩しか指さないので、自分の将棋の方向性が間違っていなかったと、安心できました(笑)」

(中略)

―一局を通しての印象をお願いします。

「藤井王将のいいところばかりが出た将棋という印象です。封じ手の△6三金や終盤の△7五歩など、見えにくい順の好手が多くありました。対して永瀬九段は序盤の▲7七桂など、積極的な姿勢が見られましたが、本局はうまくかわされてしまいました」

―七番勝負全体の印象としてはいかがですか。

「第1局の相掛かりに始まり、横歩取り、角換わり、そして本局の雁木など、戦型のバリエーションに富んだシリーズという印象です。永瀬九段の強みとしては、入念な研究から序盤でリードすることにありますが、今回はそのよさを封じられていた感があります。藤井王将が永瀬九段の研究を先回りしていたというか、あるいは互角を保っても、藤井王将を相手に終盤までそれを維持するのは大変なんだなと」

―両者は4月から始まる名人戦七番勝負でもぶつかります。

「永瀬九段には頑張ってもらいたいですよね。今度は藤井後手番の横歩取りが見られるかもしれないと楽しみにしています。私は藤井王将の2手目△3四歩を解説できただけでもよかったですね」

(ALSOK杯第74期王将戦七番勝負【藤井聡太王将vs 永瀬拓矢九段】第5局 「衝撃の2手目」 解説/飯島栄治八段 記/相崎修司)

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