
スクリレックスが突如発表した新作アルバム『Fuck U Skrillex You Think Ur Andy Warhol But Ur Not!!』では、全編にわたり奇妙で印象的なプロデューサー・タグが挿入されている。「シャドウ・ウィザード・スクリレックス・ギャング」や「このドロップはアトランティック・レコードに押収されました」といった一節は、まるでラジオ番組の司会者が読み上げるような調子で収録されており、アルバムの要所を彩っている。
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こうした演出は、ブログ時代の伝説的なラップ・ミックステープや、最近ではプレイボーイ・カーティの作品でのDJ SWAMP IZZOのようなスタイルを思わせる。2000年代初頭のミックステープ文化へのオマージュとして、モントリオール拠点のプロデューサー、DJスモーキー(DJ Smokey)がその時代の名物タグの声を再現し、スクリレックスのプロジェクトにほどよいユーモアとインターネット的な不条理を重ね合わせた。
DJスモーキーはオンタリオで育ち、幼少期にはクラシックピアノの教育を受けたが、後にFL Studioに傾倒する。きっかけは、ソウルジャ・ボーイの楽曲のなかで同ソフトが言及されていたことにあるという。
彼は本誌の取材に対し、スクリレックスとのコラボレーションやアンダーグラウンドでのキャリアの歩み、そして「EDM」という言葉に込められたさまざまな意味について語ってくれた。
―リリース後の気分はどうですか?
最高だよ。めちゃくちゃいい感じ。とにかくワクワクしてる。リスナーの反応もポジティブだと思うし、すごく満足してるよ。
―そんな伝説的な存在と一緒に仕事をするって、どんな感じでしたか?
ヤバかったよ。スクリレックスはまさにGOAT(史上最高)。エレクトロニック・ミュージックの世界で、あれ以上にデカい存在はいないからね。だからもう、素直に感謝しかない。
―彼はあなたのことを知ってたんですか?
どこまで知ってたかは分からないけど、たぶん名前は知ってたと思うよ。俺の友人のヴァーグ(Varg)がスクリレックスと関わるようになって、アルバムのコンセプトやエグゼクティブ・プロデュースを手伝うようになったんだ。ヴァーグとは前から一緒に仕事してた仲で、「スモーキーも関わらせるべきだよ」って言ってくれて、そこから俺も参加することになった。スクリレックスもそこからもう少し俺のことを調べてくれたみたい。もともとどのくらい知ってたのかは分からないけど、少なくとも多少は把握してたっぽいね。
―このプロセスの中で、彼と直接会ったんですか?
うん。1カ月くらい前にロサンゼルスに行って、スタジオで3日間がっつり一緒に作業したよ。ほんと、LAではスタジオにこもってただけ。観光とかは一切なし。それくらい集中してた。だから実際に会って、いろいろ話したし、彼はほんとに最高なやつだよ。
―スタジオでの雰囲気はどうでしたか?
めちゃくちゃ良かった。彼は、こっちのやることを尊重してくれるタイプで、「自由にやっちゃっていいよ」って感じだった。いくつかタスクは出されたけど、「好きに暴れてくれ」ってノリだったね。全然プレッシャーとかはなくて、「楽しんでやってくれたらOK。でもこれだけは入れてほしい」とか、「何かアイデアがあれば教えて」っていう感じ。俺には彼のスタジオのすぐ隣に専用の部屋が用意されてて、何かできたら隣の部屋に飛び込んで「これどう?」って聞いて、「いいね」とか「いや、それは違うな」とか、そんなやりとりしてた。
―アルバムを”ホスト”するって、具体的にはどういうことをやるんですか?
まあ、基本的にはタグが一番大事。聴いてて楽しくなるようにするのが役割だね。それに加えて、ミックスの部分もちょっと手伝ったり、面白い効果音を足したりして、全体をエンタメとして盛り上げる感じ。中心になるのはやっぱりDJタグで、普通は曲をちょっとリミックスしたりもするんだけど、スクリレックスの場合は、自分でしっかりミックスの仕上がりを決めてたから、そこにはあまり手を出してない。今回はとにかくイカれたタグを作って、聴いてて楽しい作品に仕上げるってところが自分の仕事だったね。
―あれって、実際に人がセリフを読んでるんですか?
うん、あれはラジオドロップをやってる人たち。あんまり詳しくは言えないけど、今使ってる人は昔の伝説的なタグをいろいろ担当してた人なんだ。
―セリフがあまりにぶっ飛んでて、読み上げるのをためらわれたことは?
いや、それが全然ないんだよね。彼ら、マジでなんでも言ってくれる。今まで問題になったことは一度もない。ヤバいよね(笑)。
―前からあなたの作品を聴いてきたけど、昔から独特で奇妙で、ちょっと笑えるようなタグを作るのがうまい印象があります。ああいうのって、どこから出てくるんですか? 頭にふっと浮かぶ感じ?
そうだね、「これカッコいいかも」って思ったら、「よし、これ使おう」ってなる。何ていうか、年々進化してきたって感じかな。もうずっとこういうタグやドロップを作ってきたから、初期の頃は「Youre listening to DJ Smokey(DJスモーキーをお聴きいただいてます)」みたいなシンプルなものだったけど、そこからどんどん発展していったんだ。
―今回のアルバムで、特に気に入ってるタグってありますか?
「シャドウ・ウィザード・スクリレックス・ギャング」は好きだね。元々俺たちがやってた「シャドウ・ウィザード・マネー・ギャング」(Shadow Wizard Money Gang )っていうのがあって、それはモントリオールの仲間たちとのコレクティブなんだけど、TikTokで何度もバズったんだよ。それがX(旧Twitter)でトレンド1位になったこともあって、ちょっとしたムーブメントになってた。だからスクリレックスがそのタグを使ってくれたのはめちゃくちゃうれしかった。それと、「あのスネア、作るのに2年かかったらしいぜ」ってやつも面白い(笑)。スクリレックスって、異常なくらいサウンドデザインにこだわることで有名だから、本当にスネアに2年かけても不思議じゃないし、めちゃくちゃ”らしい”なって思うよ。
―ジョークの中には「やりすぎかも」と思ったものもあったと思いますが、スクリレックスが嫌がるんじゃないかって不安になったことは?
ないね。彼はユーモアのセンスがあるし、確かに俺が考えたやつの中にはちょっとやりすぎなものもあったけど、怒られたことは一度もないよ。
―このプロジェクトの作業を終えたとき、スクリレックスの反応はどうでした? 自分の貢献に対して、どう感じてるか伝わってきました?
彼、めちゃくちゃ気に入ってくれてたよ。あのアルバムって、全体がひとつの長いミックスみたいな作りになってて、ライブセットのように曲が流れていくんだよね。で、俺にはかなり荒削りなバージョンが渡されて、それに手を加えていって、何パートか送り返したんだ。「こういう感じでやろうと思ってる」って伝えたら、「マジで最高だ!」って返ってきた。最初に送ったのはたしか「This drop has been seized by Atlantic Records(このドロップはアトランティック・レコードに押収されました)」っていうスニペットで、彼の反応は「うわ、ヤバすぎ!」って(笑)。本当に気に入ってくれた。そのあともアルバムが進化していくたびに新しいバージョンが送られてきて、俺もそれに合わせてアップデートしてたけど、最初からずっと好意的だったよ。
DJスモーキー復活のきっかけになった”Nuke”ムーブメント
―あなた自身のキャリアについて考えると、もう10年以上活動してますよね。アンダーグラウンド・シーンでも非常に多作な存在です。
そう、もう長くやってるし、いろんなシーンを通ってきた。アンダーグラウンドの風景が何度も変わっていくのを見てきたし、だから今こうしてスクリレックスと一緒にやれてるのは面白いよね。お互いまったく違う世界から来たわけだし。
―たしかTikTokで「Legalize Nuclear Bombs」がバズってたの、2〜3年前くらいですよね。
そうそう、その前に2年間くらい活動を休んでたんだけど、2022年に「Nuke(核)」ネタでカムバックしたんだ。あれはモントリオールの友達2人が考えたアイデアで、彼らがよく「それ、ヌークだな」って言ってたのを聞いて、「このコンセプト、めっちゃイケてるな」って思って。使わせてくれないかって頼んだら、快くOKしてくれて。あの”Nuke”ムーブメントが、DJスモーキー復活のきっかけになったんだよね。
―TikTokでバズり始めたとき、自分ではどう感じましたか?
よくわかんないけど、急にDMがいっぱい来るようになって。「TikTokですごいことになってるぞ!」って。驚いたし、正直うれしかったけど、俺TikTokやってないから、なんか不思議な感覚だった。アプリ自体も使ってないしね。バカみたいな動画がいっぱい自分の音使って出てくるのを見るのは、ちょっと面白かったけど(笑)。
―ミーム的なユーモアのセンスはあるのに、TikTokは使ってないんですね?
うん、使ってない。アカウント作ろうとしたことはあるけど、「あ、これは俺には向いてないな」ってなってやめた。俺はVineのほうが好きだったな。
―2010年代前半から今に至るまでのキャリアの流れを教えてもらえますか?
最初は、何の期待もなくYouTubeに自分のビートをアップしてただけなんだ。ただ単に音楽が好きだっただけ。特に好きだったのが、エイサップ・ロッキー。2011年に出た最初のアルバム(あるいはミックステープ)とかね。それとスペースゴースト・パープ、リル・アグリー・メインもすごく好きだった。あとはメンフィス・ラップだね。マックス・B、グッチ・メイン、DJスクリューとか、ミックステープ時代のアーティストに夢中だった。2011年ごろに、そういうサウンドがまた盛り上がってきて、自分なりのメンフィス・ビートを作ってYouTubeにアップしはじめたんだ。そしたら自然と100回、200回くらい再生されるようになって、そこからSoundCloudを使う人が増えてきて、自分もそこでいろんなアーティストを見つけるようになった。
最初に関わったのはレイダー・クラン系のアーティストだった。当時はみんな90年代ラップへのオマージュ的なスタイルをやってて、とくにメンフィス・ラップの影響が大きかった。SoundCloudが盛り上がってからは、ヤング・リーンとか、いろんな人たちとコラボしてきた。リル・ピープやリル・トレイシーともやったし、エイサップ・モブのアルバムにも参加したし、ジューシー・Jにもビートを提供した。ずっと自分のインスト・ミックステープも出し続けてて、SoundCloudの中で音楽が変化して、いろんなシーンが生まれても、常にそこに食い込んでたんだ。
―今、制作中の新しい音楽はありますか?
あるよ、もちろん。むしろその話がしたいくらい。ヴァーグと一緒に進めてるプロジェクトがあって、タイトルは『EDM』って呼んでるんだけど、これはただの”エレクトロニック・ダンス・ミュージック”って意味じゃなくて、いろんな略語があるんだ。たとえば「Evil Dance Music(邪悪なダンスミュージック)」「Evil Dark Music(邪悪でダークな音楽)」「Electronic Death Music(電子的な死の音楽)」「Exotic Drug Manufacturers(ヤバいドラッグの製造者)」とか(笑)。いろんな意味を込めてるけど、メインは『EDM』っていうコンセプトで、とにかくぶっ飛んでる。
すでに何曲か一緒にリリースしてて、反応もすごく良い。スクリレックスもそのプロジェクトに参加するかも……ヒントね(笑)。とにかく、次に俺が本気で押していくのはこのヴァーグとの音楽。すごく手応えあるから。去年はそのプロジェクトでツアーもたくさんやったし、俺が自分のライブでその曲だけをかけても、観客はめちゃくちゃ盛り上がってくれてた。どのショーも大盛況だったよ。俺たちのルーツをエレクトロニック・ミュージックに融合させるのが狙いなんだ。ヴァーグはエレクトロ系出身だけど、スクリレックスとはまた違う領域の人間だし、俺はアンダーグラウンドのまったく別の世界から来てる。そのふたつを組み合わせて、自分たちなりの”EDM”を作るのが目的なんだ。で、それをもっと「スワッグでラッパーっぽい」スタイルにしていこうとしてる。
―最後に、シャウトアウトしたい相手は?
そうだね、まずは「シャドウ・ウィザード」に感謝したい。彼らは今の俺の活動にとってめちゃくちゃ大事な存在。モントリオールにいるコレクティブで、「シャドウ・ウィザード・マネー・ギャング」って名前で動いてる。あの”Legalize Nukes(核を合法化せよ)”のタグがバズったのが最初のきっかけだったけど、ほんとの爆発力を持ってたのは「シャドウ・ウィザード・マネー・ギャング」だった。あれがなかったら、スクリレックスともつながれなかったと思う。
「シャドウ・ウィザード・マネー・ギャング」って言葉を考えたのは、モントリオール出身のルーカ・テシエっていう若いやつで、彼とその仲間4〜5人くらいのアートと音楽のコレクティブなんだ。俺の活動にもすごく深く関わってくれてて、よく一緒にアイデア出しをしてるし、みんな家も近くて、いつも一緒にいる。だから、彼らはこれから注目すべき存在だと思うし、自分が再びシーンに戻ってこれたのも、彼らのおかげなんだ。ほんとに感謝してるよ。