近年、企業の採用活動においてAIを活用した面接が増えている。大手コンビニエンスストアチェーン・ローソンも最近、VARIETAS社が手掛けるAI面接サービス「AI面接官」を導入。単なる業務効率化のためではなく、「学生のポテンシャルの最大化」を目指しているという。
他社とは一線を画すこの取り組みについて、ローソン 人事本部 人事企画部 採用担当の藤井大地さんに話をうかがった。
■「学生の特性を可視化するため」に
――まず、藤井さんのご担当業務について教えてください。
ローソン 人事本部 人事企画部で新卒採用を担当しています。選考の設計、インターンプログラムの策定、採用広報、新卒の入社準備や内定者フォローなど、学生に関わる業務全般を担当しています。その流れのなかで、VARIETAS社のAI面接サービス「AI面接官」を知り、「これは我々が目指す採用の方向性と合致しているな」と考え、導入を決めました。
――さっそく導入した背景を教えてください。
一般的に、AI面接はDX推進やコスト削減の目的で導入されることが多いと思います。実際、VARIETAS社の「AI面接官」を導入している企業の99.99%が就活生の合否判定に利用しているとお聞きしています。
しかし、ローソンが目指したのは「人の目では拾いきれない学生の特性の可視化」なので、合否判定には使っていません。履歴書や適性検査だけでは把握しきれない学生の強みを知り、選考の入り口としてより多くの情報を得ることを目的としました。
まずは履歴書を提出してもらい、適性検査に合格した方にAI面接を受けていただき、その後に人事面談に進むという流れになっていて、期日は設けていますが、ネット環境さえあれば24時間いつでも面接は受けられます。
AIを活用することで、学生のポテンシャルを最大限に引き出し、面接直後に詳細なフィードバックを企業・就活生ともに得られる仕組みになっています。これにより、企業側も学生の特性をより深く理解でき、学生自身も自己分析に役立てることができます。
――導入するにあたって、藤井さんご自身も試してみたのでしょうか?
そうですね。まずは私も実際に受けてみました。最初はエントリーシートのようにいくつか簡単な質問に答え、それを基にAIが追加の質問を投げかけてくるという仕組みで、実際にやり取りをしているうちに、まるで人間の面接官と対話しているかのような感覚になりましたね。
いちばん驚いたのが、面接後すぐに出力されるフィードバックの細かさです。2,000〜3,000文字に及ぶ内容で、良かった点、改善点が具体的に書かれていました。私自身も「話が長い」と的確に指摘され、改善のヒントが得られました(笑)。
■ほぼ100%が好反応! AI面接の効果と学生の反応
――実際に導入してみて、効果や学生からの反応はどうでしたか?
まだ使い始めて半年程度ですが、AI面接を受けた学生30名ほどにヒアリングをしたところ、「受けてよかった」という声がほとんどでした。特に、「自分の強みと改善点を客観的に知ることができたのが良かった」という意見が多かったですね。
学生にとって、就活は「自分をどう伝えるか」が鍵になります。しかし、通常の面接ではフィードバックがもらえず、「なぜ受かったのか」「なぜ落ちたのか」がわからないまま終わることが多いですよね。その点、AI面接は受験後すぐにフィードバックが得られ、次の人事面接に向けた準備をしやすいというメリットがあります。
我々の効果としては、数%ではありますが、一次面接で合格を出せる学生の割合も増えました。工数は増えましたが、その手間を無駄にしないようなプロセスを組めるような活用方法を模索しています。
――「AI面接官」の評価と人間の評価の違いなどはないのでしょうか?
この点は非常に気になったので、VARIETAS社と協力し、テストを実施しました。15名分のAI面接の映像を用意し、人間の面接官5名で評価したところ、なんとAIの評価とほぼ一致したんですよ。つまり、AIでも正確な評価ができることが確認できたんです。
AI面接官は話し方や表情、ジェスチャーといった「主観が入りやすい要素」を評価基準から外し、純粋に話の内容のみを分析します。これにより、人の先入観に左右されず、公平な評価が可能になるのも大きな利点ですね。
――他社と比較して、ローソンならではの使い方などはありますか?
他社では合否判定のツールとして使うケースがほとんどですが、ローソンでは「学生の成長を促すツール」として活用しています。たとえば、フィードバックを元に、面談の場でも学生の特性を把握し、適切な質問ができるようになりました。
また、内定後のフォローにも活用しています。面接の評価や適性検査の結果を全て学生に開示し、それをもとに「自分の強みをどう活かしてキャリアを築くか」を一緒に考えるワークショップを実施しています。
――今後の展望についても教えてください。
現在は選考プロセスの一部として導入していますが、今後はインターンシップや早期キャリア形成の支援ツールとしても活用できるのではないかと考えています。たとえば、就活が本格化する前の大学2年生や3年生の段階でAI面接を受けてもらい、自己分析に役立てる、といった使い方も考えられます。
また、AIのフィードバックを活用することで、学生が「なんとなく内定をもらったから」と就職先を決めるのではなく、「自分の特性に合った企業を選ぶ」という流れを作れたら理想的ですね。
――最後に、AIを活用して実現したいことを教えていただけますか?
就活が早期化している影響もあって、「とりあえずインターンを受ける」「とりあえずエントリーする」「とりあえず面接する」「内定が出たところから一番よさそうなところに行く」と、あまり検証せずに決めてしまう学生も多いと思います。
だけど就活は本来そうではなく、自分に合ったキャリアを見つける場であるべきです。AIを活用することで、学生が自己理解を深め、「自分が本当にやりたいこと」を見つける手助けができればと思っています。
また、ローソンの選考プロセス自体が「就活の入口」として、多くの学生に活用してもらえるようになれば理想ですね。「就活を始めるなら、まずローソンのAI面接を受けよう」という流れを作ることで、企業と学生のミスマッチを減らしていければと考えています。