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東京でのメジャー初登板では制球に苦しんだロサンゼルス・ドジャースの佐々木朗希。アメリカ本土での初登板となったデトロイト・タイガース戦でも思うような投球が出来なかった。苦しんでいる令和の怪物はMLB1年目をどのような成績で終えるのか。今回は、佐々木の初登板時の投球データを基に、今シーズンの課題について分析した。(文:Eli)
今シーズンのメジャーリーグは
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佐々木朗希のメジャーデビューは微妙な結果に終わった。速球は最速100.5マイル(約161.7キロ)を叩いていたが、コマンドが定まらず与四球5。全体でも3.0回56球を投げ1安打1失点という結果だった。最も期待外れだったのは空振りが奪えない点だ。
前日に登板した山本由伸は5.0回72球を投げ空振りを11個奪った。SwgStr%(=空振り/球数)換算では15.2だ。一方で佐々木は56球で4つのみ、SwgStr%7.1と山本の半分以下だった。
まだ2試合を終えた段階とはいえ、メジャー全体1位のトッププロスペクトとしては物足りない。今後佐々木はどのようなキャリアを描いていくのだろうか。次からは球種ごとに深く分析していく。
球速が頼りのフォーシーム
現代のMLBで効果的とされるフォーシームの特徴はざっと大きく分けて次の2つだ。1つ目は球速だ。これは説明不要だろう。2つ目はリリースの特徴と球の変化量だ。
リリース高が高くオーバースローの投手が伸びのあるフォーシームを投げてもそれほど効果は無い。打者は予期しやすいからだ。
一方でリリースが低いスリークォーターやサイドスローの投手が伸びのあるフォーシームを投げると打者はこれを予期できないため効果的な球になりやすい。
次に並べた投手は、下に行くにつれてリリース高は下がりサイドスローになっていくが、最もオーバースローのフレクセンとサイド気味のキンブレルを比べると、キンブレルは縦変化が少ないにも関わらずStuff+はフレクセンより遥かに良い値を示している。
これはサイドスローから縦変化のあるフォーシームを投げるのは非常に難しいからだ。
まとめると、オーバースロー(リリース高6.5以上、Arm Angle 45以上)は縦変化が多く必要。スリークォーター(リリース高5.0近辺、Arm Angle 30~40近辺)は縦変化が少なくても良いということだ。
さて、以上2つの観点から佐々木朗希のフォーシームを見てみる。球速は97-98(156-158キロ)、最速100マイル(約161キロ)と非常に優秀と言って良いだろう。
問題はリリースと縦変化だ。佐々木朗希のリリース高は6.0、Arm Angleは38程度とされており、オーバースロー寄りのスリークォーターと言って良い。
このスタイルでは縦変化は15-16inchほど欲しいのだが、シカゴ・カブス戦での佐々木のフォーシームは平均14.24inchと足りない。
その証拠に37球投じたフォーシームのうち、奪った空振りは1つだけ、打たれたヒットもフォーシームからだった。剛速球で打者を制圧していくイメージのある佐々木だが、メジャーではそのスタイルは通用しなさそうだ。
摩訶不思議なスプリット
佐々木朗希のスプリットを一言で表すとしたら”独特”である。
基本的なスプリットは別名フォークボールと言われるように、ボールを広げた指2本で挟むことで回転を殺し、ボールを重力に従って落とす。
このとき、完全に回転を殺すことができないため、平均的なスプリットは1000~2000rpmほど回転がかかり、その分落ちが減ったり横変化がついたりする。
例えば、佐々木の同僚山本由伸のスプリットは平均1300rpmの回転がかかり2.6inchの縦変化と8.59inchの横変化がついている。これはゴースマンやイバルディなどのスプリット使いについても同様の傾向が言える。
一方で佐々木のスプリットは回転数が512.5rpmと極端に少ない。回転が少ないということはボールを変化させる力が少ないということで、佐々木のスプリットは真っすぐ重力に従って落ちていく。東京シリーズの登板では横変化が4.48inchと山本の半分程度、縦変化は驚異のマイナス5.01inchを計測していた。
山本のスプリットの成績予測はある程度容易だった。これは山本の場合スペックは既存のモノと変わらず、球速が上がっただけだったからだ。
一方で速球との球速差が大きい、縦変化がマイナス、横変化が少ない、回転数が極端に少ないなど既存のモノとは相違点が多い佐々木のスプリットはどう転ぶか予想がつかない。
メディアでは回転数が少ないことから”ナックルスプリットだ”と歓喜しているが、果たしてそれはスプリットにとって良い事なのか。今後登板数を重ねてわかっていくだろう。
東京シリーズの登板を見て一つ気になったのが空振りを取るのに苦労している点だ。15球のスプリットを投げて空振りは1つだけだった。
加えてカブスの打者たちはスプリットが来たのを簡単に判別しているように見えた。フォーシーム/スプリットコンボを効果的にするために重要なのが2球種を似たように見せるピッチトンネルというテクニックだ。
直感的に示すためにボールが手を離れるときのリリース角度をプロットした。上が2024年の山本由伸でフォーシーム(赤)とスプリット(青)の多くが重なっている(リリース時に判別がつきにくい)。
一方で、下に示した東京シリーズの佐々木朗希のフォーシーム/スプリット(もっとサンプルが必要)はフォーシームとスプリットがほとんど重なっていない(リリース時に判別しやすい)。フォーシームで目線を作り、スプリットを落として空振りを奪うという伝統的な戦術は佐々木のスプリットには合わないのかもしれない。
大きな可能性を秘めていそうなスライダー
佐々木のスライダーはジャイロスライダーとスイーパーの中間のような球だ。
フォーシーム/スプリットコンボだけでは特に右打者に苦労する可能性が高いため、その点においてスライダーは佐々木のキャリアをより進めるうえで重要になりそうなのだが、オープン戦を含めて20球程度しかスライダーを投げていないため、どのタイプを目指しているのかがイマイチわからない。
今のところシンカーを持たない佐々木には曲がりより球速と縦変化を意識したジャイロスライダーが合う可能性が高い。球速を今の85マイル(137キロ)から87-88マイル(140-142キロ)、最速90マイル(約145キロ)を叩くところまで押し上げられれば非常に強力な球になる。
速球で100マイル(約161キロ)を出せる佐々木がそこに苦労することは無さそうだが、シーズンを通した調整に注目したい。
シンカーとカッターを追加せよ
佐々木の第一印象をまとめると、フォーシームはダメ、スプリットは”?” 、スライダーは今後の調整次第という感じだ。そこでシンカーとカッターの追加をお勧めしたい。
どちらも習得しやすい、フォーシームをごまかせる、スライダーの反対球になるなどの利点がある。
この道のパイオニアとしてチームには大谷翔平と山本由伸がいる。どちらもフォーシーム/スプリットコンボを基軸に投球を組み立てていたが、壁にぶつかりカッター/シンカーを投げ始めた経験を持つ。
ドジャースの強力な投手育成部門と先輩2人の力を借りて、トッププロスペクトからトップピッチャーへの道を歩んでほしいものだ。
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【了】