Raveenaが語る、癒しと再生のセーフスペース、日本とのコネクション

インド系アメリカ人として初めてCoachellaのステージに立ち、東洋と西洋の音楽を繊細に融合させてきたシンガーソングライターRaveena(ラヴィーナ)。昨年6月に発表されたアルバム『Where the Butterflies Go in the Rain』に新曲を加えたデラックス版がリリースされた。自身のルーツであるインドの伝統楽器と、2000年代R&B、ソウル、ポップの感覚がオーガニックに溶け合う本作には、愛、癒し、気候変動への嘆きといった複雑な感情がやさしく織り込まれている。

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タイトルに込められたのは「嵐の中、蝶たちが羽を休める場所のようなセーフスペースを誰もが持てる」というメッセージ。実際、RaveenaはLAの山火事の最中に避難生活を送りながらも楽曲制作を続け、命と向き合う感覚のなかで「Sun Dont Leave Me」などの楽曲に命を吹き込んだ。また、日米にルーツを持つシンガーUMIとのコラボでは、日本語も織り交ぜた新録版「Lose My Focus」が生まれた。

取材では、自身の祖父がかつて日本に住み、日本人女性と結婚を考えていたことや、母親が出産直前に日本を訪れていたというエピソードを披露。「日本には不思議な縁を感じる」と語る彼女は、プライベートで日本を訪れ、神社巡りや買い物、食事を楽しんでいるという。深いスピリチュアリティと親密な音楽性、そして人と人との静かなつながり——Raveenaが奏でる音は、混沌とした時代における”静かな祈り”のように響く。

―今回はプライベートで日本に来たと伺いました。日本ではどう過ごしていますか?

私、本当に日本が大好きなんです。だから、日本のことならいくらでも話せます。今日はこの取材の後、神社に行ってショッピングを楽しむ予定。日本の食事も大好きで、昨日は二度もディナーをしたんです。お寿司としゃぶしゃぶを食べに行きました。

―まずは『Where the Butterflies Go in the Rain』デラックス版のリリース、おめでとうございます。今回は、昨年の6月に発売されたオリジナル・アルバムに3曲を追加したバージョンですよね。新たなEPではなく、なぜあえてデラックス版という仕様にしたのでしょう?

そもそも、アルバムのために120曲くらい制作したんです。『Where the Butterflies Go in the Rain』は大好きなアルバムだから、収録しきれなかった曲も発表したいなという気持ちが強くて。これからアメリカとヨーロッパを回るツアーに出るタイミングだし、デラックス版としてリリースするには絶好のタイミングだと思ったんです。アルバムにもう一度エネルギーを注ぐというか。ツアーでは、もちろんアジアの会場も廻りたいと思っています。

―今回は「Lose My Focus」の新録バージョンも収録されています。フィーチャリング・アーティストとして日本の血を引くシンガー、UMIが参加している。

そう! UMIとは、数年前にLAにいる共通の友人を介して知り合ったんです。よく遊ぶようになったのは去年かな。彼女とは、まるで親戚のようなつながりを感じるんです。お互い似ているとこともたくさんあるし、音楽業界にいる者同士、困ったことや楽しいことを分かち合える。これからもUMIのことをサポートしたいなと思っています。この「Lose My Focus」はUMIの日本語も入っているの。

―そうなんですね!

UMIもそうだし、私は日本のカルチャーとの間にコネクションを感じていて。なぜかというと、私の祖父はしばらく日本に住んでいた経験があるんです。日本人の女性に恋をして彼女と結婚の話も持ち上がったらしいんだけど、おそらく文化の違いや家族の問題があって実らなかったと言っていました。祖父はよく私に日本のことを話してくれて、ちょっとした日本語も教えてくれていたんです。あと、私は日本で生まれていた可能性もあったの(笑)。母親が私を妊娠しているときに日本を訪れたんだけど、すでに出産間近の状態だったみたいで。結局、帰国して出産しなくちゃいけなかったみたい。だから、日本とは妙なつながりを感じます。

―アルバムの話に戻りますが、『Where the Butterflies Go in the Rain』(雨のときに蝶々たちが休む場所)というタイトル自体、とても美しいと思いました。どのような情景を描いたタイトルなのでしょう?

ポエムみたいなタイトルでしょ。もともとは歌詞の一部として書いたフレーズなんだけど、だんだんと「これはアルバムのタイトルにすべきなんじゃないか」と思うようになったの。蝶の羽はとても繊細だから、雨が降ると花や葉っぱの間に隠れないといけないんです。アートワークの写真も、その風景をイメージしたもの。私の顔が、花の陰に隠れているでしょう? アルバムを通して「天気にかかわらず、たとえ嵐が来たとしても、あなたは自分のセーフスペースを作ることができるよ」というメッセージを伝えたかったの。あなたは、あなたの人生をゆっくりと楽しむこともできるし、高いところに飛んで行くこともできる。自分を労って、必要な時は雨から身を隠して欲しい。アルバムの内容は、とっても楽しさに溢れた(joyful)内容になっています。アルバムのコアな部分はとってもスウィートで、希望に満ち溢れて、シネマティックな美しさもある。私が初期に影響を受けたものや、音楽への欲求がナチュラルに表現されていると思います。

―アルバムを聴くと、サウンドとあなたのボーカルがとてもオーガニックに合わさっているし、まるであなたがすぐ近くで歌ってくれているような親密さを感じました。楽曲を作るプロセスはどのような感じでしたか?

ディテールにこだわりました。制作したメンバーは私の親友でもあるし、みんなでジャムセッションをしながら作った曲が多いかも。だから、親密な雰囲気が出ているんだと思います。一緒に遊びながら曲を作って、ということを繰り返していたから、プロセスは計画的でも建設的でもないやり方だったと思う。2年間、衣食住とともに音楽を作って徐々に(アルバムの中身を)大きくしていったという感じ。なんせ120曲も作ったから、アルバムのトラックリストも40パターンも作ったの(笑)。おかしくなりそうだった!とにかく、私ができうる最高のものを形にしたくて、ソングライティングにはたくさんの愛情を注ぎました。

―『Where the Butterflies Go in the Rain』のオリジナル・バージョンは昨年の6月にリリースされました。ファンたちの反応はどうでしたか? そして、アルバム発表後に何か変化したことはありましたか?

生活はいい方向に変わりましたね。それに、ファンたちはこのアルバムの中で表現している私の成長を感じ取ってくれたと思う。リリースされてから実際にツアーに出るまでしばらく時間が掛かってしまったんだけど、逆にそれが良かったみたい。みんな、アルバムを生活の一部のように聴いてくれていて、とても嬉しいです。今はソーシャルメディアの時代だけど、いいライブをして、ファンとのコミュニティを作ることこそがオーセンティックなやり方だと思っているんです。私は、ライブの前にファンのみんなとメディテーション・セッションをすることもあるの。そうやって、コミュニティを作っていくんです。みんなも、(デジタルではない)リアルな体験を求めているんだなってわかるし、これは世界共通のことなんじゃないかと思います。オンライン上の情報が溢れている中、こうした生(なま)のスペースこそ、ちゃんと残しておくべきだなと感じています。自分にとってのセーフスペースであることはもちろん、他の誰かも「自分と同じ趣向の人たちがいるんだ!」と感じることができるスペース。そうして、他者とのコネクションが出来ていくんだ、って。

―音楽業界、特にアメリカを中心とした音楽業界は流れも早いし、コンテンツもどんどんデジタル化しています。そうした中で、オーガニックな自分のスペースを守り続けていること自体が貴重ですよね。どんなときにファンとのコネクションを感じますか?

多分、メディテーション・セッションの時かな。一緒にスピリチュアルなことを体験すると、とても、強い結びつきを感じます。あと、私とファンの間には実際に手紙を書いて送り合うイベントも行っているんです。ファンたちが私に手紙を送ってくれて、時々、私も手紙を書いて返信するんです。私とファンはとても近しい距離感にいると思うし、これは素敵なことだと思っています。

―あなたはこれまでにも度々メディテーションやスピリチュアルな経験についてお話ししていますよね。毎日のルーティーンを聞いてもいいですか?

私はもともと、すごくスピリチュアルな家族のもと育ったんです。アルバムの中に収録されている「Afternoon Tea With The Auroras」というスキットは私の祖母とのやりとりで、彼女は1日に8〜10時間もメディテーションに時間を費やすこともあるくらい。私は、1日に二度、朝と夜にメディテーションを行なっています。できるときはお昼にも。忙しかったり旅行中だったり、その日にもよるので、10分や15分くらいの短いセッションの時もあるし、1、2時間没頭する時もある。自分の神経系をリセットして、自分の感情に耳を傾けてあげることが大事だと思っています。

―個人的な話になってしまうんですけど、私はとてもせっかちで、目を閉じても頭の中で何か考えてしまうし、5秒くらいしかじっとしていられないんです。何かいいアドバイスはありますか?

まずは呼吸から始めてみたらどうかな、呼吸と自分の身体は直結しているから。心は私たちの体の内側にあって、休息のタイミングを必要しているんです。でも、私たちの身体は常にオンラインからの情報で刺激を受けている状態で、それって、身体にとっては不自然なこと。その代わり、自然に触れるときは身体全体でその自然を感じることができて、即座にリラックスすることができる。私たちは何千年もの間、自然のなかで暮らしてきたわけだし、全てはそこからスタートしたんだから、そうあるべきですよね。でも、現代社会に生きていると常にそんなコンディションに身を置けるわけじゃないから、まずは呼吸を意識して、「何を体に取り入れ、何を吐き出すのか?」ということにフォーカスしたらいいかなと思います。

Photo by Erika Kamano

異なる世界をどのように融合させるか?

―ご自身のルーツであるインドの音楽性と、ご自身のユニークな音楽性をうまく、そして実験的に融合している点も、あなたが素晴らしいアーティストである理由の一つだと思います。これまでにどのようなチャレンジを経てきたのでしょうか。

インド系の音楽は、私の中に深く埋め込まれているというか、小さい頃から聴いてきた全ての音が自分の中に集約されている感じ。小さい頃から家では両親がボリウッド音楽やシーク教の祈りの音楽を流していたので、自然にそうした音楽に浸っていました。でも、ミュージシャンとしてはソウル・ミュージックやアメリカのポップスを聴いたり、クラシック音楽に触れて(技術的な)トレーニングをしたりしていたんですよね。インドの音楽と比べると、音階も大きく異なるし、使われている楽器も全然違う。なので、私に取っては全く別の世界の音楽たち、という感じなんです。なので、ミュージシャンとしてのこの5〜7年間は、この二つの世界をどのように融合させるかを常に模索してきました。これまでにリリースした3枚のアルバムを通して色々とチャレンジしてきたんだけど、やっとその二つの世界をとてもシームレスに繋ぎ合わせることができたんじゃないかなと思っています。実際、今回のアルバム全体にも、シタールやタンプーラ、タブラ、ヴィーナーとか、さまざまなインドの伝統楽器を使っているんです。

―今回のデラックス版は、今年に入って発生したLAの大規模火災の時期を経て制作されたと伺いました。

UMIと録った「Lose My Focus」や、今回のリードシングルになった「Sun Dont Leave Me」を仕上げたのは、まさに火災の真っ只中でした。もともと、「Sun Dont Leave Me」は気候変動についてーー特にクライメイト・グリーフ(気候悲嘆。気候変動や気候危機による自然環境の劣化などに対して感じる悲しみや苦しみのこと)について書いた歌だったの。なので、奇妙な偶然が信じられなくて、オラクル(神託)なのかなと感じました。

―実際に、生活面において火災の影響を受けましたか?

残念ながら、かなり影響がありました。家自体は無事だったのですが、火災現場のすぐ近くに住んでいたので…実は今(取材を行ったのは2024年2月末)も自宅には帰ることができないの。火事が発生してから避難しなくてはいけなくなって、家の周りにいた軍の警備から「15分だけ家に戻ることを許します」と言われて。私のボーイフレンドが窓を割って家の中に入って、持てるだけの機材とステージ用の衣装、あとは日記と出生証明書を掴んで走って出たんです。本当に信じられないような状況でした。私は火事が発生したアルタデナという地域のすぐ隣に住んでいて、自分の家も燃えちゃうんじゃないかと思ったの。だからある程度、全てを失う覚悟はできていたというか。とにかく、この数ヶ月でさらに人生が大きく変わったと思います。今回の滞在の後、アメリカに戻ったら引っ越しをしようと思っていて。最近、山あいにすごく素敵な家を見つけたので、そこに住もうと思っているんです。引っ越したら、インターネットから離れる時間も増やして、執筆しながら自分のエナジーを守りつつ、メディテーションの時間も増やすつもり。あと、COVIDのゴタゴタもあってここ3年くらいはいつもと違う生活だったなと感じます。だから、ツアーが終わったらちょっとスロウダウンしようかな、と。スタジオに戻ったときに、一体自分からどんな作品が産み出されるのか自分でも楽しみなんです。

―これから控えているツアーは、どんな感じになりそうですか?

今回のツアーのために、たくさん練習したの。前回のツアーに比べると、ミュージシャンとしてとても成長していると思います。みんなが体験する価値を高めたいなと思っていて、ビジュアル的にもアップグレードしていると思うし、パフォーマンスそのものもネクスト・レベルのものになると思う。だって、何より生のライブ・パフォーマンスが大事でしょう?

―前回の日本でのライブは3年ほど前ですよね。どんな印象を受けましたか?

あの時の東京でのステージは、今でもお気に入りのライブの一つ! みんなとてもスウィートだったし、すごくリスペクトを示してくれた。ライブの後にファンと会う機会があったんだけど、みんな最高でずっと忘れられません。

『Where the Butterflies Go in the Rain』

Raveena

EMPIRE

配信中

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