伊丹十三監督全10作品の4Kデジタルリマスター版を上映する「日本映画専門チャンネルpresents 伊丹十三4K映画祭」を開催中の東京・TOHOシネマズ日比谷で22日、伊丹映画の音楽を担当してきた本多俊之氏によるトークショーとミニライブが行われ、伊丹監督との印象深いエピソードなどを明かした。

  • 本多俊之氏

    本多俊之氏

テレビCM用の曲をメインテーマに変更

伊丹監督映画10作のうち7作品で音楽を手がけた本多氏が最初にメインテーマを担当したのは、『マルサの女』(87年)。少し怪しさが漂うサックスの旋律が強烈なインパクトを与え、映画公開後もテレビ番組など様々な場面で使用される名曲だが、当初は、米映画『タクシードライバー』(76年)でバーナード・ハーマンが手がけた音楽を目指して制作した別の曲を予定していたという。

その曲は、デモテープを聴いた伊丹監督も「これはいい曲だ!」と一発OKを出したほど気に入ったが、テレビCMを制作するにあたり、「これはいい曲だから、隠しておこう」と別の曲の制作を依頼された。

「悪い人のイメージの曲を書いてよ」「本編でも使えたら使うよ」とオファーを受けた本多氏。それを踏まえて作った曲を聴いた伊丹監督は「これはすごいね!」「日本の裏社会の感じがする!」と大絶賛し、結局こちらがメインテーマに採用されることになったそうだ。

ちなみに、当初メインテーマに予定されていた楽曲は「マッハ文朱さんと宮本信子さんが話してる喫茶店のバックグラウンドで流れています」(本多氏)とのことで、司会を務めた日本映画放送の宮川朋之氏は「全然違う曲調ですね!」と驚いていた。

若手音楽家の抜てき「なぜ僕を使う気になったのか」

それから、伊丹映画に欠かせないものとなった本多氏の音楽。時には「『あげまん』の最後の『結婚行進曲』が寂しいから、サックスを入れてほしい」と急きょ撮影所に呼ばれ、演奏しに行ったこともあったという。

そんな伊丹監督に言われて忘れられないのは、「この曲は、周りの音が面白いから面白く聴こえてるんじゃないの? 映画音楽はそんなんじゃダメなんだよ。口笛で吹いても、お風呂で鼻歌で歌っても、それでも存在感がなければダメなんだ」という言葉。本多氏は「これは結構すごいなあと思って。本当に丸裸にされました」と衝撃を振り返った。

同じ干支で24歳年上の伊丹監督は、「お父さんみたいですごく穏やかに話してくれたんです」というが、「イメージとしては、こっちから見えてる伊丹さんは氷山の上の部分だけで、下にはものすごいものがあるんだろうなと、すごさをいつも感じていました」と回想する本多氏。

「今、伊丹監督に言葉をかけるとすると?」という質問に、「まずは“ありがとうございました”なんですけど、大事な3作目の『マルサの女』で、当時29歳の僕をなぜ使う気になったのか。周りには“あんな若造使うな”と言った人もいたと思うんですけど、それを押し切って私がもし失敗したらどうなさいましたか?と聞きたいですね(笑)」と、大抜てきへの感謝と疑問を述べた。