ウォーキングシューズやビジネスシューズを展開するASICS WALKING(アシックスウォーキング)。「歩く」という日常の行動を通して、健やかさを保つことを理念に掲げて数々の名作シューズを生み出してきた。中でもドレスシューズラインとして根強い人気を誇るのが、「RUNWALK(ランウォーク)」だ。同シリーズの誕生30周年を記念し、3月20日から、銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUMにて特別展示『ASICS WALKING RUNWALK GALLERY』が開催。展示では歴代モデルの変遷とともに、“五感”をキーワードに「歩く」という行為を再考できる構成となっている。私たちにとって重要な意味をもつ「歩く」ことについて、「RUNWALK」の歩みを振り返りながら考えてみたい。

  • アシックス商事 代表取締役社長の小林淳二氏。手にしているシューズは向かって左が「RUNWALK Ⅵ」、右が「RUNWALK ZERO」

ASICS WALKINGが目指し続ける「健康と豊かな感性を持った人間性の回復」

ASICS WALKINGは1983年、スポーツシューズを展開していたアシックスの創業者である鬼塚喜八郎が、スポーツばかりではなく歩くことによって「健康と豊かな感性を持った人間性の回復」を、との思いから事業を立ち上げたことに始まる。歩くという行為が身体はもちろん精神においても良い効果をもたらすことに当初から着目し、その本質的価値に目を向けてきた。その源流にあるのは、アシックスの社名の由来でもある「健全な身体に健全な精神のあれかし」という言葉だ。

  • 会場風景/Photo : Kohei Watanabe

展示では、歩くことが私たちにもたらす良い作用について、特に精神的な側面からの意義に注目。歩くことが五感を刺激することで、感受性が育まれ、個々人ひいては人類の歴史に創造性を与えてきたと解説する。たとえば古代ギリシャのソクラテスやアリストテレスといった逍遥学派(しょうようがくは:歩きながら弟子たちと議論したことでこう呼ばれる)の哲学者に始まり、ウォーキング・ミーティングを重ねていたというスティーブ・ジョブスなど、歩くことで思考を深めていた例は枚挙にいとまがない。歩いている間にずっと悩んでいた課題の糸口がつかめたり、新しい企画を思いついたり。あるいは、失敗や失恋など解消できない思いに整理をつけた……そんな経験、誰しも一つや二つあるのではないだろうか。

  • アシックスの創業者、鬼塚喜八郎

会場では、「歩くこと」が視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚にいかに作用するかをイメージ化したアートポスターとともに紹介している。スマホやパソコンといったデバイスから離れて、ゆったりと歩みのスピードに合わせて目の前を流れていく景色に目を向けて新たな気づきを得たり(視覚)。走るスピードでは耳に入ってこない小鳥のさえずりや木々のざわめきから自然の豊かさを感じる、あるいは行き交う人の話し声から創作のヒントを得たり(聴覚)。改めて展示物を眺めると、こんなにも歩きながら私たちは感覚をフルに使うことができるのか、と驚く。展示解説を読む前に、それぞれの五感と「歩く」の関係性について、自分なりに考えてみてから読んでみるとまた面白いだろう。……とはいえ、「味覚」と聞いてもなかなかピンとこないかもしれない。気になる人はぜひ会場で一つの解を確認してみてほしい。

  • 展示風景

11年売れ続ける超ロングセラー商品、それを超える新モデルとは?

生成AIの登場でより人間らしさや身体性といった点が問われる昨今において、歩くという原始的な行為は、今一度一人ひとりが見直してみるべき大きな可能性を秘めているのかもしれない。その行為に、ASICS WALKINGは早くから注目していた。なかでもビジネスパーソンを中心に愛用されてきた「RUNWALK」は、“走れるビジネスシューズ”をコンセプトとして追求し挑戦を続けてきた画期的なモデル。1994年に登場した「RUNWALK ZERO」から始まり、最新の「RUNWALK Ⅵ(6)」に至るまでの30年間、従来の革靴につきものである「硬い・痛い・ムレる」というイメージを刷新するためにアップデートを重ねてきた。

  • 歴代モデルの軌跡

  • 「RUNWALK Ⅵ」を分解したもの。相反する機能を全34パーツに分解して担わせることで、欲張りな機能性を実現させている/Photo : Kohei Watanabe

最初のモデル・RUNWALK ZEROは外見は革靴なのに、持ってみると驚くほど軽い。まずは軽さを追求したからという。そこから、次モデルはクッション性、その次のモデルはムレ対策に特化、その次はまたクッション性に……と、毎度試行錯誤の連続。ムレ解消とクッション性の確保はなかなか両立できなかったが、ついに2014年に両立を成し遂げた現モデル・RUNWALK Ⅵが登場。約11年にわたり今も販売され続ける大ヒットロングセラー商品となった。

  • 持つと思わず声が出るほど軽い「RUNWALK ZERO」

  • 「RUNWALK Ⅰ」と「RUNWALK Ⅱ」を比較すると、全体のデザインはもちろんソールも全く形状が異なっている

ASICSのスポーツカテゴリーで培った知見を素地に、その時代時代における最新テクノロジーを取り入れながら進化を続けてきたRUNWALK。30周年を迎えて、ついに11年ぶりに待望の新モデルがリリースされる。ランニングシューズの最新技術・機能を全部搭載したコンセプトモデルをつくり、それを実際にドレスシューズに仕立てるというプロセスをとっている。

  • Photo : Kohei Watanabe

展示会場の中央におかれたショーケースには、いわば“全部乗せ”のコンセプトモデルと、まだヴェールに包まれた「RUNWALK 7」とを合わせて眺めることができる。「7」ははっきりとその姿をみることはできないものの、両者はシルエットだけでもかけ離れており、ランニングシューズのノウハウがいかにドレスシューズに昇華されるのか……期待が高まる仕掛けになっている。実際にその姿が拝めるのは、発売予定である今年の7月だ。

  • “全部乗せ”のコンセプトモデル。ランニングシューズらしいクッション性が強く出されている

  • まだ謎の多い「RUNWALK 7」。現モデルと比較しさらに軽やかなデザインにも見える

今後の事業戦略は? インバウンド展開も見据える

単独直営店「ASICS RUNWALK GINZA」を2018年から銀座に構え、店舗販売をベースに着実に展開を続けてきた「RUNWALK」だが、今回の展示を国内外の人々が多く行き交う銀座において行ったのは、海外展開を見据えるからでもあるようだ。同ブランドを展開するアシックス商事 代表取締役社長の小林淳二氏は「インバウンドのお客様にも非常によくお買い上げいただいている。特に今は海外で(RUNWALKを)買える手法がないので、できるだけ早く海外の方にも現地から買っていただけるような仕組みを作りたい」と話す。まずはECサイトでの展開となりそうだ。

  • Photo : Kohei Watanabe

もともと、RUNWALKの進化の過程を振り返ると、デザインというよりも機能性に重きをおく傾向が強かったという。しかし、今は履きやすければ売れるという市場でもない。デザイン性との両立をより目指していく―「その答えが次のRUNWALK 7には出てくる」と小林氏。

  • 会場風景/Photo : Kohei Watanabe

健康管理の側面から万歩計やアプリなどで歩数をカウントしている人は多くても、あまりにも当たり前すぎて、あえてそれ自体に意識を向けることもない「歩く」という動作。だが改めて考えてみると、それだけ自然に五感を使い「ながら」できるからこそ、思考を様々にめぐらせることができる奥深い行為だ。

春は、歩くことが最も楽しい季節でもある。新しいことを始めるのにぴったりのタイミングでもあるが、いつもの振る舞い一つを見直してみるところからでもいい。毎日の暮らしで「歩く」をより豊かに、そして人生をより豊かにするために、RUNWALKが提案する五感を意識した歩き方を参考にしてみては。展示スペースから一歩踏み出せば、その一歩はより健やかな日々につながっているはずだ。

■特別展示イベント『ASICS WALKING RUNWALK GALLERY』は、3月20日~25日(火)の6日間、「銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM(GINZA SIX 6F)」にて開催中