国立唐津海上技術学校(佐賀・唐津市)は3月13日、本科第38期生の卒業証書授与式を行った。同校は「国立唐津海上技術短期大学校」への移行期間中であり、唐津海上技術学校としては最後の卒業式となった。

  • 唐津海上技術学校で最後の卒業式

海洋国家の明るい希望に

唐津湾に突き出した大島に位置する唐津海上技術学校。校舎の窓からは彼方に唐津城が臨めるほか、古くから交易の要衝として栄えてきた唐津東港にもほど近い。

  • 唐津城と舞鶴橋

これまで(高等学校相当の)3年間の教育が行われてきた伝統ある本校だが、本科第38期生が最後の卒業生となった。2024年春からは、高卒以上を対象とした2年制の唐津海上技術短期大学校として新入生を募集している。

  • 式典の様子。校長から卒業証書が授与された

校長式辞として野村哲也校長は「皆さんは将来の夢を追い、15歳で自らこの厳しい環境に飛び込みました。そしてこの地で3年間、25名の仲間と信頼関係を築き、不屈の精神を育み、今日の良き日を迎えました。これから船員として新たな一歩を踏み出しますが、まだまだ多くのことを学ばなくてはなりません。多くの苦労を伴うことでしょう。しかし謙虚な気持ちで困難を乗り越えて、やがては海運業界を担う立派な船員になってくれることを期待しています」と卒業生を祝福する。

  • 国立唐津海上技術学校 校長の野村哲也氏

また、次のようにも続けた。「今日の卒業式は、本科校として最後の卒業式です。皆さんは、その最後を飾るに相応しい25名です。胸を張り、大海原に乗り出してください。皆さんが築き上げた本校の伝統は、航海専科生が受け継いでくれることでしょう。今後、学校の名前は変わりますが、皆さんの母校であることに変わりはありません。唐津海上技術学校の卒業生であることに誇りを持ち、困難にも臆することなく、それぞれの道で活躍してください」。

  • たくさんの父兄も出席した

続いて、海技教育機構の田島哲明理事長が祝辞。「昭和15年の創立から85年が経つ本校の卒業生という誇りを胸に、希望に満ちた新しい道を1歩1歩進まれることを心から期待しています。国内貨物輸送の全体の約4割を担う内航海運は、我が国の国民生活と経済活動を支える必要不可欠なライフラインです。その安全かつ安定した海上輸送は、船員が担っています。皆さんは本校で学んだ知識・技術を最大限に発揮し、海洋国家日本の明るい未来を照らす希望として、大海原を舞台に羽ばたいてください」と呼びかける。

  • 独立行政法人 海技教育機構 理事長の田島哲明氏

九州運輸局 佐賀運輸支局次長の出田嘉伸氏は祝辞を代読。

まずは「卒業生の皆さんが過ごした3年間は、短期大学校への移行期と重なり、下級生が入学しない学校生活となりました。しかし第38期生の仲間と支え合いながら努力を積み重ね、今日という素晴らしい日を迎えられました」とねぎらう。そして「私たちの国は世界でも有数の海洋国家です。皆さんが進んでいく内航海運業界は国内輸送の約4割、とりわけ産業活動を支える鉄鋼、石油製品、セメントなどの産業基礎物資の輸送においては約8割を担います。ここ唐津市にも7つある有人離島の日常生活を支える重要なインフラにもなっています」。

国土交通省でも船員の働き方改革と並行して船員の確保、育成のための各種取組みを実施し、海上輸送に関心を高めてもらうための様々な取り組みを進めていきたい、と説明した。

なお成績優秀者には、優等賞、海技教育財団会長賞、日本内航海運組合総連合会会長賞などが贈られた。

  • 生徒を表彰する、日本内航海運組合総連合会 海務部 課長代理の山西泰弘氏

このあと、寄せられた祝電が読み上げられた。唐津市長 峰達郎氏は「春うららかな今日のよき日に、卒業生の皆さまは思い出深い学び舎を旅立たれ、新しい世界へ羽ばたかれます。これからも自分の可能性を信じて、何事にもチャレンジ精神をもって取り組んでください」、日本内航海運組合総連合会 会長の栗林宏吉氏は「皆様が積み重ねてこられた努力は、これから広大な海原へ船出する確かな羅針盤となるでしょう。荒波に立ち向かう勇気と、穏やかな航路を進む知恵をもって、それぞれの航海を安全に、そして豊かに進められますようお祈り申し上げます。皆様の未来が、順風満帆で輝かしいものとなることを願っております」と祝電を寄せた。

  • たくさんの祝電が寄せられた

卒業生から、代表者が挨拶。登壇した小林くんは「毎日が濃い思い出ばかりで、この3年間はとても早く感じました」と切り出すと「慣れない専門科目の授業」「緊張感のある海上実習」「寮における共同生活」を数々のエピソードを交えながら振り返り、「思うようにいかなくて悩む日々もあったけれど、様々なことを経験して大きく成長できました」と総括。学校の教官、職員に感謝の言葉を並べると、温かく見守ってくれた保護者に対しても「家族の支えがあったから頑張ってこれました」と思いの丈を伝えた。

  • 卒業生代表の挨拶

  • 校歌斉唱して閉式となった

式典の終了後、卒業生たちは体育館で恒例の”帽子投げ”を行った。生徒の代表が大きな声で家族に感謝の気持ちを伝えると、『ごきげんよう』の掛け声で帽子を空高く投げ上げ、互いの門出を祝った。

  • 恒例の帽子投げを行った

生徒に話を聞いた。成績優秀者として表彰された男子生徒は「15歳から3年間の寮生活が始まりました。はじめは生活環境が変わったことに慣れず、また中学校とはまったく違う授業内容にも戸惑いました。何度も『実家に帰りたい』と思いました。でも同級生との絆も深まり、精神的にも強くなれたと思います」。

就職先は、タンカーを扱う海運事業者に決めた。「副担任だった先生の薦めもあり、調べてみたらとても良い会社だったんです。もともとフェリーの仕事に就きたかったのですが、勉強しているうちに、世の中には様々な船種があるということを知りました」。最後に夢を聞くと「学校で学んだことを発揮して、将来は一流の船乗りになりたいです」と笑顔で話してくれた。

  • 同級生と記念撮影。卒業生25名は、全国各地の海運事業者に就職を決めている

  • 校庭では恩師を胴上げした