ここ数週間の米中関係の緊張や各国の政策変更により、株式市場の不透明感が高まっています。こんな時、投資の専門家はどのような選択肢をとるのでしょうか?
今回は、SBI証券投資情報部のシニア・ファンドアナリスト川上 雅人さんに、このような局面での選択肢になりうる投資商品について伺いました。
トランプ政権後の経済的不透明感の中で
2024年の米国株式市場は大きく上昇しましたが、S&P500やオルカンの下落を経験し、不安を感じた投資家も多いのではないでしょうか? 特に、新NISAを活用し投資を始めたばかりの方にとって、急な価格変動は悩ましいものです。そんな中、資産分散の一つとして「金(ゴールド)」への投資も検討すべき選択肢となります。
金は安定した資産としての役割を果たす
金は、長期的な価値保存機能(インフレヘッジ)、不安定な市場環境下での安定性、デフォルトリスクのない(実物資産なので、投資先の企業や国の財務リスクがない)資産として知られています。過去20年間のトータルリターンでは、米国株式に次ぐ成績を記録し、全世界株式や先進国株式を上回るパフォーマンスを示しました。つまり、資産の組み合わせの一部に金を組み込むことは、リスク分散の観点から有効な選択といえます。
図表1の過去20年の暦年ベースでの各資産(円ベース)のパフォーマンスで見ると、金は39.9%(赤囲み部)となり、米国株式の39.3%とほぼ同等のパフォーマンスになり、直近10年間で見ても1位になった回数は3回(青囲み部)と、こちらでも米国株式と同じパフォーマンスを示しています。
図表2で過去20年の各資産(円ベース)のトータルリターンを示していますが、米国株式に続くのが、意外にも金(赤囲み)となっており、20年間では全世界株式や先進国株式を上回るパフォーマンスとなっています。
金を買う方法は? 金ファンドの活用が手軽
「金投資」と聞くと、金の延べ棒を購入するイメージを持つかもしれませんが、実際には金に連動する投資信託(ファンド)を利用することで、手軽に金投資を行うことができます。
それではここからは、NISAで買える金に関連するファンドを紹介していきます。
金に関連するファンドの種類と違い
NISAで購入できる金に関連するファンドには、大きく分けて2種類があります。
(1)金価格への連動をめざすファンド
- 特徴:金価格そのものの値動きに連動することを目的としたファンド
- 投資対象:金地金や金ETFなど、金そのものに投資
- 値動き:金価格の変動にダイレクトに影響を受ける
- メリット:金価格の上昇をそのまま享受できる
- デメリット:金価格が下落した場合、リスクヘッジなしで影響を受ける
- 向いている人:短期的な値動きを狙う方、金価格の上昇をダイレクトに享受したい方
(2)金を組み入れたバランスファンド
- 特徴:金だけでなく、株式・債券・リートなど複数の資産に分散投資し、その一部に金を組み入れている
- 投資対象:金ETFや金関連株式、債券、その他の資産をバランスよく配分
- 値動き:金の比率がファンドごとに異なり、金だけでなく、他の資産(株式・債券)の値動きの影響を受ける
- メリット:金100%のファンドより値動きがマイルドになり、リスクが分散される
- デメリット:金価格が大きく上昇した際、その恩恵を100%受けられない可能性がある
- 向いている人:リスクを抑えながら金に投資したい方、米国株に偏ったポートフォリオを分散したい方
(1)「金価格への連動をめざすファンド」は、すべて為替ヘッジを行っていないファンドのためドル円レートの変動の影響を受けることから、値動きの振れ幅を示す指標のばらつきが外国株式ファンド並みに大きくなっています。
一方で、(2)「金を組み入れたバランスファンド」は、相対的に指標のばらつきが小さくなっており、金は株式や債券などと組み合わせて投資することにより、リスクを抑える効果が高まることが期待されます。
金価格への連動をめざすファンドTOP5
上記は、NISAで買える金価格への連動をめざすファンドの1年リターン上位5本ですが、それぞれ国内外の金価格に連動をめざすファンドであるため、パフォーマンスに大きな差はありませんでした。
また、リスクを抑える効果を考えると、金に投資をしてみたいが投資割合を迷われている方や分散投資を検討したい方は、後述する金を組み入れたバランスファンドを活用することが有効と考えます。
金を組み入れたバランスファンドTOP5
それでは、金を組み入れたバランスファンドTOP5をご紹介します。こちらは1~5位を個別にご紹介します。なお、各資産の組入比率は2024年12月末基準です。
5位 ピクテ新興国ゴールデン・リスクプレミアム・ファンド(愛称:新興国ポラリス)
新興国の株式および債券、金等様々な資産に投資し、投資環境に応じて配分比率を決定しています。3位のファンドの新興国版といえ、債券が33.4%、金が32.1%、株式が27.9%の組入比率となっています。
4位 SBIグローバル・ラップファンド(積極型)(愛称:My-ラップ(積極型))
世界各国のさまざまな資産へ分散投資し、ウエルスアドバイザーからの助言により運用を行っています。株式型資産が72.7%、債券型資産が23.9%となっており、株式型資産の1つとして金があり、その組入比率は8.7%です。
3位 ピクテ・ゴールデン・リスクプレミアム・ファンド(愛称:ポラリス)
世界の様々な資産(株式、債券、金、リート等)に投資、投資環境に応じて配分比率を決定しているファンドです。株式が34.0%、金が32.6%、債券が31.0%の組入比率となっており、金が多めのファンドといえます。
2位 ダイワFEグローバル・バリュー(為替ヘッジなし)
割安と判断される世界の株式等に投資し、金ETF、債券、転換社債などの資産も投資対象としているファンドです。北米株式を中心に株式の組入比率が79.1%のファンドで、金関連の資産が14.2%(ETF関連が10.6%、金関連株式が3.6%)です。金の組入比率は10.6%といえ、ほとんどが株式に投資しているバランスファンドのため、3年リターンが高くなっています。
1位 ROBOPROファンド
世界の株式、債券、リート、コモディティに分散投資、1ヵ月毎にAIが配分比率を決定するファンドです。金の組入比率は28.9%となっており、資産別では最も金の組入比率が高くなっています。他資産では新興国株式(19.6%)、米国リート(18.9%)、先進国株式(15.8%)などとなっています。NISAで買えるバランスファンドで1年リターンが最上位となっています。
金ファンドを活用した、分散投資の検討を
金ファンドは、株式市場の影響を受けにくい資産クラスであり、資産運用のリスク分散に役立ちます。特に、S&P500やオルカンの下落を不安に感じる方は、金をポートフォリオに加えることで、価格変動リスクを抑えることが期待できます。また、NISA枠での投資先に迷われている方も参考にしていただけると幸いです。
『投資情報メディア』より、記事内容を一部変更して転載。
※1
BloombergデータをもとにSBI証券作成。米国株式はS&P500(配当込み)、全世界株式はMSCI ACWI(配当込み)、先進国株式はMSCIコクサイ(配当込み)、新興国株式はMSCIエマージング・マーケット・インデックス(配当込み)、国内株式はTOPIX(配当込み)、先進国債券はFTSE世界国債インデックス(除く日本)、新興国債券はJPモルガン・GBI-EMグローバル・ダイバーシファイド、先進国リートはS&P先進国REITインデックス(除く日本、配当込み)、国内リートは東証REIT指数(配当込み)、金はLBMA金価格から算出。暦年リターンで1位となった資産を赤字で表示。上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
※2
BloombergデータをもとにSBI証券作成。上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません
※3
SBI証券取り扱いのNISA対象ファンドで、金価格に連動をめざすファンドを1年リターン順に表示(2025年1月末基準)。上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません
※4
SBI証券取り扱いのNISA対象ファンドで、金に投資しているバランスファンドを1年リターン順に表示(2025年1月末基準)。参考としてSBI証券のバランスファンド売れ筋1位ファンドを表示。上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません