
BMWのZモデルは未来のスポーツカーを表していた。ジェームズ・ボンドの映画にも登場したカジュアルなロードスターから高性能クーペにまで進化したが、その中から私が選んだベストの一台を知ればあなたはちょっと驚くかもしれない。
【画像】楽しいことは文句なし。BMW Z1を試乗する(写真5点)
Zはアルファベットの最後の文字であり、しばしば究極のもの、あるいはその先を示す記号として使われるが、BMWの2シータースポーツカーに与えられた「Z」は文字通り未来を意味する。
Zは未来の頭文字
「Z」はドイツ語の未来の意であるzukunftの頭文字だ。いささか皮肉なことに、オリジナルのBMW Zモデルはどれも今ではクラシックカーとして認められている。中でもZ4は間違いなく未来的なクラシックモデルとして記憶されるはずだ。私たちはBMW自身が所有するコレクションの中からZ1、Z3、Z4、そしてZ8を借り出し、さらにBMW専門店の「ミューニック・レジェンズ」からZ3MとZ4Mの2台のクーペを提供してもらい、もう一度その魅力を探るドライブに出かけた。
Z1
その名が示す通り、BMWは1989年にZ1を発表した時、未来を占おうとしていた。Z1は新たに設立されたBMWテヒニックGmbHによって生み出されたものである。その先進技術研究部門は、1985年にデザイナーとエンジニアたちが既存の3シリーズや5シリーズ、そして7シリーズの慣例に捕らわれずに自由な発想で作業するために作られた部署で、従来のルールに従わないことがルールとされたのである。
わずか6カ月の間に、ウルリッヒ・ベッツ率いる60名のチーム(ベッツィー・ボーイズと呼ばれた)は、アバンギャルドなZ1を作り出した。当初は単なるコンセプトカーと思われたが、BMWは1956年の507以来初めての2シーター・コンバーチブルにゴーサインを出したのである。当時8万ドイツマルク(およそ2万5000ポンド)もした車を求める予約者の列はたちまち長く伸びることになった。
Z1は今日の目で見ても際立って個性的である。尖ったフロント部分とごく控えめなキドニーグリルは現代の8シリーズ、あるいは最初のM1を彷彿とさせる。M20B25型直列6気筒がフロントミドに積まれていることが見た目にも分かるスタイルである。ドライブトレーンの大部分はE30型325iからの流用ながら、マンクス・キャットのように切り詰められたテールなどのスタイルはイタリア風を感じさせる。
その骨格は独創的だった。ボックスセクションのスチールフレームを基礎として、フロアには複合材を使用、ボディパネルは射出成型の樹脂製であり取り外し可能で、オーナーが別のカラーのパネルを注文できると言われていた。サイドシルはメルセデス・ベンツ300SLのように高く、バスタブ型のフロアを形成していたが、ただし、ドアはガルウィングではなく、垂直にスライドしてサイドシルの中に格納される仕組みだった。あえて採用したこのドアがいわばZ1の名刺代わりである。
ボタンを押すとモーターによってドアは滑るように下がり、高い敷居を跨ぐようにしてシートに乗り込む。優雅に行うのはたいへんだ。Z1は左ハンドル仕様のみで、ドライビングポジションは低く寝そべるような姿勢となる。なかなか快適であると同時に、ルーフとドアがないとこれほどの開放感があることに驚かされた。風は勢いよく巻き込み、眼の端に路面が流れ去るのを捉えることができる。ミニ・モークやウィリス・ジープ、アリエル・ノマドのようとも言えるが、不安を感じることはない。
楽しいことは文句なし、ただし実際に運転してみると速いというより活気があると言うべきだ。168bhpの最高出力はE30型325iと同一であり、1250kgの車重も似たようなものである。それでもスピードをそれほど求めないのであれば、実に好ましい。低速トルクは十分で、滑らかに引き出すことができる。シフトレバーの動きは大きいがスムーズであり、クラッチの操作もブレーキの具合も申し分ない。
サスペンションは新旧のいわば折衷品である。フロントは325iのストラットながら、リアは新しいマルチリンク、その名もZアクスルの最初の採用例である(E36型3シリーズに本格的に採用される以前)。レスポンス良く、しかもバランスの取れた足回りは222Nmのトルクを存分に使いこなすことができる。さらにステアリングも美点である。私自身の1994年式M3(E36型)よりずっと正確で、中立付近の落ち着きと反応も優れており、少しだけクイックなレシオもちょうどいい具合だ。残念なのは耳障りな音が路面から伝わってくることで、おそらくはこの車のサスペンションが使い込まれており、本来の状態ほど引き締まってはいなかったと思われる。
1991年には景気もすっかり冷え込んでしまったが、この年の6月までにBMWは8000台のZ1を生産したという。ユニークなドアを備え、しかも左ハンドル仕様のみのモノグレードだったことを考えれば、この種のニッチカーとしては悪くない数字と言えるだろう。現在はわずかな台数を英国で4万4000から6万ポンドで見つけることができる。
・・・【BMW Z3 Mクーペ編】に続く。
1990年BMW Z1
エンジン:2494㏄直列 6気筒 ボッシュ燃料噴射
最高出力:168bhp/5800rp 最大トルク:222Nm(164lb-ft)/4000rpm
トランスミッション:5段 MT 後輪駆動 ステアリング:ラック&ピニオン パワーアシスト
サスペンション(前):マクファーソン・ストラットコイルスプリング、テレスコピックダンパー、スタビライザー
サスペンション(後):マルチリンク(Zアクスル)コイルスプリング、テレスコピックダンパー、スタビライザー
ブレーキ:ディスク 車重:1250kg 性能:最高速 227km/h(141mph)/0 -62mph加速 7.9秒
編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA
Words:Ben Barry Photography:Sam Chick
THANKS TO Munich Legends, munichlegends.co.uk