大正製薬が医師・宮崎滋氏監修のもと、内臓脂肪を減らし、メタボリックシンドロームを予防するための効果的な対策について解説している。

メタボリックシンドロームとは

メタボリックシンドロームとは、動脈硬化を生じやすく心筋梗塞を起こしやすい病態で、その原因は、内臓脂肪蓄積と高血圧、高血糖、脂質異常の複数の代謝異常の集積にある。

1990年代には「死の四重奏」や「シンドロームX」などと呼ばれていたが、これらの概念や名称が整理され、メタボリックシンドロームと命名され、診断基準が定められた。日本人に欧米人の基準を適用することは難しいため、日本内科学会や日本肥満学会など8学会が集まり、2005年に日本独自の基準が決定され、2025年でちょうど20年を迎える。2008年には、この基準を活用し、心筋梗塞や脳梗塞の予防、健康維持・増進を目的とした特定健診・特定保健指導、いわゆる「メタボ健診」が始まった。

メタボリックシンドロームは、複数の生活習慣病リスク因子が重なった状態であり、内臓脂肪の蓄積により高血糖、高血圧、脂質異常を引き起こす。その結果、血管に負担がかかり、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病などの重篤な疾患のリスクが高まる。食事療法や運動、生活習慣の見直しなどを通じた総合的な内臓脂肪対策は、健康寿命の延伸という観点からも非常に重要だという。

メタボリックシンドロームの診断基準

診断基準として、ウエスト周囲長が男性85cm以上、女性90cm以上であることが挙げられる。これに加え、以下の3項目のうち2項目以上を満たす場合に、メタボリックシンドロームと診断される。

  • 高血圧:収縮期血圧130mmHg以上または拡張期血圧85mmHg以上
  • 高血糖:空腹時血糖値110mg/dL以上
  • 脂質異常:トリグリセリド(中性脂肪)値150mg/dL以上、またはHDLコレステロール値40mg/dL未満

内臓脂肪を減らすための対策

内臓脂肪を減らすためにはどのような対策が考えられるのか。大正製薬が2025年1月、全国の20代以上の男女1000人を対象に、余分な脂肪をつけないためにどのような対策をしているかを調査したところ、「何も対策していない」という人が261人で最多、次いで、脂質の多い食品を控える(226人)、運動を習慣にする、間食を控える(ともに200人)、糖質の多い食品を控える(185人)、食べる時間に気を付ける(180人)という結果になった。

  • 身体に余分な脂肪をつけない(脂肪を減らす)対策、何をしていますか?

日本人の食生活と運動習慣の変化

内臓脂肪を減らし、メタボリックシンドロームを防ぐために効果的な対策を、肥満対策に詳しい医師の宮崎滋氏に聞いた。

宮崎氏によれば、日本人の食生活の問題点は動物性脂肪の過多と運動量の減少にあるという。戦後の日本の栄養調査によると、1950年の日本人は食事から平均2095キロカロリー摂取していたが、2000年代に入ってからは2000キロカロリーを切るのが現状だという。

炭水化物の摂取は減った一方で、脂質特に動物性脂肪の摂取がこの70年間で約5倍になるほど大きく増加したことに加え、モータリゼーションによる車の使用や電化、コンピューター化により運動量が減少し、摂取エネルギー以上に運動による消費エネルギーが減ったため、相対的にはエネルギー過剰になったと考えられる。

厚生労働省の「健康日本21」では、脂肪エネルギー比率の増加が動脈硬化性心疾患の発症率や乳がん、大腸がんによる死亡率の上昇を招いていると指摘されている。また、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、脂肪エネルギー比率の目標値を20~30%程度とし、特に20~40歳代では25%以下にすることが望ましいとされている。

女性の脂肪のエネルギー比率はどの年齢層においても男性を上回り、20~59歳の年代ではほぼ半数かそれ以上の人が30%を超えている。20~30代の若い男性では、リモートワークやIT化による運動不足が原因で内臓脂肪型肥満が増加傾向にある。このまま放置すれば、40代以降に心臓病や脳梗塞などの発症リスクが上がるため、若い世代からの対策も講じる必要があると、宮崎氏は指摘する。

一方、20~30代の女性はダイエットトレンドの影響で痩せ志向が強く、糖質制限を行う一方で、カロリーの多くを脂質から摂取する傾向があるという。低体重の瘦せ型女性でも脂肪肝と診断されることがあるのは、食生活における脂質の過剰摂取が原因かもしれないとのこと。

低カロリーな食事でも生活習慣病に

カロリー摂取は減少傾向にあるにも関わらず、糖尿病をはじめとする生活習慣病患者が増加していることの原因のひとつとして、内臓脂肪が大量に蓄積されると、複数の代謝阻害因子が分泌されてしまうことがあげられる。例えば、血圧上昇を招くアンジオテンシノーゲン、炎症を促進し、インスリンの作用を低下させて血糖値を上げる TNF-α、血栓をつくり動脈硬化を促進してしまうPAI-1が増加してしまうという。反対に、抗炎症作用を持ち、インスリン感受性を改善して血圧・血糖を下げるアディポネクチン、食欲を抑制するレプチンは減少してしまうことがわかっている。

食生活のコントロールのために知っておきたいこと

  • 食生活のコントロールのために知っておきたいこと

脂肪がつくメカズム

人間は安静時でもカロリーを消費しており、これを基礎代謝と呼ぶ。摂取カロリーが消費カロリーを上回ると太り、下回ると痩せる。この原理が鉄則で、カロリーが過剰でも食べるものの種類に気を付ければ太らない、ということはない。同じカロリーの中でも腹持ちがいいもの、同じ体積でもカロリーが低いものなどを選択することで、摂取カロリーが消費エネルギーを上回らないように調整することができる。

エネルギー源になるブドウ糖は1g=4kcal、身体を作り、エネルギーの材料になるたんぱく質は1g=4kcal、エネルギー源のほか細胞膜やホルモンの材料になる脂肪は1g=9kcal、腸を整える食物繊維は吸収されないので摂取カロリー換算はされない。これらをバランスよく組合せ、満足度の高い食事を構成する。摂取カロリーにおける理想的なバランスは、炭水化物が約45~65%、脂肪が約20~35%、たんぱく質が約10~25%とされている。なお、糖質もたんぱく質も余ると脂肪となるので、エネルギーの過剰摂取があれば太ってしまう。

食生活の目標は、無理なく続けられるものからスタートし、慣れてきたらその強度をあげていくのがコツだという。例えば「一切間食しない」といった極端なものではなく、まずは「週に1回は間食しない日を設ける」と決め、行動が習慣化してきたら、取り組む日を週2回に増やしてみる、といった進め方ができる。また、取り組むと決めたことが守れなかった場合に、必要以上に落ち込まないことも大切。食べるという人間の本能に過大な負荷をかけ続けるのはストレスとなるため、時には食べたいものを食べたいだけ食べるよう、宮崎氏は勧めている。

  • 基礎代謝の内訳

年齢とともに痩せにくくなる理由

  • 性別・年齢階層別基礎代謝量の低下

中年期になると筋力が低下し、基礎代謝の量が少なくなる。さらに、中年期には男性ホルモンであるテストステロンのレベルが徐々に低下し、代わりに女性ホルモンであるエストロゲンの影響が増すことで、脂肪が特に腹部に蓄積しやすくなることがある。女性は更年期に入ると女性ホルモンが減少し、加齢による基礎代謝の低下や筋肉量の低下などが複合的な要因で、内臓脂肪が徐々に増えてくる年代。ストレスや疲労が増える世代でもあり、コルチゾールというストレスホルモンが増加することで、脂肪燃焼のスピードが落ちるとも言われている。

また、脂肪には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類があり、褐色脂肪細胞は、余剰エネルギーを熱に変換して放散する重要な役割を果たす。大人になるにつれて褐色脂肪細胞の働きが低下することも、太りやすく痩せにくくなる要因の1つとされている。しかし、運動や寒冷刺激(冷たい環境に入ること)によって、一部の白色脂肪細胞が"ベージュ脂肪細胞"として褐色脂肪細胞化することでエネルギー消費量が増えることもあると言われている。

食欲がコントロールできなくなる理由

"甘いものは別腹"や"ストレスでドカ食い"といった現象は、科学的に実証されている。

美味しそうと判断すると、摂食中枢からオレキシンというホルモンが分泌され、このホルモンが胃の動きを調節して新たなスペースを作る働きをする。これにより、物理的に"別腹"ができる仕組みになっている。

  • 美味しそうと判断すると、摂食中枢から出されたオレキシンは胃の働きを調節して胃にスペースをつくる

また、ラーメンやジャンクフード、スナック菓子などの味が濃く、病みつきになりやすい食品は、一度"美味しい"と感じる快感を脳が記憶し、何度も繰り返したくなる"報酬系"というメカニズムを引き起こす。お酒を飲んだ後のラーメンが美味しく感じられるのも、報酬系の働きによるものだという。特に動物性脂肪は、麻薬などを凌駕する報酬系を刺激する快感をもたらすとも言われている。動物性脂肪は脳の働きを攪乱して満腹感を感じにくくし、更なる動物性脂肪への欲求や運動欲求の低下などにつながることがわかっている。

  • ストレスを感じたとき

また、ストレスのかかった心理状態の時に美味しいラーメンを食べて幸せな気持ちになる、という、感情のマイナスとプラスの振れ幅が大きいと、ドーパミンが大量に分泌されてドカ食いをしてしまいがちになることもわかっている。そのため、イライラしている時や不快な気分の時に食事や間食をするのは避けるのが賢明といえる。例えば、イライラしている時にはラーメン屋の前を通らないようにするなど、感情の起伏と食べ物との距離感を意識することがダイエットに有効だという。

太りやすい身体にしてしまうNGな食べ方

  • 時計遺伝子を意識した"食べる時間"が重要

体内時計を司る"時計遺伝子"の1つである「BMAL1」は、脂肪の合成を促す遺伝子とされており、22時から深夜2時にその働きが最も高まるという。これにより、夜間に摂取したエネルギーは脂肪に変わりやすく、脂肪細胞が脂肪を蓄積しやすくなるとされている。そのため、朝たっぷりと食事をとり、夕食を軽めに済ませることが望ましい食生活であるという。

運動も朝の時間帯に行うことで脂肪燃焼に効果的で、逆に夜に運動を行うと交感神経が優位になり体内時計が狂ってしまうため、控えることが推奨されている。

また、夕食前に軽い間食をとる、血糖値の上昇を抑えるカテキンを多く含む緑茶を夕食前に飲むなどの工夫をすることで、夜間の血糖値を安定させることができるとされる。

睡眠時間が短い人は、食欲を増加させるホルモンであるグレリンが増え、食欲を抑えるホルモンであるレプチンが減少するため、太りやすくなるという。理想的な睡眠時間は7時間とされており、睡眠の質を確保するためにも、夕食を満腹になるまで食べたり、遅い時間に食事をとることは避けるべきだという。

プチ断食のリスク

  • プチ断食のリスク

プチ断食は、短期間の断食を行うことで内臓を休ませ、代謝アップや脂肪燃焼を狙う手段だが、健康的なダイエットの観点からは推奨されない面もある。

通常時には食事から摂取したブドウ糖から即エネルギーが生成されるが、断食中はブドウ糖が不足するため、肝臓や筋肉に蓄えられたグリコーゲンを分解してブドウ糖をつくり、そこからエネルギーを生成する。さらに断食中にグリコーゲンが不足してくると、まず脂肪細胞の中性脂肪がエネルギーとして使われ、次に臓器や筋肉を作っている中性脂肪やタンパク質からエネルギーを生成し始めるため、筋肉や臓器自体の萎縮を招く。この状態を身体が危機と判断し、一気食いなどのリバウンドを招くリスクにつながるという。