ドジャースは数字上でも”規格外“…MLBの投手指標を活用して見えた強さの理…

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 解析が日進月歩で進化するMLBにおいては多くの指標が公開されている。米分析サイト『Fangraphs』の指標を集めた表には選手の名前、年齢を含めた394指標が示される。ではこの指標をどう活用すれば、選手の真の能力を解き明かすことができるのだろうか。今回は、ロサンゼルス・ドジャースの投手陣を基に、投手指標について着目した。(文:Eli)(文:Eli)

 

今シーズンのメジャーリーグは

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K-BB%

・対戦打席あたりの奪三振割合から対戦打席あたりの与四球割合を引いた指数

 

 対戦打者数を分母にした三振率K%と四球率BB%、そして2つを単純に引き算したK-BB%は選手の能力を測るには強力な指標だ。

 

 よくよく考えればこれは当然のことと言える。奪三振は投手がコントロールできる最も効果的な得点抑止策であるし、与四球は逆に最悪な得点抑止策である。

 

 これを引き算すればある程度投手の能力が見えてくるはずである。事実、2024年サイ・ヤング賞投手のクリス・セールとタリク・スクバルは規定投球回達成投手58人の中でK-BB%が1、2位となっている。

 

 

 さて、ドジャース先発陣であるが、90イニング以上投げた投手の中で考えるとかなり優秀な投手が並べられていることが分かる。

 

 大谷翔平は長期離脱明け、佐々木朗希はMLBデビューとなるため見通しが立てづらいが、少なくともブレイク・スネル、山本由伸、タイラー・グラスノーのTOP3は故障リスクを捨てればある程度はやってくれそうだ。

 

■Stuff+(フォーシーム)

・対戦打席あたりの奪三振割合から対戦打席あたりの与四球割合を引いた指数

 

 Stuff+は球速、スピン量、リリースポイントなどの球種の物理的な特徴からその効力を測定する指標だ。どのように打たれたか、守備が成功したかなどの投手がコントロールできない要素をそもそも計算にも入れていないため完全に排除することができる。Stuff+は平均を100として、高ければ良く、低ければ悪くなる。

 

 投球の基本となるフォーシームで重要となるのは主に球速と縦変化量だ。ボールが速ければ速いほど打者は対応に苦慮するし、縦変化が多いほど打者はボールが浮き上がるような錯覚に陥りボールの下を空振りしてしまう。

 

 この2点を両立するマイケル・コペックは球界屈指のフォーシームを持つと言える。結果にも表れており、コペックのフォーシームの空振り率は34.2%でオークランド・アスレチックスのメイソン・ミラーに次ぐ値である。

 

 また、ユニークなのがアレックス・ベシアのフォーシームだ。躍動感のあるフォームから繰り出されるフォーシームは球速こそ93.4マイル(約150キロ)とリーグ平均以下だが、スピンをかけるのが非常に上手く縦変化量は20インチを超える。

 

 ゆえにベシアのフォーシームは球界12位の空振り率28.3%を実現している。反対にブレイク・トライネンのフォーシームは球速が平均程度、縦変化が平均を大きく下回るため非常に低いStuff+を示している。

 

 

 

■Stuff+(変化球)

 

 変化球の効力を測る上で考慮されるのも、球速と変化量だ。注意が必要なのはここで言う球速とは投手の速球と比較した相対的な球速も含むということだ。

 

 打者は速球にタイミングを合わせてバットを振るため、それに近い球を変化させながら投げれば空振りを奪いやすくなる、という理屈だ。

 

 ゆえに例えば同じ85マイル(約136キロ)のスライダーでも投手の速球の球速が異なる場合、違った評価をされることがある。また、変化量も球速と同様に大きな要素だ。特にスライダーにおいてはスイーパー系なら大きな横変化、ジャイロスライダー系ならマイナスレベルの”落ち”があればよいだろう。

 

 ドジャース投手陣ではジャスティン・ロブレスキー、アンソニー・バンダ、コペック、ベシアのスライダーが高く評価されている。TOP3に共通するのはマイナスレベルの縦変化があることだ。

 

 唯一それがないベシアは、速球との球速差を縮めることでStuff+を維持している。反対にジャック・フラハティ―のスライダーは速球との球速差は小さいが、変化量が平凡なため低い評価を受けている。

 

球種ミックスの多様性

 

 特に先発投手にとっては、1試合で約3回同じ打者と対戦する必要があるため、自分の球種ミックスに多様性を持たせることも重要となる。

 

 今オフFAとなった先発投手の中で全く違う道をたどった投手としてマックス・フリードとジャック・フラハティ―がいる。

 

 31歳のフリードはニューヨーク・ヤンキースと8年2億1800万ドルという大型契約を勝ち取った。

 

 一方で、29歳と2歳も若いフラハティ―は2024年に結果を残し、1億ドル超の大型契約を狙って2月まで待ったが、結果的にはデトロイト・タイガースとのオプトアウト付き2年3500万ドルの契約に落ち着いた。この2人の違いは何だろうか。

 

 

 1つは実績だろう。フリードは過去5年で2回サイ・ヤング賞投票を獲得、2022年は2位につけたのに対して、フラハティ―は2019年にサイ・ヤング賞4位につけたのみで、その後はオールスター出場歴もない。

 

 長期的な視点で見たとき信頼できるのはフリードだろう。しかし2024年の成績だけを見れば2人の間に大きな違いはないし、Stuff+を見てもほぼ同じである。

 

 ゆえに、2年3500万ドルという契約額はかなり少なく見受けられる。単純に契約額で比較すれば、2024年に30試合に先発し防御率4.84だったフランキー・モンタスがニューヨーク・メッツと結んだ2年3400万ドルと同じだ。

 

 メジャー30球団はなぜ、フラハティ―に高額契約を渡すことをためらったのだろうか。逆にフリードのどの部分に2億ドル超えの価値を見出したのだろうか。

 

 再契約を強く希望していたフラハティ―と先発投手不足にあえいでいたドジャースには双方にメリットがあったはずなのに、早期に方針転換を行いブレイク・スネルとの契約に転じた理由は何か。ここで見られるのが球種ミックスの多様性である。

 フラハティ―は平均93.3マイル(約150キロ)のフォーシームを基軸にナックルカーブ、スライダーの3球種が投球の95%を占める。

 

 少ない球種で勝負するブレイク・スネルやジェイコブ・デグロムのような圧倒的な球威があるかとなると、厳しいと言わざるを得ない。

 

 また、今後も球速が大きく上昇することは考えにくく、年齢を重ねるにしたがって下がっていく確率の方が高い。

 球威が平均程度であるという点で共通するフリードは、これらを球種の多様性でカバーしている。フリードの投球の3割はフォーシームが占めるが、残りの7割はカーブ、シンカー、チェンジアップ、スイーパー、カッターと文字通り7色の魔球である。

 

 また、チェンジアップを除いた全球種が平均以上のStuff+を示している。多様な球種を投げることは身体能力とあまり関係なく、年を重ねてもフリードのパフォーマンスは維持される可能性が高い。

 

 フラハティ―とフリードは球威が平均程度と言う点で共通点を持っている。表面上の成績を見れば同じような契約をもらってもおかしくはない。

 

 しかしフラハティ―は球威をカバーできる球種の多様性が無かったために、オフの契約探しでは苦労した。1年目終了後のオプトアウト権付きの契約のようだが、2025年シーズンに球威でも球種の多様性でもないスキルを持っていることを証明できれば、望む大型契約をゲットできるかもしれない。

 

 

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【了】