リクルートマネジメントソリューションズは2月5日、「職場における新入社員育成の実態調査」の結果を発表した。調査は2024年12月、営業系、企画・事務系、研究開発系などに従事する1,226名を対象にインターネットで行われた。
育成の機会の捉え方
新入社員育成を任された当初、育成の機会への捉え方は、「前向き」「やや前向き」(46.4%)が「後ろ向き」「やや後ろ向き」(20.4%)を上回った。
また、新入社員育成経験後、育成の機会への捉え方は、「前向き」「やや前向き」(51.7%)が、「後ろ向き」「やや後ろ向き」(15.2%)を上回った。「前向き・やや前向き」が新入社員育成を任された当初より5.3ポイントアップする結果となった。
育成経験後のポジティブな意識変化の要因
育成当初「後ろ向き」「やや後ろ向き」と回答したが、経験後に「前向き」「やや前向き」と回答した人の理由を調べると、「自分の学びや成長」「育てる醍醐味」「前向きな感情」「意外にやりやすい」などの理由が挙げられた。
「育成」という仕事は、育成担当者にとって心身的な負荷はかかるものの、それ以上にメリットをもたらすと感じる人が一定数いることが示唆される。育成を体験して、育成に対する印象が前向きになる人が一定数いることを鑑みると、実際にやってみることで、初期に感じる印象が変わる可能性も十分に考えられる。育成担当者は、育成に対してネガティブな印象があったとしても、育成経験がもたらす自分にとっての価値を探しながら新入社員と関わることで、役割への納得感を高めることができるだろう。企業は育成を「新人を育てるためのもの」という目的だけでなく、中堅リーダーの育成や、組織全体のチームワークや育成風土づくりの機会と捉え取り組むことで、組織全体にとっての価値を最大化することができる。
育成に関わるコミュニケーション頻度
育成に関わるコミュニケーション頻度は、「ほぼ毎日」(38.7%)の選択率が最も高く、「ほぼ毎日」「3日に1回」の人が57.5%であることを見ると、新入社員に多くの時間を割いて関わろうとする育成担当者が多いことが想定できる。
新入社員の成長への評価
担当した新入社員が期待どおりに成長したかの自己評価は、「とてもあてはまる」「ややあてはまる」(44.2%)が、「全くあてはまらない」「ややあてはまらない」(18.3%)を上回り、肯定回答が上回った。
新入社員の変化を感じるまでの期間
育成を開始してから、新入社員の変化を感じるようになった期間は、「3カ月程度」(33.9%)と「半年以上」(33.9%)が多い。
育成にかけるコミュニケーション量は必要だが、成長には時間もかかるという結果から、今日の新入社員育成の難しさが感じ取れる。育成への難しさが生じる背景として、「仕事習得難度の上昇」「育成の個別性(育成難度の上昇)」「新入社員の特徴(習得度合いの見えにくさ)」の3つが考えられる。多忙な中でも育成に一定の時間を割いている人が多い現状を考えると、今後育成の「質」をいかに上げていくかが鍵になるのかもしれない。
育成で苦労したこと
育成で苦労したことは「新入社員のメンタルやモチベーションの管理」(26.1%)、「新入社員との間のギャップ(考え・価値観・経験など)」(23.7%)、「新入社員への効果的な関わり方や育て方(育成スキル)」(16.2%)が上位となった。
結果から、育成スキル不足や時間不足に苦労する割合よりも、新入社員の心理的側面へのフォローや価値観などから生じるギャップに苦労する割合の方が多いことが分かる。支援策としては、ただ育て方のスキルを学ぶ場だけでなく、新入社員の特徴とその背景にある価値観を理解しながら、日々接する新入社員との意思疎通がより円滑に進む周囲からのサポートが、育成担当者の苦労を軽減する可能性がある。
職場での新入社員育成体制
職場での新入社員育成体制は、「育成担当者中心」「上司と育成担当者の連携」「上司と育成担当者に加え周囲の同僚とも連携」がそれぞれ30~40%程度となった。
新入社員の成長と職場での新入社員育成体制
職場での新入社員育成体制ごとに新入社員の成長度合いが変化するのか、その関係をクロス集計した。
結果は「上司と育成担当者に加え周囲の同僚とも連携していた人」では47.6%が、新入社員が期待通りに成長したかの問いに対して「とてもあてはまる」「ややあてはまる」を選択し、「上司と育成担当者で連携していた人」では44.1%、「育成担当者中心の人」では41.0%という結果であった。関係者が広がるほど新入社員が期待通り育っている傾向が見られる。また、育成担当者中心の育成体制だった場合、新入社員が期待通りに成長したかという問いに対し「全くあてはまらない」(7.2%)と回答している割合が最も高かった。
職場全体で育てる取り組みは、育成担当者の負荷軽減は大前提にあるものの、新入社員の成長度合いにも寄与していることが見受けられる。育成スピードを上げることは、職場の業務負荷軽減や育成担当者のモチベーション維持などに繋がる重要な観点となる。
職場全体が連携して育成することのメリット
職場全体が連携して育成することのメリットを質問したところ、組織・育成担当者・新入社員にまたがる幅広い回答が多数あった。
職場全体との連携をしていた育成担当者は「育成担当者のメリット」に留まらず、「組織」や「新入社員」の視点に立って、メリットを回答している人が多数見られた。新入社員の育成は、新入社員の成長だけではなく、組織の活性化に繋がり大きなリターンを得られる可能性があることが分かる。
職場ぐるみの育成を行う具体的なメリットとして、今回の回答から大きく以下3つが挙げられる。1つ目は、「組織のチームワークや成長」。育成担当者の回答を見ていくと、職場内の凝集性が高まったという回答が多く見られた。新入社員育成という「共通したテーマ」に皆で向き合うことで、対話の頻度や質が上がり、一致団結できるケースが考えられる。また、組織の成長につながったという意見も目立った。
2つ目は、「育成担当者の負担軽減や育成方法のアップデート」。誰もが忙しい中で、育成を担うことは心身ともに負荷を感じる人も多い。実際に、工数負荷軽減のみならず「安心感を得られた」というような心理的側面のメリットを回答している育成担当者も多く見られた。また、周囲の意見やアドバイスが、育成方法のアップデートに繋がったという回答も多数存在した。
3つ目は、「新入社員への更なるメリット」。まず、新入社員に多様な観点で育成を行うことで、視野・視界が狭く凝り固まってしまうリスクを避けられることへの回答が見られた。納得感を重要視する新入社員の傾向を鑑みると、選択肢から選べる状態にする効果は大きいと考える。また、新入社員が自分の育成対象を離れた後のメリットも回答が多かった。新入社員が自律して仕事を進めていく中で、分からないことや悩みも出てきた時に、新入社員が1人で抱え込んでしまうことを防ぐことができる。
職場全体が連携して育成する成功要因
「上司と育成担当者だけでなく、周囲の同僚にも関わってもらいながら取り組む形で育成することができた要因は何でしたか」という質問をしたところ、「職場の風土」「連携」「会社や上司の方針」「役割分担」を成功要因とする回答が目立った。
組織ぐるみで育成をしていく場合、メンバーと育成をする上での意識醸成や状況共有、役割認識が重要になってくることが見受けられる。いかに、適切なタイミングで必要なコミュニケーションを図れるかがキーになっていると考えられる。
組織ぐるみで育成をしていくことが風土として定着している組織もあれば、まだそこまで浸透していない組織もあるだろう。後者の場合は特に、会社や組織をまとめる経営層や上司などの方針や、育成する風土形成のための仕組みづくりなどがきっかけになることもある。
新入社員から学んだこと
新入社員から学んだことを質問してみたところ、想像以上に新入社員から気づかされたこと・学んだことの回答が多く集まった。回答を分類すると、「価値観の違い」「仕事の仕方」「初心」「自己認知」「デジタル・効率化」「育成のポイント」に関する回答が特に目立った。
育成担当者は新入社員との日々のコミュニケーションが、多様な価値観からの学びや仕事に向き合うスタンスの見直しに繋がったケースが多数あった。自分とは異なる価値観に触れることで、視野が広がったり、自己内省が深まり考えを深められたりしたのではないかと想定できる。
また、育成を通してマネジメントスキルが向上したと回答していた人も見られた。企業によっては、将来マネジメントポジションを期待するメンバーに育成担当を意図的に任せ、プレマネジメント経験とする場合もある。
さらに、新入社員から気づかされたこと・学んだことは職場全体に広がり、今までの仕事の慣習やマニュアルを変えたり、効率化したりすることに繋がったという回答も多かった。
この結果から、新入社員に「教える」だけではなく、新入社員から「学ぶ」という姿勢を持つことで、育成から得られる価値を向上させることができると考える。