秋田県は、デジタルリテラシーを学びながら、秋田県内の社会人とフラットな交流ができるプログラム「あきたデジタルアカデミー」を2024年9月に開講。2025年1月まで全5回の研修を実施した。
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(写真左より)NTT DXパートナー まちづくり事業部 ビジネスデザイナーの高橋慶充氏、秋田県 産業労働部 産業政策課 デジタルイノベーション戦略室 主査の中嶋結也氏、NTT東日本 秋田支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当の伊藤凌人氏
「あきたデジタルアカデミー」は、デジタル人材として就職することを希望している人向けの研修を行うとともに、デジタル人材を求めている企業との接触機会を増やすことを目的としたプログラム。大学生や転職を考えている社会人のほか、今の現場でよりスキルアップをしていきたいといった人を対象に実施された。
基本的なカリキュラムは、ITパスポート試験対策講座(eラーニング)を軸に、デザイン思考を用いた地域課題解決実践研修や地域企業との交流、自己分析などを実施。「ITパスポートは社会人にとって必須のスキルと言われつつありますので、まずはそれをeラーニングで学びつつ、デザイン思考を学んでいただくという内容になっています」と、秋田県 産業労働部 産業政策課 デジタルイノベーション戦略室 主査の中嶋結也氏は説明する。
そして、「『あきたデジタルアカデミー』の大きな目的のひとつはデジタルリテラシーの獲得です。これからデジタル社会が本格化する中で、最低限知っておきたい知識を学ぶとともに、こういった知識を持っていればより効果的にデジタルに関する知識を得ることができる。そんなところを目指しています」と続ける。
本プログラムのカリキュラムにおいて注目したいのが、ITやデジタル知識の習得だけでなく、“地域課題の解決”にも取り組んでいるところ。「秋田県においては、人口減少、少子高齢化が進展する中、どのように地域を運営していくかが課題」という中嶋氏。
秋田県では、県の総合計画として、「新秋田元気創造プラン」を推進しているが、この中でも重要視しているのが、「賃金水準の向上」、「カーボンニュートラルへの挑戦」、そして「デジタル化の推進」の3つのプロジェクトだ。特に「デジタル化の推進」については、「人口減少が進んでいく中、デジタル技術を有効に活用していかないと、地域を運営していくのが難しくなる」という前提において、「その際に、デジタルに関する基本的な知識が必須」と力を込める。
「デジタル化を推進していくためには、担い手であるデジタル人材が不可欠。『あきたデジタルアカデミー』は、そういったデジタル人材になりたいと思っている方を対象に、研修を実施するものです。そして、実際に企業の方々と交流することで、デジタル技術がどのように活用されているかを知識だけでなく実践という観点で具体的に学ぶことができる」と語る。
本プログラムは、NTT DXパートナーが県から受託して実施されている。これまで秋田県では、小中高生などを対象とした『Let's コネクト! デジタル未来ふれあいフェスタ』という、デジタル体験イベントを実施しており、その際にもNTT東日本が受託。「令和6年度の新規事業として『あきたデジタルアカデミー』をスタートするにあたり、NTT DXパートナーとNTT東日本から良いご提案をしていただいたので、この事業も委託することにしました」と、今回のパートナーシップの経緯を説明する。
「『Let's コネクト! デジタル未来ふれあいフェスタ』は、eスポーツやちょっとした講習を交えて、デジタルをもっと身近に感じていただくという取り組みだった」と振り返る、NTT東日本 秋田支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当の伊藤凌人氏。
「デジタル化の推進のためには、小中高生などに向けてデジタルを普及する取り組みに加え、今度は大学生や社会人を対象とした取り組みが必要になる」との考えから、今回の参画を決意。「大学生や社会人、リスキリングを求めている人たちにとっても、デジタルは難しいものという意識があり、高度な学習が必要という意識があるように思える」という伊藤氏は、「デジタル人材育成という少し固い言い回しになっていますが、そういった方々がデジタル技術を身近に感じる、そのきっかけづくりとして取り組ませていただいた」とその意図を明らかにする。
一方、「ただ講座を受けてもらうだけでなく、実践型のカリキュラムを加えることで、人材としてしっかり成長させていけるのが我々の強み」と語るのは、本プログラムのカリキュラム設計から運用、受講生の対応などを担当するNTT DXパートナー まちづくり事業部 ビジネスデザイナーの高橋慶充氏。
秋田県以外でも、地域課題の解決やデジタル人材の育成のプログラムを提供してきた実績とノウハウを持つだけに、「今回も、企業の方からお話を聞いて、自分たちの立案した解決策の妥当性をアジャイル的に検討していくのですが、実践の中で課題解決の策を練っていくことによって、自分自身のスキルを高めるだけでなく、実社会でも活かしやすくなる。そんな導線づくりに、我々の強みが打ち出せるのでは」と自信をのぞかせる。
「今回のプログラムでは、企業の方と交流することでより実践的に学べる」ところに大きな手応えを感じているという中嶋氏。「受講生をグループ分けしているのですが、グループ内で励まし合いながら最終日まで迎えることができたのは非常にすばらしいことだと思いますし、デジタルスキルだけでなく、“デザイン思考”という、課題解決においてベースとなる部分を学べるということもあって、受講者の方々の満足度は高いのではないか」と笑顔を見せる。
また、本プログラムには地元就職率を向上させたいという意図もある。「学生さんの中には、デジタルで活躍できる企業は首都圏にしかないと思っている方が少なくありません。でも実際には、県内にもデジタルの力を使って活躍できる場所はたくさんあります。今回参加したことで、そこに気づいてほしい」と中嶋氏は訴える。
「単純にスキルだけをお伝えすることもできますが、それだとモチベーションの維持が難しい」という伊藤氏は、「なぜ今の社会でDX、デジタル化が必要なのか、そして技術を身につけた先には何があるのか、そういったことを前段としてお話させていただいています」と今後に向けての継続性を重視。「その意識があれば、受講が終わった後、秋田県内において、より活躍できる人材として寄与できるのではないか」と展望する。
さらに、「デジタルやDXに触れていただくきっかけとしてはすごく良い場が作れたのではないか」という伊藤氏。「ITパスポートではなく、もっと上級の資格を望む方」への対策を今後の課題として挙げ、「今回のプログラムでは、顧客を仮想で作り、その課題を解決するために、どんなアイデアや技術、ソリューションがあるかを調べて、それをまとめて発表するという内容だったのですが、ただ調べて終わりではなく、本当にそれが実現できるのかまで突き詰めて、実証するようなところまでを求めている方へのアプローチ」も今後検討していく必要があると続ける。
一方、実際に講習を見ていく中で、「想像以上に、リスキリングに関心の高い人が多いことがわかった」という高橋氏は、「最初は就活を想定していたのですが、徐々にキャリア形成にシフトしながら、自己分析手法なども講座内でお伝えした」と振り返る。「リスキリングに関心が高いのであれば、DXなど概念の話ではなく、生成AIなどの具体的なトレンドを踏まえて、これが実社会でどのように活かせるのかを伝える必要性を感じました」と、今後への課題を示した。
「皆さんがデジタルを身近に感じて、それを活用して、便利になった社会を実感する。そこに繋げるためにも、これからも事業を継続していくことで、デジタルスキルを持った人材を育成し、社会で活躍していただけることを期待したい」と、来年度以降も継続していきたいと意向を示す中嶋氏。
それに対して、「まちづくりの礎は人」という高橋氏は、「より活躍できる人材が育てば、地域もさらに盛り上がり、生き生きしていくと思っていますので、今後もデジタル人材育成にフォーカスしながら、お手伝いしていきたい」と意欲を見せる。そして、NTT DXパートナーが運営するオンラインコミュニティ「YouSpark」にも言及。「YouSpark」は、地域活性化を目指し、地域課題の解決に意欲のある人材が集まるコミュニティで、「受講生はこのプログラムを修了した後も、YouSparkなどに参加して、モチベーションや熱量を絶やさないでほしい」と切望する。
「デジタルやDX、生成AIといったものは決して未知なるものではなく、すごく身近で、より自分たちの生活や社会課題に対して有意義なもの」という伊藤氏は最後に、「すごく難しそうで勉強できそうにないとか、できる人がやれば良いなどと思わず、我々も一緒に伴走していきますので、積極的に飛び込んできてほしい」と、デジタル分野に興味のある方に向けて、次回以降の参加を呼びかけた。