ドジャース、2025年は”弱点克服”のシーズンに!? MLB投手が苦しむ大きな…

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 着々と2025シーズンへ向けた準備が進められているメジャーリーグ。2024シーズンを振り返ると、主力投手の故障離脱が目立ち、ワールドシリーズを制したロサンゼルス・ドジャースも例外ではなかった。そんな中、MLB機構は投手の故障に関する調査を開始し、昨年12月に報告書を公開した。今回はその報告書を基に、MLBの故障問題を見ていく。(文:Eli)

 

今シーズンのメジャーリーグは

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 MLB機構は2023年の秋ごろから投手の故障に関する調査を開始していた。そして昨年12月17日、62ページにわたる報告書が公開された。

 

 丸1年をかけて行われたこの調査では元選手、整形外科医、トレイナー、球団職員、バイオメカニスト、代理人、アマチュア野球関係者を含んだ200人以上の関係者にヒアリングを行い、大きく分けて1. 何が増え続ける投手の故障の原因なのか、2. 対策の考案・更なる研究対象の2つを特定する作業が行われた。

 

 本コラムではその報告書をかいつまんでいく形で、MLBの故障問題を見ていきたい。(グラフは全て12月17日MLBコミッショナーオフィス公表の”MLB Report on Pitcher Injuries”より引用)

 

 

“怪我人増加“の背景は

 この調査が行われた背景には投手の故障、特に側副靱帯再建術(=トミー・ジョン手術)を要するほどの重大な故障件数が近年急増していることが挙げられる。

 

 報告書によると2010年にメジャー・マイナー合わせて100件ほどだった内側側副靭帯(=UCL)手術件数は、2020年代に入ると約3倍に増加している。

 

 近年の例では、2023年サイヤング賞投票4位のスペンサー・ストライダー、2022年サイヤング賞4位の大谷翔平、2020年サイヤング賞受賞のシェーン・ビーバーなどがUCLを損傷・断裂しTJ手術を受けている。

 

 このような故障・手術の増加はスポーツとしての野球の危険性を上げているだけでなく、スーパースター級投手の長期離脱によりいわゆる”エース対決”が減少し野球のエンターテイメント性を下げているとの指摘もある。

 

“投手の進化”が故障リスク増加に…?

故障増加の原因はStuffの追求

 レポートでは故障増加へ寄与する様々な要因が挙げられているが、最も大きく、確かであるとされているのが投手によるStuff(=球威)、その源泉となる球速、変化量、スピン量の追求だ。

 

 2008年にピッチトラッキングが導入されて以降、球速は上昇し続けている。

 

 フォーシームの球速が上昇し続けていることは有名な話だが、スライダー、カーブ、チェンジアップなどの変化球でも球速の上昇がみられる。

 

 ジェイコブ・デグロムの90マイル(約144キロ)中盤に達するスライダーやサンディ・アルカンタラの高速チェンジアップの登場からも速球・変化球の両方で球速追求が進んでいることが分かる。

 

 レポートではあるバイオメカニクス専門家のコメントが、以下のように掲載されている。

 「腕を早く振れば、価値は上がっていく。誰もがスカウトに気づいてもらうためにそれを追及している。」

 

 球速の追求過程においてはMLBで流行する危ない習慣が指摘されている。それがMax-Effort(全力)での投球だ。

 

 多くの先発投手が200イニングを当たり前に投げていた10~20年前では、投手の技術として通常の場面では力を抜いて投球し、ピンチや強打者との対決では力を入れて投げるというものがあった。

 

 しかし最近の投手は全ての場面を全力で投げる。つまり現代の投手は単に球速が上がっているだけでなく、身体の限界に近いレベルで投球しているのである。

 

 

 

オフシーズンの過ごし方

 近年は球種の改良や、新球種の追加のためにオフシーズンにトレーニング施設に通ったり、球団の施設で投球プログラムをこなしたりする選手が増えている。

 

 レポートでは近年流行するこの習慣が、故障の増加に寄与している可能性があると指摘する。その根拠としてスプリングトレーニング~開幕日とそれ以降の故障者リスト(=IL)登録件数のトレンドの違いを挙げている。

 

 2020年の変則シーズン以降シーズン中のIL登録件数は減っている一方で、春先の登録件数は急増している。オフシーズンにしっかり休養せずにトレーニングをすることが、この春先の故障増加につながっているとしている。

 

過保護なマイナーリーグ

 マイナーリーグとメジャーリーグの投球環境の違いも一因として挙がっている。メジャーレベルでは厳しい環境が待っているわけだが、マイナーレベルでその準備が十分にされていないという。

 

 

 マイナーレベルには高校を出たばかりの若手からベテランまで幅広く在籍しているため、メジャーと同じ投球環境にすることはできない。しかし、グラフを見ると主に先発においてメジャーとマイナーの乖離が拡大していることが分かる。

 

 若い才能を潰さないためにもイニング数の管理は重要だ。「肘・肩は消耗品」と言われる時代において、マイナー時代にイニング数を消費するのはもったいない。

 

 しかし、イニング管理を重くするあまり、若手がメジャーの中4,5日、年30先発、150イニング以上という厳しい環境に適応できないのでは本末転倒となる。

 

 この準備不足の状態でいきなりメジャーに放り込まれることが故障につながっているのではないかとされている。

 

 

考えられる解決策

 レポートでは故障現象のための対策もいくつか提案している。その一つがルール改正だ。今の環境では投手・チーム両方が球速・スピン量・変化量を求めることが活躍するうえで最善策とされており、これを変える必要があるとしている。

 

 例えば、先発投手が長いイニング(5,6回以上)を投げることを強制、または長いイニングを投げればそのチームに利益があるような制度の導入や、チームが長いイニングを投げられる投手を育てるようにするためのロースター縮小、投手登録人数制限の再改正などを提案している。

 

 現MLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏はピッチクロック、ベース拡大、ロボット審判など積極的な改革姿勢を示している。

 

 既に先発投手の6回ルールやゴールデン打席などが検討されているとの報道が出ている。アメリカ野球界の頂点に存在するMLBが「先発投手は長いイニングを投げるものである」というメッセージを出し、それに対応するルール改正を行えば故障はある程度減少していくだろう。

 

 

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【了】