ドラ5山縣秀、リアル殿間の期待感。「嫌らしい選手」としてのアピールを【…

自主トレ「誰が誰なのか」問題

 新人合同自主トレが始まって、(建前上、球団の公式練習ではないものの)プロ野球のカレンダーが新シーズンへ向け、再び動き出した感じがしている。やっぱり契約更改や移籍、テレビ出演やトークショーのニュースばかりじゃ「野球感」が足りない。選手はやっぱりスーツ姿よりトレーニング着のほうが好きだ。8日、GAORAが新人合同自主トレ初日の生中継を組んでくれて、久々に「野球感」を補充した。今年は基本、週末しか鎌スタのスタンドを開放しない(外野の防球ネット越しに立ち見するしかない)と聞いて、ただでさえ寒いし、二の足を踏んでいたのだ。まぁ、「ファイターズMIRU」(球団公式動画チャンネル)という手もあるが、こういうときはGAORAが頼りになる。実況・土井悠平さん、解説・鶴岡慎也さんと実戦さながらのコンビに加え、アマ取材に定評のあるスポーツライター西尾典文さんを揃えるという最強の座組みだ。

 

 そもそも自主トレの初日(しかも朝9時半から)は動きが少ない。まぁ、メニューはストレッチから入るし、シンプルな反復動作が多く、映していても情報量がないのだ。例えばドラ1の柴田獅子が半袖で張り切っていたのだが、「半袖で頑張ってますねー」でしばらく話をもたせるしかない。寒さ(この日は厳寒のため、球場でなく室内練習場で自主トレが行われた)、初日の緊張、初日のイントロダクション的なメニューと「見せ場」になるものが少ない上、映してるのが「トレーニング着の新人」なので、誰が誰なのか、背番号もないし、顔で見分けがつきにくい。だから、実況席の座組みはめちゃめちゃ重要なのだ。その点、西尾典文さんを呼んだのはナイスアイデアだった。新人を語るならアマ野球を見てきた人が最強なのだ。

 

 しかし、自主トレの「誰が誰なのか、背番号もないし、顔で見分けがつきにくい」感は相当なものだ。ユニフォームじゃなくて、私服(トレーニング着)なのだから違いが出そうなものだが、みんな同じような黒っぽいウエアだ。上が黒っぽいロンT、下は黒っぽいタイツに黒っぽい短パン。GAORA中継の後半、田宮裕涼や矢澤宏太の自主トレ姿も映ったが、同じように黒っぽかった上、サングラスを着用してたりするので、「誰が誰なのか」は同様だった。

 

 つまり、室内練習場はなかが覗けないのでGAORA中継がありがたかったわけだが、球場内で行われていても外野の防球ネット越しでは自主トレの「誰が誰なのか」問題は深刻(?)だったろう。柴田獅子のように半袖着てアクセントを付けてくれたら助かるが、今年の新人はみんな長身のピッチャーなのだ。遠目には「黒っぽいスラっとした人が大勢ストレッチやってる」ことになったろう。

ガタシュウに求められる役割

 で、逆に目立ったのが山縣秀(早大、ドラフト5位)だった。ドラフト組唯一の野手、唯一の小柄(176センチ)。高卒ルーキーの柴田獅子や藤田琉生と違って、風貌が大人だ。ピアノが得意で「リアル殿馬」と言われたりしているが、見た感じもキャラが立っている。存在感がある。他に175センチくらいの野手が何人もいればともかく、今年の新人合同自主トレではダントツに目立って得している。GAORA中継ではピッチャー組がウエイトに行ってしまい、たった一人マシンで打ち込んでる時間帯があった。カメラを独占だ。実況席はずーっと山縣の話をする。大学時代は非力なイメージがあったが、カツン、カツンとマシンの球打ってる姿を見てると軸が安定していて、3割確実じゃないかと思えてくる。通称「ガタシュウ」。華麗な守備で評判を取った「六大学の名手」だが、4年生時は打つ方でも3割残している。

 

 まぁ、「リアル殿馬」じゃないけれど、一発が魅力の山田太郎、岩鬼正美ではなく、野球を知ってる「嫌らしい選手」になっていくべきなのだろう。バントやエンドラン等の小技が使えて、右打ちで野手の頭を越したり、進塁打になったりするバッティングのイメージか。野球を知ってる「嫌らしい選手」というのは、要するに状況判断ができる選手ということだ。去年、明治神宮大会で見た印象もそんな感じだった。捕手と並んで競争の激しい内野争いの一角にガタシュウが食い込むかどうか。そんなこと百も承知でプロに飛び込んできたのだろうから、今後のアピールが楽しみだ。

 

 面白いことに新人同期の集合写真を見ると、山縣秀が前列真ん中にいる。まぁ、190センチ台が揃ってるなかで176センチが後列になると、背伸びしても写らないという問題もあるのだろう。何となく「中心人物」になっている。大学出で、頭の回転も早い。鶴岡慎也さんからは「このなかで開幕1軍の可能性があるとしたら山縣」のお言葉も頂戴した。大型のパワーピッチャーが揃うなか「小柄で非力」が目立つこともある、というのが、新人合同自主トレのファーストインプレッションだ。球春が待ち遠しい。