――ここでMPCのお三方が勢ぞろいされました。上出さんの文章では、仲野さんと阿部ちゃんの天然エピソードが見事に描写されていますが、おふたりとしては盛られてる印象ですか?
仲野:盛られまくってますよ!
上出:盛ってないですね。「陰毛役者」の部分は事実です。
仲野:何でそれを言うかな! でも、一番盛られてるのって、伊賀さん(企画・編集協力のスタイリスト・伊賀大介氏)かもしれない(笑)
――江戸っ子丸出しのキャラクターということで、ルビで遊びまくってますね(笑)
仲野:今後もいろんな登場人物が出てくるんですよ。今回は阿部、上出、仲野ですが、続編には伊賀さんのほかに石井さんというカメラマンさんが入ってきますから。
上出:みんなキャラクターが濃いんですよ。自分にキャラクターがないって劣等感を覚えることもありますから。
仲野:今回は阿部ちゃんが強すぎて、めっちゃ劣等感ある(笑)
――先ほども言いましたが、読んでると阿部ちゃんが大好きになりますよね。上出さんは、書いているうちに阿部ちゃんを世に売り出したいみたいな気持ちもあったのですか?
上出:元々は太賀くんを前面に出した本を作ろうと思ってたんですよ。そのほうが売れるから。だけどフタを開けたらこの人(阿部氏)しか出てこなくて、もう“阿部ログ”になってる(笑)。どうにか太賀くんを出そうと思っても、自分を客観視して冷静に淡々と前を進んでいくので、そこまでのことは起こらない。一方で、阿部ちゃんのように直情的でノンブレーキだと1時間に1回は面白いことをやってくれるから。
阿部:でもこうやって本に書かれたり、Audibleで流れたりして自分のことを初めて客観視したんですけど、いろいろ学びますね。
仲野:それは良くないね。反省したら次面白くなくなっちゃうから、本読んだり、Audible聞いたりするのは禁止です(笑)
――意識しちゃって自分を抑えてしまうのは良くないですね。
阿部:でも、ニューヨークで3人で遊んで、お酒を飲まないでどこまでもテンション爆上がりした時に自分でもすごいなって思いました。
仲野:我々はめちゃくちゃ酔っ払ってるのに、同じテンションだったからすごいよね。
上出:たぶん、脳から興奮物質がずっと出てたんだと思う。
阿部:だから疲れやすいんですね。ある一瞬でドカーン!ってなれるんですけど。
上出:それが最高なんですよ。
忘れられない「アップルモモ」
――上出さんの著書はいつも食リポが抜群なのですが、今回もまた美味しさの想像をかき立てられました。あれは後で思い出しながら書くのですか?
上出:その日の夜にメモってますが、録音を聴き返すと記憶と結びつきやすいんです。なので、それを思い出しながら書いてますね。
――この旅で印象深いのは、何と言っても「アップルモモ」ですよね。
上出:そもそもネパールのご飯が全部うまかったんですよ。アップルモモはその中でも突出した瞬間だったんで、あれは興奮したね。
仲野:いや本当に美味しかったですね! 作ってくれた女性のパン職人の方との出会いのシチュエーションも良かったので、忘れられない味です。
阿部:標高4,000m近くの岩肌のそばにあるベーカリーという普通じゃない状況で、まず美味しさが増すんですよね。
仲野:外から唯一聞こえる音が、経文を唱えるおじさんの声で…
阿部:厨房ではコンコンコンってりんごを切る音がして…不思議な世界だよね。旅をしている時はそれが当たり前のように見る景色ではあるんですけど、それをこうやってまとめて見直すと、「これってすごい光景なんだな」と気づけるんです。
上出:歩き旅なんで、突然景色が変わるってことはないんです。変化が緩やかで気づかないんですけど、後で写真とかを見ると「とんでもないとこにいたな!」と思って、それも面白いです。
――途中からガイド役を務めてくれたランタン谷の少年・パサンくんとの出会いも大きかったですよね。
仲野:阿部ちゃん、パサンに本持っていくんでしょ?
阿部:はい。旅でお世話になった人たちに完成した本を渡すのは使命だと思ってるので。みんなどういうふうに見てくれるのか、楽しみです。
上出:これは喜んでくれるんじゃないかな。
阿部:ランタン谷がここまで収まっている本は初めてだと思います。『地球の歩き方』でも、半ページに「世界一美しい谷」と書いてあるだけなので。だからある意味、急に来た外国人が三宿(東京・世田谷区)の本を作ったようなもんなんです。
――パサンくんが案内してくれた、道を外れた古い村で出会ったおじいさんも、大きな出会いですよね。
阿部:あの人にも本を渡したいですね。僕がランタン谷を歩いたのは4回目なんですけど、パサンとの出会いがあって、上出さんがその歴史についておじいさんにインタビューしてくれたので、今回初めて知ったことがたくさんあったんです。あそこまで情報を掘ることはできなかったので、すごく勉強になりました。
上出:奇跡的だよね。普通に歩いてたらたどり着けない場所でしたから。でも、録音を聴き直してたら、パサンとの出会いもその2~3軒前からつながってたんですよ。彼の名前は実は出会う前から出ていて、僕らは彼らの血筋をたどっていたんです。
阿部:一つの集落に5つか6つぐらい宿があるので、どこに泊まるかを自分たちでセレクトするんですよ。そこに泊まったら、「次の宿はうちの弟がやってるところに泊まってね」と勧めてくれる。だから、最初に選んだ宿が違う場所だったら、パサンと会ってない可能性が高いんです。それって、僕が上出さんと知り合ってなかったら太賀くんとニューヨークで遊んでないし、この旅もなかったということと一緒なんですよね。旅は人生の縮図みたいに感じます。