肺がんとは、気管支や肺胞の細胞が何らかの原因によってがん化したもので、近年、患者数が増加しているがんの一つです。肺がんとは具体的にはどのような病気で、どういった症状が出るのでしょうか。肺がんの種類や予防法とともに、解説します。

■肺の機能と肺がんについて

肺がんについて知る前に、まずは肺の働きや構造について確認してみましょう。肺は呼吸をするための器官で、体の中に酸素を取り入れ、いらなくなった二酸化炭素を外に出す働きをしています。また、肺は左右の胸に1つずつあり、右肺(みぎはい)は3つ、左肺(ひだりはい)は2つに分かれています。

口から入った空気は、左右の気管支に分かれた後でさらに枝分かれします。そして最後には、酸素と二酸化炭素のガス交換を行う「肺胞」にたどり着きます。

肺は、胸壁(胸部を作る壁)で囲まれた胸腔と呼ばれる空間の中にあり、胸膜という二重の薄い膜に包まれています。内側の胸膜は肺の表面を包み、外側の胸膜は胸壁と接し、その間にわずかな胸水が存在しています。

肺がんは、肺の気管や気管支、肺胞の一部の細胞が何らかの原因によってがん化したものです。進行すると、がん細胞は周りの組織を破壊しながら増殖し、血液やリンパの流れにのって転移することもあります。転移しやすいのは、反対側の肺や肺の他の部位、胸膜、リンパ節、骨、脳、肝臓、副腎などです。

■肺がんの種類は4種類

採取したがんの細胞や組織を顕微鏡で見てみると、がん細胞やその集団の形には違いがあり、いくつかの種類(組織型)に分けることができます。組織型によって、性質やがんのできる部位に違いがあります。肺がんの組織型は、大きく「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」に分けられ、非小細胞肺がんはさらに「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」に分けられます。

それぞれの肺がんについて、多く発生する場所や特徴をまとめると、以下のようになります。

<非小細胞肺がん>

・腺がん…唾液の出る唾液腺や、胃液の出る胃腺などの腺組織と似た形をしているがん。肺がんの中で最も多く、肺がん全体の約60%を占める。症状が出にくく、女性やたばこを吸わない人にも多くみられる。肺野部(気管支の末梢から肺胞のある肺の奥の部分)に多く発生する。

・扁平上皮がん…皮膚や粘膜など、体の大部分を覆う組織である扁平上皮によく似た形をしているがん。咳や血痰などの症状が現れやすく、喫煙との関連が大きい。肺がん全体の25〜30%を占める。肺門部(肺の入り口の太い気管支)に多いが、肺野部の発生頻度も高くなってきている。

・大細胞がん…比較的珍しいタイプのがんで、腺がんや扁平上皮がんのような形状をなさない細胞の大きながん。増殖が速いという特徴がある。肺がん全体の数%を占める程度。肺野部に多く発生する。

<小細胞肺がん>

・小細胞がん…扁平上皮や腺など、体の正常な組織に似たところがないがんのうち、細胞の小さながん。増殖が速く転移しやすい特徴があり、喫煙との関連が大きい。肺がん全体の10〜15%を占める。肺門部・肺野部ともに多く発生する。

■肺がんの症状とは

肺がんは、早期には症状がみられないことが多く、がんが進行して初めて症状が出ることもあります。国立がん研究センターの「がん情報サービス」によると、肺がんの症状には以下のようなものが挙げられています。

・咳や痰
・痰に血が混じる
・発熱
・息苦しさ
・動悸
・胸痛

しかし、いずれも肺炎や気管支炎など呼吸器の病気にもみられる症状であるため、「この症状が出れば必ず肺がん」という症状はありません。また、症状がないまま肺がんが進行し、定期健診や他の病気の検査を受ける中で偶然見つかるというケースもあります。

ただし、最も多い症状は咳と痰です。原因のわからない咳や痰が2週間以上続く、血痰が出る、発熱が5日以上続くという場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

■肺がんの予防法

肺がんを予防するために最も大切なのは、たばこを吸わないことです。また、たばこを吸わない人は、周囲に流れるたばこの煙を吸う「受動喫煙」を避けることが大切です。

喫煙者は非喫煙者と比べ、男性は4.4倍、女性は2.8倍も肺がんになりやすいと言われています。また、喫煙を始めた年齢が若いほど、そして喫煙量が多いほど肺がんになるリスクが高まります。受動喫煙も、肺がんになる危険性を2〜3割程度高めてしまいます。ただし、喫煙しない人や受動喫煙の影響を受けていない人でも、肺がんを発生することはあります。

それ以外には、アスベストなどの有害物質に長期間さらされること、肺結核、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎なども、肺がんの発生リスクを高めるとされています。

アスベストに関しては、吸引してから肺がんになるまで15〜40年の潜伏期間があります。アスベストを扱う仕事をしていた、家の建材にアスベストが含まれていたなど、生活環境にアスベストが存在していた場合は、1年に一度は胸部レントゲン撮影等による健康診断を受けましょう。

アスベストを吸入していた経験と喫煙が重なると、肺がんを発生するリスクは高まりますので、予防のためにはやはり禁煙が重要です。

その他、節度のある飲酒やバランスの良い食事、運動、適正な体形の維持、感染予防なども肺がんの予防に効果的なことがわかっています。

最後に肺がんの予防方法や早期発見に仕方に関して、呼吸器内科の専門医に聞いてみました。

肺がんは罹患数も2番目に多いがんで、死亡数も1番多いがんです。肺がんの症状は咳や痰など他の呼吸器疾患と比べて典型的な症状はありません。また症状に乏しいこともあり、痛みや血痰などの症状が出現すると進行していることも多くあり、発見時にすでに治すことができなくなる可能性もあります。肺がん検診をうけることで早期に発見して適切な治療をおこなうことでがんによる死亡率を低下させることが期待できますし、また早期に発見することで身体への負担が少ない治療をうけることも可能になります。そのためには肺がん検診は年に1回は必ず定期的に受診するように心掛けて下さい。また典型的な症状がないからこそ、咳や痰などの症状が2週間以上持続するときは医療機関を受診するようにしましょう。

また肺がんに関しては予防も大切です。がんの予防として節酒、食生活の見直し、身体を動かす、適正体重の維持、感染予防も重要ですが、肺がん予防に関しては何よりも禁煙が大切で大きく確実な1歩です。現在吸っている方も今から禁煙することでがんのリスクを低下させることが可能ですし、禁煙によって健康に長生きできる可能性も高まります。周囲への受動喫煙の影響もあり、自分のため、そして自分の大切な方々のために、禁煙を心掛けましょう。

竹下 正文(たけした まさふみ)先生

一宮西病院 呼吸器内科/副院長、呼吸器内科部長
資格:日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医