“創造力の交差点”をコンセプトにリノベーションされた資生堂のグローバル本社「GLOBAL VISION CENTER」。その12階にあるのがカフェテリア「ZEBRA」です。日本が誇るビューティーカンパニーが作った社員食堂に潜入してみました!

  • 資生堂 本社オフィスの社員食堂を担当している近藤真理子さん

“創造力の交差点”を目指したGLOBAL VISION CENTER

東京都港区東新橋の汐留タワーにある資生堂 本社オフィス、通称「GLOBAL VISION CENTER」。

資生堂は、“社員が価値創造の源泉である”という「PEOPLE FIRST」の考えのもと、社員が最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、2016年より全社的なワークプレイス改革を推進。地方拠点や研究開発拠点、そして東京都港区浜松町にある資生堂ジャパンの本社ビル「SJ STATION」のリノベーションを進めてきました。

その集大成が、GLOBAL VISION CENTERです。資生堂の企業ミッションである「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD (美の力でよりよい世界を)」を実現するために、オフィスと連動して働き方も変え、資生堂らしい働き方ができるワークプレイスを目指しています。

コンセプトは“創造力の交差点”。このコンセプトを現実のものとすべく、資生堂は仕事の内容や目的に合わせて働く場所や時間を自由に選択できるという働き方、「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」を導入しています。

そして“創造力の交差点”のコミュニケーションの一翼を担っているのが、社員の食堂であるカフェテリア「ZEBRA」です。

  • GLOBAL VISION CENTERのカフェテリア「ZEBRA」

社員食堂の設計・運用を担当している資生堂 ファシリティマネジメント部 オフィスコンシェルジェグループの近藤真理子さんに、GLOBAL VISION CENTERの特徴、そしてカフェテリア「ZEBRA」の役割を伺いました。

知識創造を誘発するためのフロア構築

GLOBAL VISION CENTERは、2層を吹き抜けにして内階段で繋ぎワンフロアとしています。ヒエラルキーのない風土を目指し、オフィス内は役員の個室も含めてガラス張り。フラットなコミュニケーションを実現しています。

GLOBAL VISION CENTERは、内階段で繋がった2層ごとの吹き抜け構造でひとつの空間となっています。とくにブランドフロアは「SHISEIDO」や「ELIXIR」/「ANESSA」「Clé de Peau Beauté」といったブランドの世界観を反映してデザインされており、この構造を活かしてブランド部門とコーポレート部門を交互に配置することで、全社員がブランドの世界観を感じながらブランドビジネスに携わる意識を醸成しています。

  • GLOBAL VISION CENTERのコーポレートフロア

  • 赤と黒を基調にした「SHISEIDO」ブランドフロア

11階の新価値創造フロア、12~13階のサービスステーションとカフェテリアも特徴的です。

新価値創造フロアは、個の感性を刺激することやリフレッシュ、コミュニケーション活性化を目的としており、緩やかな空間で緩やかに人と繋がれる、すぐにアクセスできるオフサイトとして構築されました。森にいるような安らぎを感じられるエリア、ブックディレクターの幅允孝さんが厳選した本を閲覧できるライブラリーコーナーなど、さまざまなワークプレイスを用意。

  • 森をイメージした新価値創造フロア

  • 10月末にオープンしたばかりのライブラリーコーナーには幅允孝さんが選んださまざまなジャンルの本が

社員サービスを行うサービスステーションとカフェテリアは、オフィスの真ん中となる12~13階に置かれています。サービスステーションにはオフィス全体のサポートを行うオフィスコンシェルジェが常駐しているほか、ウェルネスステーションや社内ブランドショップも設置されています。

白と黒が交差するデザインのカフェテリア「ZEBRA」

12階のカフェテリアのリノベーションを担当したのが、資生堂 ファシリティマネジメント部 オフィスコンシェルジェグループの近藤真理子さんです。

  • 資生堂 ファシリティマネジメント部 オフィスコンシェルジェグループ 近藤真理子 さん

カフェテリアの名称は「ZEBRA」。黒と白を基調としながらピンクや植物を差し込んだインテリアになっており、海外の空港のラウンジをイメージしているそうです。フロアのさまざまな場所で“シマウマ”に出会えます。

  • カフェテリア「ZEBRA」の入り口。あたたかな光が差し込む開放的な空間です

  • フロアの全体像。カウンターやテーブルなどバリエーションも豊かです

「当時、いろいろな部門の代表がリノベーションについて話し合うというプロジェクトチームが組まれました。『白黒のインテリア』と『創造力の交差点』というコンセプトをもとに話し合った結果、挙がったのが“zebra crossing”というワードです。ZEBRAという名称はここから来ていて、『さまざまな人と人とが“食”を通じてコミュニケーションを取ることで、イノベーションが生まれる場所となってほしい』という想いを込めています」(近藤さん)

  • フロアのいろいろな場所に潜んでいるシマウマ

このカフェテリアもABWに則りワークプレイスとして設計されているので、各席は電源を完備。仕事の打ち合わせだけでなく、ランチミーティングに利用したり、懇親会をしたりすることも可能です。

メニューにも工夫が施されています。主なカテゴリは「ヘルス&ビューティープレート」「パスタ」「ヌードル」「カレー」に分かれており、曜日によっては「ピザ」が加わります。カフェテリア以外でも食べられるように、お弁当も用意されています。

  • 入り口付近に今日のメニューがまとめて展示されています

焼きたてのパンを楽しめるカフェ&ベーカリーや、世界の昼ご飯を好きな量だけ食べられるデリ、栄養のためにちょっとした一品を加えられる小鉢も楽しめます。季節に応じたお菓子やデザートも豊富です。オーガニックのシロップを使って飲み物に自由に風味付けが楽しめます。訪問した際は「パッション」をキーワードにした「パッションフルーツジュース」が用意されていました。

  • メインメニューだけでなくデリやベーカリー、小鉢なども用意されており飽きることはなさそうです

「曜日に応じてちょっとしたイベントも行っています。火曜日は“プラス1DAY”として数量限定で小鉢を1つプレゼント、水曜日の“ピザ友DAY”では4人以上のグループ先着10組にピザ1枚をプレゼントしています。金曜日の16~20時は“ZEBRA BAR” でちょい飲みも楽しめます」(近藤さん)

  • 曜日ごとにイベントも開催。ピザ友をきっかけに交流が生まれることもあるとか

フロア中央には「CROSSING KITCHEN」も完備。グリルプレートやオーブン、製氷機、冷蔵庫・冷凍庫、セラーなど本格的な調理器具を自由に使えます。上司・部下という関係にとらわれず一緒に料理を楽しむことでコミュニケーションを図ることもできるでしょう。

  • フロア中央のキッチン「CROSSING KITCHEN」。各部門が紹介した情報も展示されています

  • 「CROSSING KITCHEN」では業務用の調理器具を使って料理を作ることができます

精算は無人レジにトレーごと置くだけの手間いらず。食器の裏にICタグが貼付されており、一瞬で合計金額が計算されます。飲食代金はキャッシュレス。プリペイドカード機能も備わっているIDカードの他、交通系電子マネーを利用することが可能です。

  • 無人レジにトレーごと置くだけで精算されます。IDカードが持つプリペイド機能へのチャージ&返金用端末も用意

  • フロアの一角には資生堂パーラーの社内店舗があります。贈答品やお土産品として重宝されているそうです

今回は特別にヘルス&ビューティープレート「白身魚とシャキシャキ野菜の南蛮酢」をいただくことができました。

  • ヘルス&ビューティープレート「白身魚とシャキシャキ野菜の南蛮酢」

新鮮なまま調理された野菜がたっぷり添えられた白身魚は実がホロホロで、酸っぱすぎたり塩辛かったりしないのに旨味が凝縮されていて、思わずご飯が進みます。具だくさんのおみそ汁もじんわりと染みわたります。ギルトフリーデザートはブルーベリーを混ぜたヨーグルト……かと思いきや、こちらは紫芋のムース。やさしい甘みがたまりません。

こんなインナービューティーについても考えられた昼食が楽しめるのは、新たな美の価値を創造するビューティーカンパニーである資生堂ならではと言えそうです。

  • 1週間のメニューはデジタルサイネージに表示されます

会社員にとってランチタイムはハイライト

1991年に資生堂に入社した近藤さん。最初は美容食品部門への配属されましたが、その後、社内の刊行物を担当する部門、ビューティークリエーションセンターというヘアメイクアップアーティストたちも所属する部門を経験。プロデュースやマネジメントを担当しました。そして2019年、近藤さんは、現職であるファシリティマネジメント部に異動となります。

「社食の運営ときいて、最初はびっくりしたんですよ。でも『従来の社食のイメージを変えたい、これまでのキャリアを活かしてチャレンジしてほしい』と背中を押されたので、前向きにとらえました」と、近藤さんは振り返ります。

こうして任された仕事は、社員食堂に関する業務。しかし、これは近藤さんがこれまで経験したことのない仕事です。近藤さんはネットで社員食堂が得意そうな会社を探して話を聞きに行き、試行錯誤しながら作っていくことになりました。

「カフェテリアをつくっていくなかで印象に残っているのが、『担当者のパッションで社食は変わっていくから、近藤さんがやりたいことを突き詰めた方がいい』というアドバイスです。私は資生堂という会社が大好きなので、社員が喜ぶことをしたい。例えば、自分の仕事が理解され、労われ、褒められるような、そういう場所にしたいと思いました」(近藤さん)

  • カフェテリアの入り口には近藤さんが直筆でイラストとメッセージを書いています

こういった経験を経て、近藤さんは「GLOBAL VISION CENTER」のカフェテリアを担当することになります。そして社員を元気にするためのさまざまな取り組みや企画を立案し、“社食の顔”として社内でも広く知られる存在になりました。

「資生堂の社員に喜んでもらえる場所を実現できたのはすごく幸せで、社員から『いつもいろいろな取り組みをありがとうございます』と声をかけられると『思いが伝わってるんだな』とうれしくなります。この仕事に長けていたかどうかはわからないのですが、同期からは『近藤さんに向いていると思う!』と言われました(笑)」(近藤さん)

  • カフェテリア「ZEBRA」の一角には資生堂の子育てサポートのイベントで子どもたちがお絵かきしたイラストも

マナーやルールを社内に浸透させることもファシリティマネジメント部の業務の一つですが、カフェテリアには「禁止」「しないでください」といった警告や注意喚起がなく、他社が見学に来た際に驚かれるそうです。これは「強制することなく、自然によい選択を促す」という行動経済学に基づいたナッジ理論を活かしたもので、近藤さんの「楽しくルールを守ってほしい」という思いが見せ方にも表れていると言えます。

GLOBAL VISION CENTERは、「PEOPLE FIRST」という考えのもと、社員食堂を含むオフィス全体が“創造力の交差点”として作られています。

「PEOPLE FIRSTって『社員から始まる』とか『社員がパッションを持たなければ始まらない』みたいなことだと思っています。会社員にとってランチタイムはハイライト。午前中働いた後においしいものを食べて、そこでいろいろな人と話して、午後もがんばろうってなる。カフェテリア『ZEBRA』はそれが叶う場所であってほしい。『社食“で”いい』ではなく『社食“が”いい』に変えていきたいんです」(近藤さん)