熊本県の天草地方では、内航海運業の振興に向けた取り組みに力を入れている。小中学生の社会科見学の実施にも積極的だ。三角西港では12月9日、上天草市立上小学校の6年生が内航船の乗船体験に参加した。

  • 上天草市にて、小学生たちが内航船に乗船体験した

子どもたちを待っていたのは...

熊本県の西側に位置する天草と言えば、天草五橋をはじめとする風光明媚な景観で有名な地域。また「島原・天草一揆」の天草四郎を連想する人も多いことだろう。

  • 天草に向かうバスの車窓から

  • 美しい景観が続く

天草四郎ミュージアムから、徒歩圏内にあるのが上天草市立上小学校。寒気が厳しさを増しつつある12月初旬、6年生30名が三角西港まで社会科見学に出かけた。

  • 天草四郎ミュージアム

  • こちらが上天草市立上小学校(熊本県上天草市大矢野町上1119)

  • 6年生30名が参加した

三角西港は、明治時代に発展した近代貿易港。三池炭鉱の石炭を中国・上海に輸出するための起点として大いに栄えた。そんな同港に、貨物船の「汽船 有樟丸」が停泊し、小学生たちが乗船するのを待っていた。就航前の新造船だ。

  • 汽船 有樟丸

乗船前、上天草市海運業次世代人材育成推進協議会の坂田英雄会長が挨拶した。くれぐれも怪我のないよう、船内見学を楽しんでください、と坂田会長。そのうえで「みなさんの中から、将来、船員さんになる子が出てくれたら嬉しいです」と笑顔で呼びかける。

  • 上天草市海運業次世代人材育成推進協議会の坂田英雄会長が挨拶した

ドキドキの船内見学

そして、いざ乗船。まずは機関室に入り、みんなで大きなエンジンの轟音と振動を体感した。船員の話によれば、搭載するのはIHI製のエンジンで、1,000馬力以上も出せるという。プシューという大きな音がすると、耳を塞ぎながら「うるさいね?」と友だちと顔を見合わせる女の子たち。その表情は、しかし何だかとても楽しそうだ。

  • 機関室で大きなエンジンが動く様子を見学

  • 真新しく綺麗な船内

  • 個室にも立ち入る

そして船長室も見学。綺麗なベットを見て「オレも寝てみたい」という男の子に、案内した船員は「明日まで停泊するので、寝ていっても良いよ」と笑う。またゲームのコントローラーを発見した子は「ゲームするんだ」と嬉しそう。

  • こちらが船長室(子どもたちで溢れかえった後に撮影)

ブリッジ(船橋)に上った子どもたちは、代わる代わる船長の使う双眼鏡を覗く。男の子が「すごい! どこだこれ」と歓声をあげると、船員は「よく見えるでしょう! 天門橋(天草五橋・1号橋)が見えているよ」と解説した。

  • 双眼鏡を覗く

ここで唐突にクイズが出題された。「この船の初航海には、鹿児島県の種子島でお砂糖を積んで大阪まで運ぶ予定です。さて、お砂糖は何トン積むことができるでしょう?」という問いかけに「3トン!」「25トン!」「100トン!」と威勢のいい子どもたち。しかし正解が900トンと聞いて驚く。ここで「有樟丸では、10トンのトラックが90台で運ぶ荷物を一度に運ぶことができます」と補足説明する。

  • 子どもたちとの交流を楽しむ

  • 三角西港は何処?海図で確認する

そして実際に倉庫見学へ。がらんどうの倉庫は、上から見てもとても広く感じる。わんぱくそうな男の子は「ここでサッカーとかできるんですか?」と真面目な顔で質問した。

  • 巨大な倉庫へ

倉庫では、この「汽船 有樟丸」が活躍する内航海運業界について説明が行われた。

「私たちは内航海運の仕事をしています。実は、日本国内では貨物の輸送量の44.3%(トンキロベース)が船で運ばれています。あとはトラックが50%、鉄道が5.3%、飛行機が0.3%くらい。船の割合がとても大きいですね。石油製品、石灰石、鉄鋼、セメントなどの”産業基礎物資”に限ると、その80%が船で運ばれているんですよ。みんなが大好きなポテトチップスの原料であるじゃがいもを運ぶ専用船には『ポテト丸』という名前がつけられています」と船員。

  • 内航海運業界について説明する

このあとも航海士の仕事、機関士の仕事、船員の1日の過ごし方など、分かりやすく紹介する。内航で活躍する船には、一般貨物船のほか、セメント船、コンテナ船、RORO船、オイルタンカー、LPGタンカー、カーフェリーなどたくさんの種類があるそう。「貨物船では新幹線を運ぶこともあります」という話題に、鉄道好きの男の子は目を見開いて驚いた。

後半は、クイズ大会。「この船の長さは?」(正解は61.99m)、「この船のスピードは?」(正解は12ノット)、「この船は何トン?」(正解は900トン)、「海の上の1マイルは何m?」(正解は1,852m)といった難問に、スラスラ答えていく子どもたち。実は先ほど、ブリッジで船長からクイズの予想問題と答えを聞いていたのだった。正解した子には、特製カードをもれなくプレゼント。とは言うものの、最後には全員がカードをもらえるような優しい配慮もあり、みんな笑顔でクイズ大会は締めくくられた。

  • この子がもらった船カードは、ポテト丸。貨物船 兼 コンテナ船として活躍していることなど、船の詳細情報が載っていた

  • 倉庫の屋根が閉じられると、オォーという歓声

  • 屋根の上が開放されると、子どもたちも大はしゃぎした

約1時間の乗船体験はあっという間に終わったが、巨大な貨物船の迫力、それを動かして国内に物を運ぶ”内航海運”という仕事は、子ども心に大きなインパクトを残したことだろう。