都内のアパレル企業で事務職の仕事をしているKさん(20代女性)。中途採用で入社して2年近くが経ちますが、最近不安を感じているのが「自分が会社からどのように評価されているのか」ということです。
前職は営業職だったので、毎日数字に追われ、誰が見ても成績が明らかで、それが嫌になって退職したものの、今の職場は毎日が同じような業務で、評価制度はあるもののAさんにとっては見えないところが多く、自分が会社からどのような評価をされているのかがいまいちわからず、将来について不安を感じ始めていたのでした…。
従業員がある程度いる会社であれば実施されている評価制度。評価制度を上手く活用できれば、従業員のモチベーションを上げて最高のパフォーマンスを発揮させることができるわけですが、逆に評価制度を上手に活用できていなければ、従業員のエンゲージメントやモチベーションが下がり、最終的には離職してしまう場合もあります。
そこで今回は、評価制度を運用する際に気を付けてもらいたいポイントを解説していきます。
自社の評価制度に納得できないと離職につながるケースも
ライボが2023年9月19日に発表した「2023年人事評価の実態調査」によると、評価制度がある企業で働く従業員に「会社からの評価に不満を感じたことはあるか」という質問をしたところ、「不満がある」と回答した割合は75.2%と7割を超える結果になっています。
さらに「評価によりモチベーションが下がった経験があるか」という質問に対して、「ある」と答えた割合は78.7%と8割弱もいました。
ちなみに、その理由については「成果と報酬が見合っていなかったから」(51.3%)が最多で、以下、「評価の基準が不透明だったから」(45.6%)、「上司が自分をちゃんと見てくれていないと思ったから」(38.5%)となっていました。
さらに、「評価によって転職を考えた経験があるか」という質問については、「ある」と回答した割合は71.8%で7割を超えており、「実際に転職した」方は48.9%、「転職を検討している」方は19.5%という結果になっています。
自社の評価制度に全員が納得しているような会社は滅多にないと思いますが、自社の評価制度に納得していない方は、最終的に離職してしまうケースも多いということです。
上司の関わり方次第で不満はかなり解消される
従業員が評価制度に不満を抱く理由は、上記アンケートのとおりですが、内容としては、評価制度そのものに問題がある場合と上司の関わり方、コミュニケーションの取り方といった運用に問題がある場合の2つに大きく分かれます。
評価制度が自社の現状、組織に合っていない、評価基準が明確でないといった場合は制度の見直しを検討する必要があり、時間も労力もかかりますが、実は最も重要でかつ効果が高いのは、上司が部下との関わり方を変えることです。
世の中の上司の多くは、マネジメントだけでなく自分の業務もこなしているプレイングマネージャーです。
そのため上司は、マネジメント業務を自分自身の業務のプラスアルファの業務であると認識しているかもしれませんが、部下に目標を達成してもらうこと、目標達成させることを通じて部下を育成することが上司の最も重要な役割であることを認識しなければなりません。
1.部下と関わる回数を増やすこと
例えば、部下との面談を最初の目標設定時と最後の評価決定の時だけやっているなど、そもそも面談の回数が少ないケースです。
上司も一人ひとりの行動を常に見て、記憶・記録しているわけはないため、直近の状況だけで評価すれば上司と部下の認識に当然ギャップも生じ、アンケート結果のように「上司が自分をちゃんと見てくれない」と感じられてしまうわけです。
冒頭のAさんもまさにこれで、上司との関係性も構築されていない中で、単に形式だけで評価されていることに不安、不満を感じていたのでした。
定期的に1On1を行い、進捗・成果の報告をさせ、認識を共有することが重要ですので、まずはスケジュールを押さえるところから始めてください。
ただ、注意していただきたいのは、1On1はやればいいというものでもありません。相互にコミュニケーションを図り、人間関係を構築しかつ成果のギャップをなくすためにやるわけです。
目的を理解せずにただ1On1をしてもお互いに時間の無駄であり、最終的に不満を生む結果になるので注意してください。
2.評価を伝える際のポイント
また、決定した評価を本人にフィードバックする際は、その伝え方が重要です。特に上司と本人との間ではある程度評価を握れていたのに、会社の最終的な判断で評価が変わってしまった場合などは注意が必要です。
このような場合に絶対に言ってはいけないのは、「私はできていると思ってるんだけど、最終的に会社の判断で下がっちゃったんだよね」といったまさに他責の発言です。
こんな発言をする上司を信頼するはずもなく、本人が納得するわけがありません。上司は最終評価の理由を確認し、次回にむけて部下が成果を出せるよう、自分の言葉で伝えることが大切です。
まさに上司の関わり方、部下のモチベーションを如何に引き出せるか、育成こそ上司の重要な役割なのです。
3.評価制度に完成も完璧もない
ところで、従業員の全員が評価制度に不満をもっていないという会社は、正直あり得ません。どこの会社でも従業員の一定数は不満を持っているでしょうし、最終的には退職につながっていると思います。
ただ、組織には適度な新陳代謝も必要であり、会社の方針や価値観が合わない方が辞めていくことはある意味では致し方ないことかもしれません。もしかしたら採用のミスマッチだったかもしれません。
評価制度は、企業理念から一貫性があるものでなければならず、会社としてどういう人物に育ってほしいかを示したものになります。
ですから、個々の従業員が評価制度に基づいた少し背伸びした目標を設定し、成果を出すことで会社も成長していくものでなければなりません。
つまり、評価制度は単に従業員を評価するための制度ではなく、会社にとって目指してもらいたい人物に成長していくべく目標を掲げ、それに向かって上司が育成していくことで、部下、上司、会社が成長していく仕組みなのです。
とはいえ、社会も常に変化しており、それに合わせて会社も組織も変化していく必要があります。会社の成長に合わせて当然理想とする人物像も変わってきますので、評価制度は常にブラッシュアップが必要です。
評価制度を作るとき、見直すときに大事なことは、今の組織、今のメンバーの顔を浮かべて作ってはいけないということです。
少なくとも5年から10年先の将来を見据えて会社をどのようにしていきたいのか、それを実現するためにはどのような組織を作る必要があるのか、その組織で活躍、成長していく従業員はどういった人物なのか。まさに会社の未来の理想から逆算して作っていくものです。
最後に冒頭の「2023年人事評価の実態調査」では、「今後の会社の評価に期待するか」という質問に対して、61.4%が「期待する」と答えていました。
自社の評価制度の課題は何か、上司と部下の関わり方含めて運用は適切か、企業を成長させていくためには定期的な現状把握と見直しが重要です。
著者プロフィール:武澤健太郎(たけざわ・けんたろう)
大槻経営労務管理事務所社員役員、特定社会保険労務士
社会保険労務士法人 大槻経営労務管理事務所 HRコンサルティング事業部担当役員。2011年9月に経営労務監査プロジェクトのプロジェクトリーダーとして、数多くの労務監査を手掛ける。2012年5月に特定社会保険労務士を付記するとともに、多数のクライアントより個別労使紛争を含む労務相談を受ける。2013年9月には、海外進出プロジェクト担当リーダーに就任し、アジアを中心とした海外進出に必要な労務管理、労働社会保険のアドバイスを積極的に行っている。