「江戸から続く東京の歴史・文化」を観光資源として効果的に活用することを目的に、観光事業者向けのモニターツアーを6回にわたって開催している東京都。今回、10月30日に行われた「浅草・東京湾で江戸文化・食・お座敷あそび体験」コースのツアーに参加したもようをレポートする。

■人力車浅草コースと屋形船江戸湾遊覧コースの2部構成

江戸・東京の歴史や文化を観光資源として着目し、情報発信を行っている東京都。次年度以降、民間事業者の江戸・東京の魅力を活用したツアー造成の促進や旅行者の誘致を目的とするモニターツアーを、10月15日~11月15日まで計6回にわたって実施している。

本ツアーの参加者は主に、募集型旅行商品を造成販売している旅行社や、日帰り着地型・オプショナルツアー運営会社など、都内の観光関連事業者。参加者へのWebアンケートやヒアリングを通じて、ツアー内容のブラッシュアップと今後の東京観光の促進を図っていくという。

今回、取材班が参加したのは人力車や屋形船に乗り、260年以上続いた江戸時代の華やかな文化を体験する観光周遊モニターツアーの「浅草・東京湾で江戸文化・食・お座敷あそび体験」コース。

人力車浅草コースと屋形船江戸湾遊覧コースで構成された約4時間のツアーで、浅草芸者たちと一緒に屋形船へ乗船して、お座敷あそびなどの江戸文化を体感できることが本ツアーの目玉のひとつとなっている。

■人力車に乗って浅草を巡る

隅田公園に集合したモニターツアー参加者たちは、さっそく人力車に乗り込み、春は桜の名所でもある隅田公園を出発。俥夫から江戸浅草の歴史や文化に関するガイドを受けながら、浅草寺周辺を巡った。

浅草1丁目1番地1号に位置する神谷バーや「雷門」を見物し、人力車は程なくオレンジ通りへ。火の見櫓が象徴的な「伝法院通り」や、客を呼び込む芸人の姿もある「六区通り」をひた走り、日本最古のジェットコースターで有名な「花屋敷」に向かっていく。

訪問場所ごとの歴史語りや解説は、東京に住んでいても知らないことばかりで十分に楽しめる内容だ。

その後、人力車は浅草ひさご通り商店街を抜けて、名店ひしめく奥浅草(観音裏)の昼の雰囲気に触れながら、芸者衆の手配などを行う花街の中心施設「浅草見番」に到着した。

芸者衆の事務所である「浅草見番」は、2階が浅草芸者の稽古場所となっているそうで、昼休みどきの枝垂れ柳の並木道には、三味線などの音がかすかに漏れ聞こえていた。

最後はスタート地点の隅田公園に戻り、スカイツリーを望む絶景ポイントで記念写真を撮影。約1時間の人力車浅草コースは終了した。

浅草の人力車の利用する観光客は今回のような1時間のコース・プランを楽しむことが多いそうだ。取材班を担当してくれた俥夫のお兄さんの場合は1日に7~8本、1日の走行距離は最低でも10キロは下らないらしい。

浅草界隈には15社ほどの人力車の事業者があるそうで、今回乗り込んだ観光人力車を運行する「えびすや」は、北海道から九州まで全国で人力車の事業を展開している。安定感のある走りだけでなく、ホスピタリティあふれる軽快なトークでも満喫させてもらった。

■屋形船に乗船、船の上でお座敷あそびを体験

その後、本ツアーの参加者たちは吾妻橋乗船場で晴海屋の屋形船に乗船。江戸・東京の食文化を味わえる食材や料理に舌鼓を打ちながら、1時間ほどかけて隅田川を東京湾・お台場まで下った。

スカイツリーや隅田川にかかる数々の橋の景観を水上から楽しめたほか、晴海屋の協力で提供された料理も豪華でボリュームたっぷり。船内で調理された揚げたての天ぷらや関東風すき焼き、味噌田楽や板前が船内で握った江戸前寿司といった食事の数々を堪能した。

屋形船江戸湾遊覧コースの全行程は約3時間。隅田川の屋形船に乗船中は、ARアプリ「イマーシブお江戸川遊び」のARカメラを起動して隅田川の川面に向けると、江戸時代の隅田川の様子を想像させる再現イメージを見られるなどの趣向もあった。

平安貴族の舟遊びを起源とし、戦国時代には皇族や文化人、大名や豪商の楽しみに発展したという屋形船。17世紀中頃の江戸時代には長さ26間(約47m)の大屋形船も存在し、きらびやかな装飾で贅を競ったが、度々の倹約令によって船は小型化し、質素なものとなっていったという歴史もあるようだ。

屋形船江戸湾遊覧コースの屋形船には、日本に6人しかいない幇間・松廼家八好さんと浅草芸者たちも乗船。レインボーブリッジを望むお台場海浜公園付近の海上で1時間ほど停泊し、そこで浅草芸者の歌や踊りといったお座敷文化にも触れることができた。

幇間(ほうかん)は、宴席やお座敷などのお酒の席で接待をする男性の芸者のこと。“太鼓持ち”とも言われ、自らも芸をしながら場を盛り上げ、文字通り“間をつないで幇助”するのが生業で、幇間の文化が現在残るのは全国の花街の中でも浅草だけだという。

幇間の八好さんが話芸で場をあたためた後、「紅葉の橋」「浅草ごよみ(秋)」「木遣りくずし」といった曲が演奏され、浅草芸者たちの歌と踊りが披露された。

最後に演奏された「さわぎ」は独特の囃しが有名な端唄。もともとは吉原遊廓で歌われ、踊られていた曲だそうだが、やがて浅草の花街でも演奏されるようになり、現在は全国のお座敷の芸者衆に広まっているという。

ツアー参加者を交えたお座敷あそびでは、「投扇興(とうせんきょう)」という伝統的な遊びが行われた。

「投扇興」は「枕」と呼ばれる土台に「蝶」と呼ばれる的を立て、蝶へ向けて扇子を投げるというダーツのような遊び。投げた扇子が落ちたときの蝶・枕・扇子の形(=銘)によって得点が与えられる。点数の付け方は流派によってルールが異なるそうだが、空気抵抗を受けやすい軽い扇を使うため、高得点を狙うのはなかなか難しい。

最後に行われたお座敷あそびは、割り箸にタコ糸でぶら下がったお猪口を巻き上げる速さを競うというゲーム。正式な名前がついていないゲームのようだが、タコ糸の長さが微妙に違う手作り感もこのゲームのミソらしい。

お座敷文化は芸者などの演者と一緒に楽しむ参加型・体験型の文化とのことで、モニターツアーの参加者も積極的にこれらのお座敷あそびに興じる姿が見られた。一般参加者の屋形船ではアルコールの提供などもあるので、乗り合った参加者同士でもさらに盛り上がりそうだ。