ChatGPTをはじめとする生成AIが、日進月歩で進化、発展しています。すでにビジネス現場での導入、活用が進んでおり、今後はあらゆる業界のビジネスモデルに影響を与え、仕事の在り方を変えていくと言われています。

近い将来、そんな世の中に出て行く学生は、生成AIとどのように向き合うべきでしょうか。AI専門メディア『AINOW』編集長の、おざけんこと小沢健祐さんに、生成AIの可能性と就活での活用法についてうかがいました。

  • AI専門メディア『AINOW』編集長、"おざけん"こと小沢健祐さん

今後AIに影響を受けない業界はない

今後5年、10年でAIと関係がない業界はほぼなくなり、AIに精通している人や企業に仕事が集中していくという事態が起きてくるのではないかと話すおざけんさん。

「例えば僕は、1000文字の記事を、生成AIを使って30分くらいで作り、納品します。著書の『生成AI導入の教科書』(ワン・パブリッシング)は、ChatGPTを活用して、2ケ月半で完成させました。AIを活用して、今までの10倍くらいのスピードで仕事ができるのです。そうなると、今まで他の人がやっていた仕事がスピード感を評価され、僕に指名が入ります。つまり今後は、AIに精通している一部の人に仕事が集中してしまうのではないかと思うのです。もっと大きな視点で言うと、将来的には同様のことがあらゆる業界で起こり、トップ1~3位程度の企業に淘汰されていくということもあり得ると考えています」

また、企業にAIの導入が進むと、新卒採用にも影響が出てくるのではないかとおざけんさんは言います。

「今までなら、会議の議事録を書いたり、調査報告書をまとめたりするのが新人の最初の仕事で、そこから業界知識を学んでいたと思いますが、そういうことは生成AIを使えば一発でできてしまいます。そうした業務が消え、その部分においては社員を活用する必要がなくなるのではないかと思うのです」

そんな時代を生きる学生にとって大切なのは、AI社会の本質を理解することだとおざけんさんは注意を促します。

「生成AIは、入力から出力をつくるただの変換器です。その組み合わせが無限になってきていて、もはや何でもつくれるようになってきているというインパクトはありますが、何かをしたいという気持ちを持っているのは人間だけ、生成AIのアウトプットを承認して、意思決定して責任をとれるのは人間だけなのです。そうした本質を理解したうえで、学生時代から、課題設定力や論理的思考力を養ったり、コミュニケーション力の向上に努めたりするなど、人間ならではのソフトスキルを磨いておくことが、社会に出て行く際の市場価値につながると思います」

論理的思考と言語化力がAI社会を生きる術に

AIを理解し、ソフトスキルを磨く。それらを同時に可能にするのが、対話型の生成AIです。

その代表格とも言えるのが「ChatGPT」。OpenAIが開発した対話型AIで、テキストをもとに自然な会話を行い、さまざまな質問やリクエストに対応できます。特に、文章作成やリサーチ、学習支援で力を発揮。アイデアを出すためのブレインストーミングにも活用されています。時間を節約し、効率的に作業を進めるための、強力なパートナーになり得る存在です。

ただし、生成AIの使い方や向き合い方には、コツとポイントがあるとおざけんさん。

「著名人が本を出版する時、原稿をプロのライターに書いてもらうということがよくありますが、著者が本人の場合は、その人の意見が細部にわたって文章に反映されていなければなりません。そう考えると、学生が課題のレポートに取り組む時、生成AIから上がってきたものをそのまま提出したのでは、課題をこなしたことにはなりません。生成AIのアウトプットがもともとの課題を解決するものになっているか否かを自身で評価、判断することが、何より重要です。その時、アウトプットが悪いのはAIに対する自分の指示(=プロンプト)が悪いからだというスタンスも、持っておく必要があります。

僕は、生成AIというのは、自分の軸を拡張するツールだと思っています。そのツールを使いこなすのに不可欠なのが、認識の齟齬を発生させないプロンプト術、つまり、論理的思考と言語化力です。

人間同士なら、『メールだけじゃ伝わらないから電話する』ということができますが、AIとはできません。だからこそ、何をどうしたいのか頭の中をきちんと整理して、的確な言葉で指示しなければならないのです。プロンプトは思考回路の言語化。その能力は、AIを繰り返し使い、対話を積み重ねることで、養われていくでしょう」

  • おざけんさんが「生成AI時代に重要」と挙げる5つのスキル 提供:おざけんさん

就活の自己分析や面接対策にAIが活用できる

学生がAIに触れる機会としておざけんさんがすすめするのは、就職活動での活用です。

「例えば、自己分析に対話型の生成AIを活用するというのはどうでしょうか。今の就活生の課題感にも合っているのではないかと思います。

私は多くの学生と面談したことがあるのですが、学生はまだ、自分の知っている世界でしか物事を判断することができないため、経験値が少ない人は特に、自分のやりたいことが見えていない、戦略的に物事を見られていないように思います。その、世界を広げる一つのきっかけに、生成AIが使えると思います」

おざけんさんがおすすめとして挙げたのは、Googleと連携した次世代マルチモーダルAI「Gemini」。

写真や画像を見てその内容を解説したり、複数のデータから最適な解答を導き出したりできます。

さらに、Googleサービスとの強力な連携により、Googleドキュメントやスプレッドシートでの作業をAIがサポート。

データを解析・提案してくれるため、効率的に作業を進めることができます。勉強や仕事をサポートする強力なツールとして、日常に取り入れやすい生成AIです。

「Geminiには、キャリアアドバイザー機能があります。就活生が自己分析の壁打ち相手に活用すれば、自分が今まで触れてこなかった世界をうまくつなげてくれる可能性があるのではないかと思います。

さらに、面接対策にも使えるかもしれません。その会社が求めている人材に対し、自分はどんな価値を発揮すればいいかを、AIとの対話を通じて解釈し、アピールに活用するのです。

一方で、やってはいけないのが、エントリーシートをゼロから生成AIに作ってもらうこと。それではほぼ受からないと思います」

また、外資系企業や、グローバル企業への就職を検討している人には、AIを活用した英語学習アプリ「スピーク」もおすすめだとおざけんさん。

「スピークは、実はOpenAI Startup Fundの投資先の1社。ダウンロード数が世界で1,000万を超えている、人気アプリの一つです。ポイントは、英会話のシチュエーションを自分で設定できること。外資系企業などの英語面接シーンの練習に使えます。一方で、入社後のキャリアを広げるために学生のうちからビジネス英会話を学んでおきたいという人にも、最適なアプリです」

  • 提供:スピーク

AI社会で活躍するためのスキルセットは、AIの進化と共に変化しています。これから社会に出て行く学生は、より感度高く、柔軟性を持って、AIと向き合っていく姿勢が必要かもしれません。

取材協力:小澤健祐(おざわ・けんすけ)

AI専門メディア『AINOW』の編集長。ディップ株式会社で生成AI活用推進プロジェクトを進めるほか、AI活用コミュニティ「SHIFT AI」のモデレーターとしても知られる。株式会社Cinematorico/COO、株式会社テックビズ/PRディレクター、株式会社Carnot/事業戦略担当、Cynthialy株式会社/顧問、日本大学次世代社会研究センター/プロボノとしても活躍。