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大谷翔平選手の所属するロサンゼルス・ドジャースがニューヨーク・ヤンキースを破り、ついにワールドチャンピオンに輝いた。左肩の亜脱臼というアクシデントもあったが、夢を叶えた大谷選手。今回は、左肩故障前後の打撃状態の変化、ライバルとされたアーロン・ジャッジとの打撃比較を中心にこのワールドシリーズを振り返る。(文:島倉孝之)
今年のワールドシリーズのポイント
大谷翔平選手が初めてたどり着いた夢舞台である2024年のワールドシリーズ。大谷選手の所属するロサンゼルス・ドジャースがニューヨーク・ヤンキースを4勝1敗で破ってワールドチャンピオンに輝いた。大谷選手は、ついにチャンピオンズリングを手にした。
MVPに輝いたフレディ・フリーマン選手の大活躍、第 2戦の山本由伸投手の好投、第5戦のヤンキースのミスの連鎖など、ポイントや見どころの多いシリーズとなった。
このチャンピオンズリングは、左肩の負傷、不調の中でも、チームの勝利に貢献したいという思いが呼び込んだものでもあった。大谷選手が勝利をもたらした原動力とは何か?この点こそが、ライバルのアーロン・ジャッジ選手を圧倒していたものでもあったのだ。
今年のワールドシリーズのポイントを私なりに以下の2点に絞った。
・左肩負傷前後の打撃の変化
・ヤンキースのアーロン・ジャッジ選手との「対決」の結果
左肩負傷はどの程度影響したのか
まずは、第2戦の8回の盗塁失敗の際の左肩亜脱臼が打撃に及ぼした影響について振り返りたい。米分析サイト『Baseball Savant』によれば、この負傷の影響のない第2戦までと、負傷の影響を受けた第3~5戦では、スイングの内容が以下のように変化している。
平均スイング速度は、負傷前後でほとんど変化はない。しかし、スクエア・アップ率、ブラスト率(詳細は表の注釈を参照)といった打球内容と連関する指標については、負傷後に20ポイント台半ばの低下を見せている。
通常通りの速度のスイングはできた一方で、最後に打球に力を伝える際に左肩の影響が出たのかもしれない。
このシリーズで大谷選手が外野に飛ばした打球につき、負傷前後での打球内容の相違を、投手の投球と合わせ次表に整理した。
打球速度、飛距離とも負傷後に低下している。同一球種間で比較するとその傾向がわかりやすい。例えば、第1戦、第2戦にゲリット・コール投手やカルロス・ロドン投手から打ったフォーシームと、第5戦にコール投手から打ったフォーシームは、球速はほぼ同じである。
しかし、後者の打球速度は、前者のそれと比較して、15マイル時前後、時速換算で約20キロ以上低下している。負傷後に唯一300フィート代後半近く(120m近く)の飛距離があった第4戦のルイス・ギル投手からの打球は、打球角度からみて、左肩の影響がもしなければ本塁打になっていた可能性もある。
この投球は86.6マイル時(約139.4キロ)のスライダーで、投げられたのは下記の「2」のコースである。打球はセンターから左寄りに飛んだが、本来の状態ならば右中間寄りに飛んでいた可能性が高い。
一方で、本来の状態でなくとも存在感を示すのも大谷選手だ。負傷後初打席となった第3戦の第1打席がその好例である。対戦したクラーク・シュミット投手の投球コースは以下の通りで、大谷選手に恐れをなしたのか、明らかなボール球しか投げることができていない。
さらにそのシュミット投手は、この四球を出した後、満足に走れないはずの大谷選手の足を警戒すぎてしまう。大谷選手がもたらすプレッシャーが、その後のフリーマン選手の先制2ランを呼んだかもしれない。
ジャッジとのMVP対決の結果は…?
そして、戦前注目を浴びたヤンキースのアーロン・ジャッジ選手との「直接対決」だ。両選手とも不振に苦しんだ感のあるこのシリーズの最終結果は以下のようになった。
・大谷翔平 :19打数2安打0本塁打 OPS.385
・アーロン・ジャッジ:18打数4安打1本塁打 OPS.836
打撃の数字だけ見れば、第4戦から状態を上げた「ジャッジの勝ち」となるだろう。一方、チームリーダーとなる打者にとって、不調時であっても次打者につなぎチームに貢献することが重要だ。
この観点に立つと、両選手とも状態が上がっていなかった第3戦までについていえば、「大谷の圧勝」といえる。
第3戦までの安打数は、大谷、ジャッジ両選手とも1だが、これに現れない内容が実は大きく違っている。これは以下の通りだ。
四死球数:大谷3、ジャッジ1
進塁打数:大谷3、ジャッジ0
三振数:大谷3、ジャッジ6
安打が出なくとも、状態が悪くとも大谷選手はボールを選び、走者を進めて次打者につなぐことができていたのだ。
大谷選手の3つの進塁打のうち2つ(走者数で4人中3人)が、得点につながっている。選んだ四球の1つ(前記シュミット投手から選んだもの)も自らの得点につながった。
第1戦でトミー・ケンリー投手からライトに打った二塁打は、高い打球速度のために単打になる可能性もあったが、ホアン・ソト選手の打球処理が遅れた隙に二塁を陥れ、グレバー・トーレス選手がその送球をはじいて見失った隙に乗じて三塁までも陥れた。ムーキー・ベッツ選手の同点犠牲フライで自ら本塁を踏んだのはその直後だった。
打てない中でもどのように次打者につなぎチームに貢献するか…これは、第3戦までボール球を振り回すだけだったジャッジ選手に欠落していた点だ。
チームリーダーとしての「直接対決」はどちらが上かは、言うまでもないだろう。キャプテンを名乗るジャッジ選手に比べ、大谷選手の方が高いキャプテンシーを発揮していた。
この目線での直接対決での「完勝」が、ドジャースが3連勝してシリーズを優位に進める重要な要因になったはずだ。
個人成績では満足できる数字ではなかったが、大谷選手本人にとってはチームが勝ち自らも貢献することが第一だったはずだ。
そのための最大限の尽力がベッツ、フリーマンら他の選手につながり、最大の成果を得た。そして何より、大谷選手自身が、MLB入りして初めて、10月にいるべき場所にいることができた。この経験は本人にとって何にも代えがたいだろう。
来年も再びこの夢舞台に立てるのか?そしてこの夢舞台でのマウンドにも立てるのか?やがて、新たな長い道のりが再び始まる。
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【了】