JR東日本は10月13日から、首都圏エリアの中央快速線・青梅線(東京~大月・青梅間)で一部編成にグリーン車を連結しての運行を開始した。2025年春まで「グリーン車お試し期間」として、グリーン車の車両が普通車扱いとなっており、グリーン料金を支払わずに乗車できる。沿線の利用者や鉄道ファンらを中心に、早速大きな話題となっている。
そこで今回、中央快速線・青梅線に導入されるグリーン車サービスについて改めて確認しつつ、普通車扱いで一部供用開始したグリーン車にも乗車してみることにした。
両開きドアや自動回転式リクライニングシートを導入
中央快速線・青梅線の着席ニーズに応えるべく、JR東日本は2025年春から東京~大月・青梅間でグリーン車サービスを開始する。オレンジ帯のE233系を使用し、中央快速線を走るすべての列車と、中央快速線から青梅線へ直通する列車(増結前は10両編成)に2階建てグリーン車2両を連結し、4・5号車(東京方から4・5両目)に組み込んで12両編成とする。グリーン車の導入に合わせ、普通車の6号車(グリーン車増結前は4号車)に車いす対応トイレも設置された。
新たに連結されるグリーン車は、基本的に横須賀線・総武快速線で活躍するE235系1000番代のグリーン車に準じた設計となっており、全席に電源コンセントを備えたリクライニングシートで着席できる。他に背面テーブル、フック、網ポケット、ドリンクホルダー、読書灯も使用可能。頭上の読取機に「Suicaグリーン券」をタッチすることで、車内改札を省略できる。これまでの普通列車グリーン車と同じく、座席定員は2両合わせて180名となっている。
グリーン車サービスの開始後、車内で無料Wi-Fiも使用可能。4号車に車いす対応トイレと洗面台、各デッキにゴミ箱も設置されている。グリーンアテンダントも乗車して各種案内を行う予定だが、現在はお試し期間のため、アテンダントは乗務しておらず、無料Wi-Fi、ゴミ箱、4号車のトイレも使用できない。いずれも来年春のサービス開始に合わせ、利用可能となる。
中央快速線・青梅線のグリーン車では、東京駅などでの折返し時に車内整備時間を短縮し、スムーズな乗降を図るため、2階建てグリーン車で初という幅1,300mmの両開きドアと幅の広いデッキ、自動回転式の座席を採用した。これにより車端部の平屋席は席数を減らしたが、一方で階上席・階下席の席数は増えている。ちなみに、2階建ての車両で両開きドアと聞くと、かつて常磐線に1両だけ存在した415系1900番代をほうふつとさせる。
一方、まだグリーン車を連結していない編成も少しだけ変化があった。該当する編成のうち、10両固定編成に「10 CARS」、6両・4両分割編成に「Chuo Ome Line」のステッカーが車体前面に貼付されている。さらにその一部は「10 made to be(グリーン車マーク)」というステッカーになっており、間もなくグリーン車が追加されることを示しているかのようだった。
平日夕方の東京行でグリーン車にお試し乗車
それでは、「グリーン車お試し期間」として普通車扱いになっているグリーン車に、実際に乗ってみよう。今回、筆者は平日の夕方、18時29分に高尾駅を発車する東京行の快速(中野駅まで各駅停車)に、終点まで乗車した。グリーン車の導入直後で混雑が予想される土休日や東京駅からの乗車を避けたつもりだったが、それでも発車5分前の時点で、高尾駅ホームのグリーン車乗車位置に20人弱程度が待機していた。おもに学校帰りの学生や鉄道ファンと思われる人が中心だった。
筆者は4号車「サロE233」の2階で着席した。内装もE235系1000番代のグリーン車に準拠しており、明るい色の普通車とは対照的に落ち着いたトーンとなっている。座席の座り心地については、他の普通列車グリーン車と同等のちょうど良いやわらかさではないかと感じた。特急列車こそ運行しているものの、普通列車グリーン車はいままでの中央快速線・青梅線にはなかったので、2階の席から車窓風景を眺めることに新鮮さを感じる。
高尾駅を発車した時点で、目視できた限りだが、同じ室内に乗り合わせた人は筆者を含めて15人。発車してすぐに、近くの席からお酒の缶を開ける音が聞こえてきた。通路を挟んで隣の席に座っていた人は、ときおりパソコンを開いていた。乗車中にパソコンやスマホを見る利用者にとって、肘掛部分に設置された電源コンセントは役に立つだろう。
次の西八王子駅でも、学生を中心に多くの人が乗車。到着時に物珍しそうな視線もあり、席を確保できた学生から「やったー」と喜ぶ声も聞こえた。八王子駅に到着すると、4号車の階上席は半分以上埋まり、車掌からも「4号車・5号車は混雑します」と車内アナウンスがあった。これ以降、立川駅や三鷹駅といった主要駅を中心に利用者がある程度入れ替わるも、全体的な乗車率はほぼ変わらない状態で東京駅まで進んでいく。東京方面の快速は、三鷹駅までに中央特快・青梅特快や特急列車に抜かれることが多いが、筆者が乗った列車は終点まで先行した。
武蔵境駅では、偶然にも西武多摩川線の列車とほぼ同時にホームへ。ここで筆者は遮音性の高さに注目した。グリーン車の「サロE233」「サロE232」はともにモーターなしの車両で、客室とデッキが壁で仕切られていることから、VVVFインバータ制御の走行音はほとんど聞こえず、レールのジョイント音も静かだった。その分、車内アナウンスが聞きやすくなっている。一方、西武多摩川線で運行している新101系は、終点の駅で停車した直後に非常ブレーキの音が強く鳴り響いた。その音量でさえ、グリーン車の車内では小さく収まっていたように思える。グリーン車サービスの開始後、いまよりは車内が混雑しにくくなることも踏まえて、一層快適な空間になりうると実感した。
三鷹駅を発車した後、荻窪駅付近まで中央・総武線各駅停車の列車と並走する場面があった。各駅停車が走る緩行線、快速が走る快速線の並走は他線区でも見られるが、三鷹駅から中野駅までの区間はより両線の列車が並びやすいように感じる。鉄道ファン目線でも面白い光景だが、グリーン車だとより楽しく感じられるだろう。余談だが、このあたりの駅で反対方向(立川方面)の列車を見てみると、やはりそれ以上乗れるかわからないほどに混雑した様子だった。
新宿駅では、スマホで入線シーンを撮影する人が多かった中、外国人観光客の乗車も。御茶ノ水駅では、意外にもここから東京駅へ向かう人が2人乗車してきた。来春からグリーン料金が必要になるだけに、このような短距離の利用は普通車扱いの今だからこそできることかもしれない。
19時45分、終点の東京駅に到着。ホーム上にはグリーン車に乗ろうとする人が長蛇の列を成しており、あっという間に2両とも満席になった。まだ座席の自動回転は行われておらず、乗客が自ら座席を進行方向側に回転させていた。ホームに残った人が真新しいグリーン車を撮影する様子も一定数見られた。到着からわずか3分後、列車は再び高尾方面へ折り返していった。
後日、別件で青梅線を訪れた際にも、グリーン車に乗る機会があった。このときは東青梅駅から国分寺駅まで、5号車「サロE232」の1階で着席した。
すでに大半の席が埋まっていたものの、比較的静かな環境であることは変わらない。国分寺駅で降りる際、デッキに移動しようとしたら、デッキは満員で、階段からドアまで進めないほど混雑していた。それでもドアが開くと、スムーズに利用者が入れ替わった。両開きドアと広いデッキの効果は、奇しくもグリーン車サービスが始まる前から発揮されているように見受けられた。
グリーン車サービスの開始は2025年春、料金は他線区と同じ
ここまで述べた通り、中央快速線・青梅線のグリーン車サービスはまだ始まっておらず、正式なサービス開始は2025年春からの予定。サービス開始後、グリーン車に乗車する際はグリーン料金が必要となる。料金体系は他路線の普通列車グリーン車と同じで、利用距離50km以内の「Suicaグリーン料金」は750円、100km以内の「Suicaグリーン料金」は1,000円。紙のグリーン券は通常料金となり、「Suicaグリーン料金」に260円加算した額となる。「JRE POINT」の利用時は距離にかかわらず600ポイントが必要となる。なお、普通列車グリーン車は「グリーン車自由席」に区分されるため、必ず着席できるとは限らない。デッキに立ったままでもグリーン料金は必要とされる。
中央快速線・青梅線で利用距離が50km以内になる区間の例としては、東京~西八王子間(49.8km)、東京~羽村間(49.2km)、新宿~高尾間(42.8km)、新宿~青梅間(45.7km)、中野~相模湖間(47.9km)、三鷹~四方津間(49.9km)、立川~猿橋間(47.8km)、八王子~大月間(40.4km)などがある。運行区間最長となる東京~大月間でも利用距離は87.8kmなので、100kmまでの料金に収まる。
ただし、中央快速線・青梅線から他の線区へ1枚のグリーン券で乗り継ぐことと、立川駅で青梅方面から大月方面、大月方面から青梅方面へグリーン車を乗り換えることはできない。この場合は利用区間に応じたグリーン券が都度必要となる。大月方面・青梅方面から逆戻りせずに東京方面へ乗り継ぐ場合のみ、1枚のグリーン券で2列車以上のグリーン車に乗車できる。
中央快速線・青梅線にグリーン車が導入されることで、とくに恩恵を受けられそうな利用者層として、特急列車が停車しない駅が生活圏となっている沿線住民と、その駅周辺を目的にした行楽・お出かけ利用が考えられる。中央快速線は日中でも多くの利用があり、通勤時間帯はさらに混雑するため、普通車のみの編成だと、乗った時点ですでに座れなくなっている可能性が高かった。そのような状況でも、グリーン車があることで着席しやすくなり、快適な移動につながる。帰りの列車なら、なおありがたい。その他、平日朝夕の特急「おうめ」や臨時列車以外で特急列車が乗り入れない青梅線でも、リクライニングシート付きの列車が増えるので、着席機会が増えると見込まれる。
「グリーン車お試し期間」が始まった直後、多くの利用者がグリーン車に殺到し、普通車以上に混雑したことも話題になった。たしかに現時点でグリーン車を連結した列車は少ないが、いずれ中央快速線の全列車、中央快速線・青梅線直通列車にグリーン車が連結され、サービス開始後は追加料金も必要になるので、混雑は徐々に解消していくと思われる。中央快速線・青梅線のグリーン車お試し期間は始まったばかり。体験できるタイミングをうかがいつつ、正式なサービス開始も待ちたい。