朝霧JAM ’24総括 小泉今日子に観客が涙、緑豊かなロケーションと数々の名演

10月12日〜13日に朝霧アリーナ・ふもとっぱらにて、今年も「朝霧JAM」が開催された。国内でも屈指のロケーションの中、国内外から幅広いアクトが集結。毎回のように全国津々浦々から約1万人ほどが集まる人気イベントだ。

2001年にスタートした「朝霧JAM」は現地でのキャンプを前提としたフェスという印象が強いかもしれないが、21回目となる今回からは宿泊ツアーもオフィシャルプランのラインナップに追加。より気軽な参加が可能になった。

今回筆者はRolling Stone Japanの編集者とフォトグラファーの3人で、首都圏発着バスプランにレンタルテントプランを追加する形での参加。1日目の朝、首都圏(新宿・上野・横浜・大宮)から出発するバスに乗り込み、現地では設営済みのLOGOSテントを借りて宿泊(筆者は寝袋を持参したが、こちらもレンタル可能)。テントの撤収は不要で、持ち込んだ荷物だけを持って2日目の夜19時頃に帰りのバスに乗って首都圏に帰ってきた。

バズで会場に到着(Photo by Shiho Sasaki)

早くも賑わう会場、奥に見えるのがRAINBOW STAGE(Photo by Shiho Sasaki)

この時点で強調したいポイントが一つ。このレンタルテントプランはキャンプの心得のない自分のような者にとって非常に快適だ。テントの設営と撤収の負担がないのはもちろん、ある程度荷物があっても、バスの到着する駐車場からテントまでめちゃくちゃな距離を歩かされることもない。基本的に気にするのは日中と夜の時間帯で大きく変化する気温(あるいは天候)への対策だけ。はっきり言って、とりあえずスケジュールとチケットさえおさえておけば前日に準備すればなんとかなるレベルだ。

というわけで迎えた12日は予報通り晴天。朝7時頃に都内を出発して11時を少し過ぎたくらいで会場に到着すると、さっそく手続きを済ませてCAMP SITE Bに設営されたテントへ。荷物を解いた段階でライブのスタートまで1時間ほどあり、ホッと一息。

レンタルテントプランで利用できるLOGOSテント(Photo by Shiho Sasaki)

MOONSHINE STAGE付近、朝霧らしいまったりした光景(Photo by Shiho Sasaki)

MOONSHINE STAGE付近をさらっと見て回りつつ、バスツアー参加者に無料で配布されるチケットを使いPERONIのビールをゲットして乾杯! 静岡市葵区瀬名にあるテイクアウト専門カレー屋、SPICE6で購入したスパイシーサワーソースのチキンのカマージとビリヤニ、それにナポリピッツァ専門店ラルバディナポリの沼津港直送メヒカリフリットがアテだ。SPICE6のスパイスの効いた料理は当然、メヒカリフリットは揚げたてでPERONIの爽やかな飲み口に良く合う。その土地で獲れた素材を味わえるのも嬉しい。

MOONSHINE STAGEは屋根のタコでお馴染み(Photo by Shiho Sasaki)

PERONIのビールで乾杯。朝霧JAMロゴ入りアルミカップはそのままお土産に(Photo by Shiho Sasaki)

SPICE6で購入。スパイシーサワーソースのチキンのカマージ、ビリヤニ(Photo by Shiho Sasaki)

MOONSHINE STAGE周辺のフリーマーケット(Photo by Shiho Sasaki)

両ステージ間にあるKIDS LAND。親子で参加できるコンテンツも充実(Photo by Shiho Sasaki)

さっそく最高な気分に浸っていると、いよいよ最初のアクトであるmaya ongakuのよる演奏がスタート。ボーカルの園田努が朝霧JAMの一音目を鳴らす喜びを口にしていたが、観客もまたこの素晴らしいロケーションで音楽を聴く喜びにグッときていただろう。幽玄なサウンドスケープに酔いしれた。

そこからメインステージに当たるRAINBOW STAGEに移り、バレンシア音楽の最高峰とも呼ばれるOBRINT PASのフロントマン、Xavi Sarriaのパフォーマンスを目撃。スカ、 レゲエ、パンクなどを織り交ぜた情熱的かつ爽快な演奏で朝霧JAMに祝祭感を注ぎ込む。「FREE PALESTINE!」というメッセージについ拳を振り上げた。

maya ongaku(Photo by Taio Konishi)

Xavi Sarria(Photo by Taio Konishi)

Xavi Sarriaのライブ中、みんな一斉にジャンプ(Photo by Shiho Sasaki)

さらにそこからステージを行き来しつつ、洗練された音を紡ぐOvall、「短い時間ですがいっしょにヤバい時間作っていきましょう!」とファンキーなサウンドで観客を揺らしたKroi、「いい感じに皆さん欠伸して……(笑)」とMCしていた通り心地よい空間を生み出したキセルとのんびりと楽しむ。

今年の朝霧JAMは完璧な晴天。太陽が出ている間はジリリと肌を焼くような感覚があるほどだ。あまり必要ないかと思っていたが日焼け止めを持参しておくといいだろう。ただ、とはいえ10月なので太陽が一時的にでも雲に隠れるとグッと体感気温は下がる。羽織れるものはマストで持ち歩いておこう。

Kroiと眩しい太陽(Photo by Taio Konishi)

夜の朝霧JAMを彩る熱演、まさかの名曲も

次はRAINBOW STAGEでアイスランドのプロデューサー、オーラヴル・アルナルズとヤヌス・ラスムセンによるエレクトロ・ユニット、キアスモス(Kiasmos)。10年振りのフルアルバムをリリースし、前日の恵比寿リキッドルームでの単独公演もソールドアウトさせていた彼らのテクノ・サウンドに朝霧JAMのフロアも熱く盛り上がる。ここまで残念ながら雲がかかっていた富士山も途中で顔を覗かせてくれた。

LAを拠点に活動する鍵盤奏者/作曲家/プロデューサー、ジョン・キャロル・カービー(John Carroll Kirby)は宵も迫り冷えてきたMOONSHINE STAGEでプレゼントかのようにYMOのカバーを2曲披露。暖かなムードで会場を包み込んだ。

この時間になるとすでにRAINBOW STAGE後方では焚き火が始まっており、Corneliusによる何度見ても圧巻の映像とシンクロしたステージを見つめながら暖をとることができた。

キアスモス(Photo by Taio Konishi)

Cornelius(Photo by Taio Konishi)

キアスモス出演時、マジックアワーとRAINBOW STAGE後方の焚き火(Photo by Shiho Sasaki)

ここで本格的な夜に向けてエネルギー補給。ゆぐちの富士宮焼きそばは、もっちりとした太麺がしっかり美味しい。MOONSHINE STAGEから聞こえる石橋英子のバンドセットによる見えない薄い膜で包まれるような歌と、ときに荒々しく火花を散らす演奏に興奮しながらも、会場を囲む山々の稜線から明かりが徐々に消え、星が瞬き始めるのを見てただ癒された。

さていよいよRAINBOW STAGEのトリ、先日ダンス・ミュージックを軸にした素晴らしい最新作『Honey』を発表したばかりのカナダのカリブー(Caribou)が実に9年ぶりとなるバンドセットでの登場だ。踊れる、なおかつ遊び心溢れるサウンドでフロアの中は10月の夜の野外だとは思えないほどアツい。一糸乱れぬバンドの躍動感も凄まじかった。

カリブー(Photo by Taio Konishi)

カリブー(Photo by Taio Konishi)

まだ続くカリブーの演奏に後ろ髪を引かれながらも、いとうせいこう is the poet with 小泉今日子を観にMOONSHINE STAGEへ。かねてからファンだったキョンキョンを生で一目見ようと思っての移動だったが、おもいがけず、そのパフォーマンスは個人的に今回の朝霧JAM最大のハイライトとなった。1曲目に代表曲の一つ「なんてったってアイドル」のアレンジ・バージョン「なんてったってロックフェス」を披露しグッと会場の温度を上げると、独立し株式会社明後日の代表取締役として、何より一人の人間として社会正義に向き合い続けてきた彼女だからこそ一層心に響くメッセージを届けていく。中でも、突き上げるようなメッセージの響く「女性上位万歳」や「友達というよりもバディ/運命変えるのさ」と社会に変化を促すための連帯を歌う新曲「バディ」には胸がいっぱいになってしまった。いとうせいこう is the poet with 小泉今日子のステージが終わった直後にすれ違った女性の泣き腫らした目を、私はしばらく忘れることができないと思う。

いとうせいこう is the poet with 小泉今日子(Photo by Taio Konishi)

いとうせいこう is the poet with 小泉今日子(Photo by Taio Konishi)

その後はテントに戻り、同行者や現地で会った知り合いと感想を交わしながら一杯ひっかける。この瞬間が一番嬉しいかも、なんて思うけれど、それが味わえるのも1日朝霧JAMを満喫したからだ。頭上に広がった星空が本当に綺麗だった。

ここまででお気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、筆者はこの日RAINBOW STAGEとMOONSHINE STAGEのアクトをすべて見ることができた。それはステージ間の移動が苦にならない距離だからだろうし、芝生に座ったり寝転がったりしながら演奏を聞いたり、体力的に無理をしなくても許される、というと言い方が変かもしれないが、みな思い思いに楽しんでいて、鑑賞の仕方を強制するような空気が一切ない朝霧JAMだからこそだろう。それぞれが様々な目的を持って参加するフェスとしてすごく魅力的なポイントだ。

富士山と夜の星空、CAMP SITE Aにて(Photo by Shiho Sasaki)

2日目も見どころ盛りだくさん

2日目は午前10時にRAINBOW STAGEに集まり、朝霧JAM恒例のラジオ体操から。日頃の運動不足を反省しつつ気持ちよく朝をスタートする(実は7:30〜の朝ヨガに参加してさらに健康を目指すつもりが寝坊してしまいました。次回こそ!)。

それから一度テントに戻る道すがら、朝霧食堂でグルグルウインナーと朝限定のプレミアムヨーグルトをゲット。ウインナーはカリカリタイプでヨーグルトは濃厚。美味しい朝食で充電満タンだ。

早朝、我々が宿泊したCAMP SITE Bから見えた富士山と朝日(Photo by Shiho Sasaki)

フォトグラファーは早起きして朝ヨガに参加(Photo by Shiho Sasaki)

ラジオ体操(Photo by Shiho Sasaki)

ラジオ体操のあとは、本門寺重須孝行太鼓保存会のパフォーマンス(Photo by Shiho Sasaki)

朝霧食堂(Photo by Shiho Sasaki)

グルグルウインナーとプレミアムヨーグルト(Photo by Shiho Sasaki)

Homecomingsの白熱した演奏と透き通るような歌声を聞いて爽やかな気分になり、今年3度目の来日ライブだというELEPHANT GYMのトラブルも難なく乗り越えるタフさに胸を打たれ、2日目も最高の滑り出しだ。

続く荒谷翔大は椎名林檎「丸の内サディスティック」のカバーも含むきらめくプレイで観客を湧かせ、JJJは客演にCampanellaやSTUTSを呼び込みつつDJに尺八、箏、コントラバスを交えたセットを「Beautiful Mind」でエモーショナルに締めくくった。

ELEPHANT GYM(Photo by Taio Konishi)

この日も昨日に続いてピーカン照りだったので、安部勇磨のステージはビールを飲みながらゆっくり観ていたのだが、思わず立ち上がって見入ってしまうほど、フレッシュかつどこか懐かしいような、素晴らしいパフォーマンスだった。

森山直太朗は1曲目から「さくら(独唱)」を届け、その後はバックも引き入れて美しい歌声で朝霧JAMを満たしてみせた。ユーモアたっぷりのMCはもはや堂に入ったもの。MONO NO AWAREは2019年の台風で中止になって以来の朝霧JAMということで、2回分の熱さのこもった演奏でMOONSHINE STAGEを躍動させた。

同行した2人と離れた隙に食べた串焼きKOUの富士山ローストディア丼は、普段あまり食べる機会のない鹿肉を使ったものだが、思いの外クセがなく、さっぱりとジューシー。ビールともよく合って至福のときだった。

安部勇磨(Photo by Taio Konishi)

森山直太朗(Photo by Taio Konishi)

そして個人的にこの日の目玉だったトロントのシンガー/ソングライター/プロデューサー/マルチ・インストゥルメンタリスト、シャーロット・デイ・ウィルソン(Charlotte Day Wilson)は想像以上で、ギター、キーボード(サックスもステージにあったが残念ながら実際に吹いているところは見逃してしまった)を見事に演奏しながら滑らかな歌声を聞かせてくれた。その凛とした佇まいがなんとも深く印象に残っている。ぜひまた来日して欲しいものだ。

カナダを拠点に活動する、フランス系カナダ人のシンガー・ソングライター/マルチ奏者、Margaux Sauveによるプロジェクト、Ghostly Kissesは神秘的とさえ言えるオーラを放ちながら踊りも交えたパフォーマンスを披露。ヴァイオリンも歌声もとてつもなく繊細だった。

この後もアクトは残っているが都心への首都圏発着バスプランはそろそろタイムリミットということで、一度荷物をまとめにテントへ。最後は名残惜しさを振り払うようにトッド・テリエ(Todd Terje)のDJセットで踊って筆者の朝霧JAMは終幕。大満足の2日間だった。

シャーロット・デイ・ウィルソン(Photo by Taio Konishi)

Ghostly Kisses(Photo by Taio Konishi)

トッド・テリエ(Photo by Taio Konishi)

今回はRAINBOW STAGEとMOONSHINE STAGEアクトをメインに楽しんだが、DJとパフォーマーが出演するステージや、ドッグラン「どん吉パーク」などを備えた穴場的エリア、CARNIVAL STARからはいつも楽しげな声が聞こえてきたので、次回はそちらもマストでチェックしたい。寝坊して参加を逃した朝ヨガやサウナを含めて、他にもさまざまなワークショップやアクティビティが用意されており、かなり遊びつくしたつもりではあったが次回に向けてたくさんの宿題も持ち帰ることになった2024年の朝霧JAMだった。

CARNIVAL STARの様子(Photo by Shiho Sasaki)